砂糖菓子のパラソルでは寄り添えない(4)
再び生徒会室で一人になった私は、まだほんの少しだけ中身が残っている自分の紙コップを見つめながら、正木先輩と出会った時のことを思い出す。
私が正木先輩と出会ったのは、名取先輩に誘われて生徒会に入った時、ではない。実はその少し前――昨年の夏に生徒会とは関係ないところで出会っているのだ。少なくとも私の方はそうだった。
五十海東高校では夏休み前にも球技大会が開催される。種目は男子サッカー、男子バスケ、女子バレー、女子バスケ、それに男女混合の卓球の五つ。クラスごとチームを編成し、トーナメント形式で勝敗を競うことになる。
その最終日となる三日目の午後。球技大会委員の一人だった私は、閉会式の準備のため、校内をせかせかと走っていた。
「お前ら、喜べ!」
2-D教室の前を通りがかったところで、中から大きな声が聞こえて、私は思わず足を止めた。
「
大きな声を出す男の周囲がどよめき、そして歓声を上げた。
「さっすが、小津間センセーは話がわかる!」
「なぁ正木、バナナはおやつに入るのか? バナナはおやつに入るのか?」
誰かが大きな声の男に向かって尋ねると、周りがけらけらと笑いだす。
「こいつベタだなー」
「っていうかシマパンにバナナ売ってねえよ」
「正木はどう思う?」
バナナに拘泥する男が厳しい突っ込みにめげずに尋ねると、正木と呼ばれた男はしばらく考えてからこう言ったのだ。
「わからん。しかし、少なくとも与謝野晶子の中には入ると思うぞ」
正木さんの周囲にいた男子生徒は、その言葉の意味がよく理解できなかったようで「何だよそれー」「正木はバカのくせに時々難しいこと言うよな」「良いからさっさと行こーぜ」などと言い合っていた。
正木さんの他にただ一人、彼のジョークの下品さに気づいてしまった私は、廊下の隅で顔のほてりが収まるまでうずくまっていた。正木さんとそのクラスメートたちがシマパンへと向かって走っていったその後も、ずっと。
与謝野鉄幹と正木学は晶子に謝罪すべきである。もちろん、私にも。
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