第15話 召喚

「いや……、誘拐とか……、まじか!」


 部屋から二人が消えた場合にどう思われるのだろうか。確かに攫われたと考えるのが一番可能性が高いのか……?

 しかしまだ数時間しか経っていないはずだ。急いで戻れば間に合うんじゃなかろうか。

 つーか行き先を告げないとか常識が……、って王女様が知らない男と異世界に行ってきますとか許可されるはずないか!


「よし、今すぐ戻ろう。……まだ間に合うかもしれないし」


 このまま逃げるのも選択肢のうちの一つと言えばそうだが、そうなると本当に王女様誘拐ということになってしまう。

 であれば王女様だけ帰して終わりということもできそうだが、転送先が元の世界かどうか確信がないまま放置というには後腐れが悪すぎる。

 それにあの世界は今まで回った世界の中でも気に入ってる方だ。色々な国とかも回ってみたいし。

 そんなことを考えながら、本を広げて魔方陣のページを王女様に見せる。


「……帰りたくないです」


 なぜかお断りされてしまった!


「なんで!? このままじゃ俺誘拐犯になっちゃうよ!」


「この世界には面白い物がいっぱいで、もっと見てみたいです!」


 胸の前で両手を合わせ、瞳をうるうるさせて懇願される。

 うう、やめてください。その仕草は卑怯です。可愛すぎてたまりません。


「いやいやいや、また連れてきてあげるから、今は帰ろうよ!」


 早くしないと誘拐犯になる可能性が上がるので俺は冷静でいられない。


「……ホントですか?」


 先ほどの仕草に上目使いをプラスして念押ししてくる王女様。

 思わず頭を撫でたくなる衝動を堪えながらかろうじて返事を絞り出す。


「ええ。必ず。絶対に約束します!」


 それはこんなに可愛い王女様と次回も会えるということに他ならない。絶対に約束は守ります。


「しょうがないですね。では一度帰りましょう」


 なぜしょうがないのか。王女様は俺をそんなに誘拐犯にしたいのか。

 捻くれた考えを抱きながら、不承不承納得してくれた王女様に本を差し出す。

 そして手のひらを本に置くと、その姿が掻き消えたので、俺もそれに続くのだった。




□■□■□■




「よくぞ我が呼び声に答えてくれた! 勇者……たち、よ……?」


 そこは石造りの薄暗い建物の中のようだった。俺たち四人・・は一段高くなった祭壇のようなところに立っており、足元にはうっすらと光を放つ巨大な魔方陣が描かれているのが見える。


「うぬ? 確か召喚したのは二人だと思ったが……。なぜ四人なんじゃ?」


 疑問の声を上げる人物は、白髪の上に王冠を乗せた小太りの、いかにもそれっぽいいで立ちをしている五十代ほどの男だ。

 赤い豪華なマントを身に着けており、やはりどこからどうみても『国王』と言った感じである。その後ろには騎士っぽい人たちと、神官っぽい人たちが数名控えているようだ。


「――は?」


 隣から疑問の声が聞こえる。

 見知った王女様のほかに、十代半ばと思しき制服を着た黒髪黒目の男女がいた。もしかすると高校生といったところだろうか? 声を上げたのは男のほうだったようだ。


「……ちょっと、何よこれ!?」


 女の方はキョロキョロと周囲を見回して、今起こったことを理解できないといった風に見える。


 どう見てもここはモンスターズワールドの世界ではない。どう考えても他の物語の中ではないだろうか。どうしてこうなった。


 ――あ。


「ああああああ!!!」


 重大なことに気が付いて大声で悲鳴を上げる俺。

 そういや、モンスターズワールドのゲームを動かしてたパソコンの電源落としたままだった気がする。ちょっとこれ焦りすぎだろ! 何も考えずに本を使っちまったよ!


「はっ、そうか、すぐ戻ればいいんだ!」


 目をキラキラさせている王女様にそのことを告げて、目の前の国王その他に気づかれないように本を差し出す。


「ええええ、せっかく面白そうな展開なのに……」


 何が面白そうだよ! 話を振った途端に不機嫌になる王女様を宥めつつも本に手のひらを置いてもらう。

 ――が、何も起こらない。


「ええっ!?」


 ちょっ! なんで!? どういうこと!?

 必死になって手を当ててもらうが、やはり何も反応しない。

 その様子を見守っている王女様が、だんだん楽しそうに頬を緩めてきているのを視界の端に捉えつつ、本をくまなく読もうとするが、国王っぽい人がそうはさせてはくれないようだ。


「ふむ。まあよい。勇者殿が多いということは、それだけ勝算も上がるというもの」


 一人で納得している偉そうな人物に向かって、隣にいた少年が食って掛かる。


「おい! なんだよこれ! さっきまで学校の廊下を歩いてただけなのに……。なんだよここは!」


 このやり取りを無視して、これ以上隠れながら本を調べることは無理そうだ。いったんアイテムボックスへと仕舞い、俺たちも同じ被害者面? をすることとしよう。


「おお、これは申し訳ない。勇者殿。

 わしは、このアリアドニス王国を治めておる国王、ゼリフィム・ド・アリアドニスである。

 このたびは勇者召喚の儀式へと応えてくださり真に感謝する。ぜひ我が王国を救っていただきたい」

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