第1-4話 異形っ娘の聞きたかったコト
「話したかったことなんだけどさ…私のこのカラダ、どう?」
「えっ?どう…って…?どういうこと?」
常彦は樹の放ったあまりにも大雑把な質問に困惑し、言葉を詰まらせる。
「やっぱりこんなカラダ気持ち悪いかな?」
黙りこんだ常彦を見て、樹は妖しく微笑みながら重ねて問う、しかしその蠱惑的な表情とは裏腹に彼女の声色はとても平坦で、その質問に込められた感情は分からない。
いつも通りの自由奔放な樹かと思えば、そこにある意図を見せようとしない姿ははっきり言って不気味だ。
未だ理解の追いつかない常彦は、樹の意図がなんなのか考える時間を作るため、苦し紛れに口を開く。つまるところ「逃げ」だ。
「い、いきなりどうかと聞かれてもな…お前も状況も飲みこめてないだろ?まず、どうしてそんなコトになったのかを考えよう。話はそれからにして…」
よし!樹に起こった状況の確認をしつつ、時間稼ぎができる!とっさに出たセリフながらなかなかにいい手ではないか?そんなことを考えていると、すぐに樹から返事が返ってくる。
「わかることは昼寝して起きたらこうなってた…!これに尽きるけど…いやーびっくりしたよ。」
「びっくりしたって…」
彼女はとんでもないことをケタケタと笑いながら言ってくる。その上、逃げ場も塞がれてしまった。
「あ、でもびっくりしたと言えば、コレがあったわ。つねひこ、驚くと思うけど、ちょっと見ててね。これはちゃんと見せておきたいし。」
唖然とする常彦を尻目に、樹は小さく深呼吸をすると、キッと表情を引き締めて右腕を前に突きだし、そこから生える触手達ををくねくねと動かし始める。とてつもなく真面目な表情で真剣に触手を動かしている姿はどこかシュールに見えるが、そんなことを指摘出来る余裕があるほど常彦の心臓は強くない。
「何やってるんだ?」
「まぁ見てなって、これがニュー樹ちゃんの実力だよ?」
どや顔で返事をするが答えになってない、そうこうしている間に二の腕から生える五本の触手が、のたうち回る蛇の様に互いに絡み合い、形を変えてゆく、暫く経つと変化が止まり、そこにあるのはただの人間の腕だった。つい先ほどまではタコ足のような触手の束だった右腕を、捻ってより合わせることによって人の腕の形に
「えっ?えぇっ?!」
触手を見ていたと思っていたらいきなり見慣れたものが現れ、不意を突かれた常彦は手品を見せられた人ような声をあげる。
「これだけじゃないよ、それっ。」
そして、常彦の驚愕も冷めぬうちに樹は軽い掛け声とともに、自分の側頭部に勢い良く右手を突き刺した。
「ンなッ?!」
常彦が悲鳴をあげると同時にパキャリ、と骨のひしゃげる音が鳴り響き、赤黒い飛沫と共に部屋の中に鉄臭い匂いが溢れる。樹はそのまま眉ひとつ動かさず、ぐちゃり、こぽり、と水っぽい音を立てながら突き刺した右手で頭の中をかき回す。
「えっ、おい…なにやってんだよ…お前…」
「あぁ、平気平気。」
目の前の光景に対する理解とのいたちごっこ繰り広げる常彦をよそに、頭から新鮮な飛沫を撒き散らす樹はなんでもないように答える。
一通りかき回した思うと、今度は頭から右手を引き抜き、手から滴る血と脳漿を大きな蛭のような長い舌で美味しそうにペロペロと舐めとりながら常彦に向き直り、真っ赤に染まった口元をティッシュで雑に拭うと、ケラケラと苦笑しながらこう告げる。
「…こんな風に、何故かはわかんないんだけど、この姿になった時から自分に何が、どこまで出来るのかが大体わかってたんだよね。それでも、まさか自分で脳味噌をぐちゃぐちゃに壊しても平気どころか、おやつ代わりに出来るなんて、実際にやってみるまでは思ってもみなかったけどね。」
その光景は今まで平凡にぼんやりと生きてきた者にとって、完全に常識の範疇から突き抜けていた。
そんなモノを直視した常彦はまたも気を失いそうになるが、ギリギリのところでなんとか踏みとどまる。
「お、おい、大丈夫なのか…?あんなことして…本当に…?」
「うん、大丈夫。ほら見て、もう傷も残ってないし、会話にも問題無いでしょ?」
常彦は顔面蒼白になりながらも樹に向かって口を開く、それを受けた樹はけろりとした様子で先程まで右手が突き刺さっていた側頭部を見せつけるが、そこには傷跡どころか血痕すら残っていなかった。
「と、まぁこんな感じで私ってば不死身の怪物になっちゃったんだ。」
樹は再び声色を平坦なものに戻し、微笑みながら問いかける。
「それじゃあ、今度は答えてくれると嬉しいな。」
その表情は先ほどと同じような妖しい笑みだったが、先ほどとは違い、常彦はその微笑みに込められた感情を読み取ることができた。
彼女は
「私のカラダ…いや、異形の怪物になっちゃった私をどう思う?こんな私でも、つねひこは私を私と認めてくれる?」
樹からの問いかけに対し、常彦は……
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