第7話 モンスターズワールド -剣士-

「みなさん、魔王軍に負けないようがんばってくださいね。フィアリーシスは皆さんを応援しています」


「「「「「うおおおーーー!!!」」」」」


 モンスターズワールドの初期舞台であるブレイブリス王国の兵舎訓練場で、フィアリーシス・フォン・ブレイブリス第三王女殿下が激励を飛ばしていた。

 腰まで届く赤みがかった金髪に碧眼、くりっとした大きい瞳に鼻筋の通ったすらっとした体型の美少女だ。

 そう、このゲームは宿敵である魔王討伐に集った傭兵、冒険者、騎士たちに王女自らが激励を飛ばすところから始まる。


 集まった男どもは歓声を上げて応えている。士気はばっちりだ。

 と言ってもこれから戦闘というわけでもなく、むしろ自由行動なんだけどね。

 そこまで自由度の高いゲームではないので、ここから各種職業に合った行動を取れるようになるんだが、生産系の職業になって直接戦闘に参加しないという選択肢はない。

 が、ゲームオープニングイベントとも呼べるこの場所に集まっているのは、当たり前だが初心者・駆け出しという設定なのだ。伊達にイージーモードなゲームを選んだわけではない。


 しかしあれだな。さすがに王女様かわいい。じーっと見つめていると目が合った……、ような気がする。

 うん、自意識過剰だな。気のせい気のせい。ずっと見られてる気がしないでもないけど、後ろの人だよね。墓穴は掘らないようにしないとね。


 一旦この場は解散となり、それぞれの目的地へと分かれていく。街の中にそれぞれの職業に就ける場所があり、集まったほとんどの人がそちらに向かっている。

 今回なろうと思った職業は剣士だ。モニタ越しでプレイしていたときは、マウスとキーボードではなくコントローラーを使っていた。これによって操作性が上がり、コンボなども決めやすくなるアクション性に富んだゲームだった。

 そんなゲームだからかあまり魔法使い系の数は少なく、実際に剣士という職業が優遇されているように思う。


 兵舎訓練場から、剣士へ転職させてくれる騎士団の詰め所までのんびりと向かう。

 持っている例の本は邪魔なので、歩きながら背中のリュックに仕舞う。ふっふっふ。使えそうな道具はリュックに詰めてきたのだよ。

 王宮のすぐ東側が兵舎エリアになっているが、詰め所は交番の役割も兼ねているため、街の各ポイントに散らばっている。今から向かっているのは中央にある詰め所本部だ。


 一階部分が石造りでそれより上が木造という造りの建物が多い。だいたい高くても三階建てだろうか。大通りには主に食べ物を売る露店が並び、香ばしいにおいを漂わせている。他には武具店や薬屋、魔道具屋なんてものもある。

 詰め所に着くと剣士受付の看板が出ていた。さすが日本向けのゲームだからか、文字も日本語だ。看板に沿って詰め所の中に入っていく。


「お、剣士志望か?」


 カウンターで肘をついて斜め上をぼけっと見上げていた男がこちらに気づいて声を掛けてきた。


「あ、はい」


「じゃあここに名前を書いてくんな」


 日本語で色々な人の名前が記載された名簿がカウンターに置かれている。ペンを取って自分の名前を書いていく。


「ありがとさん。これでお前も剣士だな! 一応ステータスで職業が剣士になっているか確認しておけよ!」


 あれ。これで終わりなのか? こっちのゲームではほぼ自己申告みたいな感じなのかな。まあいいか、ステータスを確認してみるか。


「はい、ありがとうございます!」


 さてと。


 ――――――――――――――――――

 名前:サワノイ マコト

 種族:人族

 性別:男

 年齢:31

 職業:マジシャン Lv6

    剣士 Lv1


 Lv:6

 HP:549/549

 MP:669/669

 STR:54

 VIT:48

 AGI:43

 INT:88

 DEX:43

 LUK:175


 スキル:

 火【フレアアローLv2】

 水【ウォーターボールLv2】

 風【ウィンドカッターLv3】【エアハンマーLv1】

 土【アーススパイクLv1】

 剣【ハードアタックLv1】


 特殊スキル:

 【アイテムボックスLv2】

 【身体強化Lv1】

 ――――――――――――――――――


 ……あれ? なんでマジシャン残ってんの? いやいや、そもそもこのゲームは『魔術師』はいても『マジシャン』って職業ないし。しかも剣士と兼業かよ! ステータス表示もアルファベットになってるし……。

 つーか剣士なのにマジシャンのときのステータスが残ってて魔法が使えるって、かなり卑怯というかチートというか。

 いやいや、もしかすると表記だけで使えない可能性もあるか……?


 もうなんかいろいろおかしい。落ち着け。とりあえず落ち着くんだ。とにかく深呼吸だ。


 ――すー、はー。


 よし、落ち着いた。次行ってみよう。

 次はアイテムボックスだな。ウィンドウを開くだけならすぐにでも試せるな。


 おぉ、開けるじゃん。しかもロードライフオンラインで入手したアイテムまで入ったままだし。どうなってんのこれ? アイテムボックスから出した瞬間にバグるとかないよね?

 昔何かのゲームで、未実装のアイテムがアイテム欄にあると、そのアイテムが入っているページに切り替えるとゲームクライアントが落ちるとかいうバグが出たことを思い出す。

 いや、すでにページ開いてるし大丈夫かな。


 ちょっとここだとまずいかな。人気ひとけのないところにでも行くか……。

 詰め所を出ようと入り口へ顔を向けたとき、ちょうどそこに誰かが入ってきたところだった。のんびり来たから俺が最後だと思ってたけど、まだ剣士候補の人がいたのかな?

 と思っていたのだがそうではないようだった。カウンターへは行かずに俺の前で立ち止まり、こちらを興味深げに眺めるのは――。


「――フィアリーシス王女!?」

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