第5話

 結局来てしまった……。


 半ば強制的な突然の水木からの招集。

 いったい何の用事で呼び出したのか、本当に遊びたかっただけ?



 前日にあんなことがあったと言うのにーー




「お待たせ〜!」



 見慣れない私服姿の水木が小走りながら手を振って来ていた。



「おーう、なんだよ突然」




「んー?遊びたくなったから誘っただけだよ?ダメだった?」




 ぐっ……ダメじゃないけど……なんか複雑!

「ダメではないんだけどさ、そういうのは前日に伝えようよ」



 水木は下を向きながら顎に手を付けて考えていた。

「それもそうだね〜ごめんね突然呼び出しちゃって」



「ま、いいけどさ」



「ふふ〜」

 水木がニヤニヤしていた。




「な、なんだよ」





「いやぁ〜神崎君と遊ぶのって初めてじゃない?それにあの河原以来!なんかワクワクしてきたよっ!」


 やっぱりあの頃から水木変わってないや、そう思うと少し安堵にも似た気持ちを抱いた。





「で、今日はどこ行くか決まってるのか?」




 水木が人差し指をピンと伸ばして得意げに言った

「ふふ〜ん、今日行くのは買い物と映画館だよ!」




「なんだ、思ったより普通だな」




「シンプルイズ!ベスト!だからね!」


 それはまた違うんじゃないか……?


 水木は少しアホな子なんだな。


 とりあえずスルーした。



「映画はいいとして、買い物って何か買いたいものでもあるの?」




「神崎君。ここはショッピングモールだよ〜?何だってあるさ!」

 水木はやれやれとでも言わんばかりに頭を横に振っていた。



 ーーなんかこいつキャラ違くないか?



「要するにただ適当な店ふらついて色々見ようってことか」




 すると水木は目をキラキラさせてこっちに寄ってきた。

「そうそう!そうだよ神崎君!」




「わかったよ、ここまで来たからには最後まで付き合うよ」



「じゃあ!レッツゴー!」

 やたら気合いを入れて出発した水木であった……。


 なにこれ。






 よし、とりあえず神崎君を遊びに誘うことは成功した。

 良くやった私ぃ〜!



 でもさこれってーー



 デートだよね……!?


 違うかな、けど男女二人きりで遊んでたらそれはデートと言っていいはず!!




 とうとう念願のあの子を見つけてしかもデートだなんてーー




 どうしよう。緊張してきたぁぁぁっ!!








 さて、俺達が今いるのは大型雑貨チェーン店【LAFT】だ。

 ここって店内お洒落だし面白い商品も多いから個人的にはお気に入りだ。



 水木が我々男子にはよくわからん化粧品の数々を見た後に今度は文房具コーナーを二人で見ていた。



「ねね、神崎君!」


 不意に水木が動物の形をした付箋を俺に差し出してきた。



「なにこの愛想悪いパンダ」




「神崎君にそっくりじゃない〜?」

 満面の笑みでそう告げてきた。



「なに俺ってこんなに愛想悪い?」




「うん、悪い」



 そこで真顔になるなよ……。



「ムカついたからちょっと買ってくるわ。だんだん、このパンダに愛着が湧いてきた」




「学校に毎日持ってきてね〜」

 ニタニタ嬉しそうに言ってきた。



「お前も道連れだ」



「え」

 俺はパンダの付箋を二つ購入し、一つを水木に渡す事にした。



「あ、ありがとう……。」

 彼女は俯きながらお礼を言った。




「どういたしまして」



 か、か、か、神崎君とお揃いぃぃ〜!?

 待って待って待って……!?

 このパンダを学校に持っていくのはちょっと抵抗あるけどーー





 ちょっと嬉しいかなーー





「これ!大切に使うね!!!」

 あの頃から変わらないパァっと華が咲いたような笑顔を水木は浮かべていた。



「お、おう……」


 なんで思いのほか喜んじゃってるの?嫌がらせのつもりだったのにーー



 さて



【LAFT】から少し歩き今度は駅前の映画館に俺と水木は来ていた。



「私これが観たかったの!!」



「これ今大ヒットしてる映画だっけ?」




「そう!!優ちゃんがすっごく感動したって言ってたからお手並み拝見だね〜」



 早乙女が観たらなんでも感動しそうなイメージあるけどなぁ……。



「まぁ俺も気になってたからいいよ」



「やったぁー!!」

 両手をバンザイして喜んでいた。

 どんだけ単純なんだこの子。



「チケット買ってくるわ」



「あ、じゃあ私は飲み物買ってくるね〜」


 俺達は一旦分かれることにした。





 10分後ーー




 無事にチケットと飲み物をゲットした俺達は既に席に座り上映するまで待機している状態だった。




「優ちゃんが感動したとか言ってたけど、優ちゃんなんでもすぐ感動しそうだしねぇ〜」




「なんだ、水木も同じこと思ってたのか」




「そりゃあね〜優ちゃん感情に素直な子だからさ〜」


 あの、そこに関してはあなたも負けてないですよ水木さんーー




「ま、とりあえずこれ観て月曜日は早乙女と映画の話題で持ち切りだな」





「そだね!!とりあえず楽しもう!」



 ーー映画が上映されたーー




 2時間後ーー




 予想以上に面白かった……。

 これは大ヒットするわけだわ、普通に感動したぞ。



「水木はどうだっ……」

 言葉が止まった。








「がんざぎぐぅん……」





 聞かずとも既に号泣していた。




 やっぱり早乙女よりあなたのが感情に素直だと思いますよ?






「ど、どうした?面白かったのか?」





「これはなげるねぇ……グスッ……(訳=これは泣けるねぇ)」





「わかった、とりあえず落ち着くまでここにいようか」





 俺達はそのまま暫し待機する事にしたーー

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