一日の流れ
施設にはいろいろな利用者がいた
車椅子の人や寝たきりの人
もちろん自分で歩ける人もいる
施設と言って思い描くのは何だろう
利用者はお金を支払っている
残りの余生を穏やかに過ごす場所……のはず
しかし自由はない
そこの施設は利用者が好きなものを食べたり飲んだりする事は出来ない
勿論買い物も年に一度行けるかどうかだ
要するに職員が面倒くさがる
時間がかかるのが嫌なのだ
基本、グループホームは利用者も一緒に掃除をしたり食事を作ったりする場所
しかしそこは「汚い!危ない!」の一言で何もさせない
料理は勿論、庭があっても自由に出る事は出来ない
洗濯ものもたたませない
掃除や料理、洗濯など利用者が完璧に出来なくてもいいのだ
いわゆるリハビリなのだから頭を使ったり手足を動かす事が重要
しかし、その施設はそれすらもさせない
理由は簡単、何か起きたら面倒だから
高齢者は転ぶと大怪我になりかねない
だから何もさせない
介護施設と病院の違いは大きい
介護施設ではベッドから転倒の危険があってもフェンスはつけられない
拘束も出来ない
だからと言って24時間見張る事は不可能
ではどうするのか?
車椅子の人達は転倒しないようにと紐で固定する
勿論家族にも説明して了解を得る
家族とは非情だと感じる時もある
施設に入れたら最後、面会などめったに来ないのだ
確かに息子や娘を「誰?」と言う親には会いたくないかも知れないが、だからと言って顔も見せないと言うのはどうだろう
利用者は常に家族が来るのを待っている
来なければ自分で行くと言い出して荷物を持って外に出ようとする
出られない事がわかっていても出ようとする、いや会いに行こうとする
それをなだめ、落ち着かせるには時間がかかるがやるしかない
しかし、家族には家族の理由や事情もある
そこまで立ち入る事は出来ないのだ
グループホーム(GH)の一日の流れはこうだ
他の施設は違うかも知れないが私の勤めていた所の流れを説明するとこんな感じだ
朝7時起床、早番が起床を促し着替えをさせる
8時朝食、夜勤者が朝食を作り一緒に食べる
食事は普通食と刻み食
正直、刻み食でもむせる利用者はいる
とろみと言って食事にとろみをつける物はあっても使わない
寝たきりの利用者の場合、無理矢理口に押し込んで食べさせる
それだけでもう立派な虐待となるがきっとどこでも同じ事をしているのだろう
認知の人は食べる事すら忘れてしまう、だから無理やりにでも食べさせる
もっともな意見だが果たして本当に食べる事を忘れてしまったのだろうか?
ちゃんと説明して食介を行えば安心して食べてくれるのではないだろうか?
いきなり無言で口に食べ物を押し込まれたら誰でも驚くのではないだろうか?
介護未経験の私だが、それなりの疑問も浮かんで来るが何も言えない
介護は経験が全て
何の資格もない人間に意見など言えるわけもなく、私に出来る事はせめて声をかけながら食事をさせるしかない
しかしそれすらも許されない
時間がかかると言う理由だけで無理矢理スプーンを取り上げられ押し込まれてしまう
食介が必要な利用者にはエプロンをつける
こぼすのは仕方がない事だ
手が自由に動かないのだから
しかし食べこぼしを見て職員は大声で言う
「汚い!」
そう、言葉の暴力
利用者のAさんはほぼ寝たきりの利用者
意思疎通は難しい
体も硬直して移動は車椅子で行う
Aさんは昔踊りの名取だったらしい
部屋には昔の写真がたくさん飾られている
お弟子さんもたくさん写っている
いつも眠っていて起きている時は少ない
食事が終わったらすぐ寝かせてしまう毎日
この人は毎日、夢を見ているのだろうか?
せめて夢の中では楽しく過ごして欲しいと願うしかない
食事が終わると散歩に出かける
一見、散歩は気分転換になっていいと思うが、毎日同じコースをただ歩くだけ
季節の移り変わりを言葉で表現する時間すらない
それが身についてしまった利用者はただ無言で歩くだけ
楽しそうな笑顔は見られない
まるで軍隊の行進だ
散歩が終わるとリハビリを兼ねて、ぬりえと計算をさせる
毎日毎日それは変わらない
利用者はそれが与えられた仕事だと思い込んでいるので黙々とやるのだ
職員はその間、洗濯をする
しかし洗濯が終われば椅子に腰かけて新聞広告を見ている
利用者は放置したまま
11時になるとDVDをつけて体操を始める
体を動かす事は大切だが体を動かす事すら面倒くさくなっている利用者もいる
そういう人は無視する、あえて体操を促したりはしない
体操が終わると昼食までの時間は自由
ほとんどテレビを観ている
12時になると例えテレビが途中でも無理矢理席に着かせる
利用者は文句も言わず席に着く
食事が終わると30分間休むことは出来ない
理由としては消化に悪いと言う理由
しかし休みたい人もいる
勝手に部屋に戻り横になると無理矢理起こし座らせる
自分の居室があっても自分の安らげる場所ではない
何故なら職員全員がカギを持っているから
中から鍵をかけても開ける事が出来る
名目上は安全の為だが、これではまるで牢屋だ
1時になるとバイタルチェック
そして漸く自由になれる
とは言え、ほとんどの利用者がソファーに腰掛けぼーっとテレビを観ているだけ
入浴日は2時から順番に入浴する
高齢者はみんなお風呂が好きだが一人の入浴時間は10分以内
湯船に浸かる時間はほんの僅かしかない
移動が難しい人は湯船には入れずシャワーのみで終わらせる
手を貸せば湯船に入れる人もいる
介護者が手を貸せばいいだけの事
「Bさんを湯船に入れてもいいですか?」
「駄目!」
「えっ?」
「その人は中で失禁するから」
「わかりました」
そこのGHはお湯を入れ替えたりしない
一日4人同じお湯で済ませる
湯船に入る人は限られている
髪の毛が浮いていれば網ですくうだけ
いわゆる節約と言う名目上なのだがよく病気にならないものだと感心する
中にはお風呂場で便をしてしまう人もいる
それは仕方がない不可抗力だが職員は大声で罵倒に近い言葉を浴びせる
「汚い!臭い!」
体は綺麗になっても心はすさんでしまうだろう
例え認知症でも心の中はどうだろう
「申し訳ない」「ごめんなさい」と思っているのではないだろうか?
なのに馬頭されたらその人の心はどうなるのだろう
入浴が無い人達は2時になるとレクリエーションを楽しむ
楽しむのが本来の目的だがここでは強制的にやらされる
毎日毎日トランプで七並べかかるた
笑顔もなく淡々とやる
一応やれば記録に書くことが出来る
それだけの為にやらされる
3時になるとおやつが出される
安いお菓子とコーヒー
それでも甘いものに飢えている利用者は美味しそうに食べる
5時からまた体操
体操が終わると6時の夕食までまたテレビを観る
食事が終わると口腔ケア
ほとんどが入れ歯なのでその時に外すのだが、自分で外せない人は無理矢理指を入れて外す
7時にはみんな居室に戻り漸く一日が終わる
例えテレビを観ていても寝かせてしまう
要するに夜勤者は楽がしたいのだ
夜勤の見回りは2時間おき
多分やっていない人もいるかも知れない
まだクリアな利用者が教えてくれた
「あの人は夜いつもそこで寝てる」
そこのGHには重病を抱えている人はいないので考えてみれば夜勤ほど楽な仕事は無い
夜勤者は一人なので何をしてもばれないのだから
夢の中の悲しい小鳥 月舟まをり @0122217
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。夢の中の悲しい小鳥の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます