砂糖菓子のパラソルでは寄り添えない(7)
昼休みになるのを待って、私は2-C教室を出た。正木先輩の奇行の謎を解き明かすのに、人の知恵を借りることにしたのだ。名取先輩に『ひとりで抱え込みすぎるな』と言われたことが影響したのかもしれない。もっとも先輩のアドバイスは生徒会の業務についてのもので、こういう応用は想定外だと思うけれど。
五十海東高にはこの手の謎を解くのにうってつけの人物がいる。私の友人で、生徒会でも付き合いのある川原鮎だ。彼女には先だっての文化祭で起きた事件をさながら推理小説の名探偵の如くに解決へと導いた実績があった。夏に起きた高校生連続転落死事件の解決にも貢献したと聞いている。
しかし私は鮎のいる2-A教室には向かわず、その手前の2-B教室に足を踏み入れた。
「
顔見知りの女子に声を掛けると、すぐに本人を呼びに向かってくれた。窓側の後ろから二番目の席。クラスに友達がいないのだろうか? ひとり、左手に持った大学ノートを睨むように見つめながら、右手だけで器用にサンドイッチの袋を開けている。それが、敷島
クラスの女子に声を掛けられた敷島君は、不機嫌そうに私を一瞥した後で、のっそりと立ち上がって、こちらへと近づいてきた。
「老松か。今日は何の用だ」
とんだご挨拶だが、彼の場合はこれが普通である。むしろごはん時に声をかけてこれなら上出来と言えるかも知れない。
「お昼休み中にごめんね。実は敷島君に折り入って相談したいことがあって」
「……謎解きか?」
東高サッカー部の敏腕マネージャーとして知られる敷島君だが、彼にはもうひとつ別の顔がある。高校生探偵・川原鮎の助手としての顔である。文化祭の事件の時も、鮎のことを陰から支え、事件の解決に大きく寄与したという。
実のところ私は、敷島君こそが本当の高校生探偵で、鮎はその助手――それも推理小説に出てくるような頼り甲斐のない探偵助手に過ぎないのではないかと疑っている。少なくとも文化祭の事件の発端ともいうべき出来事について私と鮎、それに敷島君の三人で話をした時の印象はそうだった。
そういうわけで私は鮎ではなく敷島君を頼ったのだった。
「お前なら川原に直接頼めば良いと思うんだが」
しかしまあ敷島君ならこう言うだろう。
「先代の生徒会の名誉にも関わることだから、あまりことを大きくしたくないの」
「ああ見えて川原は口が固いぞ」
「わかってる。でも、敷島君は正木先輩と仲が良かったよね?」
私の言葉に、彼はふむと考えこんだ。
「予算折衝で少々絡んだことがあるくらいで別段親しいわけじゃないんだがな。しかしまぁ、わざわざ名前を出すくらいだから、老松にも考えがあるんだろう。わかったよ。俺でよければ話を聞こう」
そうして私たちは生徒会室へと向かった。先代の頃は昼休みにも誰かしら人がいたけれど、代替わりしてからは私以外に足を運ぶ者はほとんどいない。少し寂しくはあるけれど、密談にはもってこいなのだ。
案の定生徒会室は無人だった。私は円卓の周りに置かれた椅子のひとつを引いて、敷島君に勧めると、自身もその隣の椅子に腰を落ち着ける。
「それは?」
敷島君が円卓の上に置いたままの紙袋を見やって尋ねる。
「あ、これ? キャンディーだよ。昨日正木先輩が差し入れにって、持ってきてくれたの」
「へぇ」
「じゃあ、その辺りから話していこうか」
敷島君が「任せる」と言ったので、私は昨日の出来事を、正木先輩が生徒会室を訪れたところから順々に説明することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます