第3話

 水木宅




 うぅぅぅぅぅぅ!!!!

 ぷはぁっ! !






 なんで湯船で潜ってるんだろ私……。




「はぁはぁ……神崎君……」





 ホントに神崎君があの人なら……今日の手を差し伸べてくれたことも辻褄が合う……。






 でもどうしよ、もしそうなら私の好きな人だってこと……だよね……?

 しかも神崎君も会いたがってるって言ってた……。





 葵の顔がカァーっと赤くなっていた。





「ダメだダメだダメだ!!!そんなわけないもん!

 神崎君がまさか……それにあの人とは感じが違うし」







 4時間前ーー





『お、おい?水木?』





 もしかしてーーあの人なの?





『おい!?どうかしたのか?聞こえてるか?』





『あ、ああー!なんでもない!ちょっと私も似たようなこと考えたことあるなーって思ってさ!』





『ホントか?どこか具合が悪いとか……』





『ホントだってばー!信じてよ~!』






『まぁならいいけどさ』






 さっきの水木の反応は普通じゃなかった……どこか動揺してるようにも見えた……。いったいなにがーー






『じゃ、じゃあ!家こっちだから!またね!神崎君!』





『あ、ああ、また明日』





 今日変な態度とっちゃって嫌われちゃったかな……?

 明日からちゃんと神崎君と話せるかなぁ。





「よし!とりあえず確証はないんだから気にしないでいよう!さて、そろそろお風呂でよ~っと」









 神崎 宅






「はぁぁぁ……疲れた……」

 帰って早々俺はベットの上に飛び込んだ。






 それにしても……あの反応。





 まさか……!水木があの子だったのか?





 いや、まさか…… そんなバカな……だいたいあの子が俺のことなんて覚えているわけが……。





 明日直接水木に確認してみるか?

 でも仮に本人だったら……俺はどうするのだろう。





 ふと、父の言葉が頭に過ぎる。

『常に悔いの残らない選択をしろ。人生は選択肢の連続だ。さぁお前ならどうする?』





「……俺なら…………」






 悔いの残らない選択……か……。





 明日聞いてみるか。





 そのままいつの間にか俺は深い眠りについた。







 翌朝





((((((((ジリィィィィィ)))))))





「んぅ……ねむ……」





 俺はそのままいつも通り学校に登校した。





 教室





 キーンコーンカーンコーン





「おはよ~優ちゃん風邪治ったのー!?」





「あーおはよー!葵ちゃん久しぶりだね!!

 おかげさまですっかり治っちゃったよ~」





「久しぶり~そっかー!優ちゃんいなくて寂しかったよぉ~」





「ははは~また今日からは一緒だから安心してよ~」





「うん!!」





 水木のやつ楽しそうだな……。




「祐也ー!おーっす!相変わらずボケーっとしてるな」





 俺は声のする方へ顔を向けた。





「んー?健人か……おーっす、それと最後の一言は余計だ」








 俺の友人である菅原健人 、いいやつなことには変わりないがこいつといると目立って仕方ないから俺はあまり一緒にいたいと思わないんだよなぁ……。





「で?クラスの人気者、いや学校の人気者菅原健人様がこの卑屈な僕に何かご用ですか?」





「ははは、そりゃないだろ~親友の所に用がなかったら来ちゃダメなのかよ」







 親友、ね……。悪くない響きだな。





「いや、別にダメではないけどさ俺とばかり一緒にいたら風評被害にあうぞ?」





 健人は微笑みながら言った。

「その時はその誤解を解くだけさ」





「お前……そのルックスでさらにその性格とか……反則だろ」





「なにをバカなこと言ってるんだよ、祐也だって結構モテてるだろ?」





「はぁ?俺が?そんなわけないだろ?なに?嫌味?」

 ちょっと流石にその皮肉はグッときたね……。






「そんなわけないだろ?ほら、お前の隣の水木さんとかさ……よく祐也のこと見てるぜ?」

 そう小声で言ってきた。




「なっ!?は、はぁぁー!?そんなことあるわけないだろ!?」

 昨日の出来事があった分余計に動揺してしまった。





「お?お前も案外満更でもないのか?」

 健人はふてぶてしく笑っていた。





「だから!……いや、やめておこう。お前と言い合いして勝てる気がしないし」

 だってこいつから言われると説得力ありまくりなんだよ。





「ははっ、そうかい。おっと、そろそろ授業が始まるなじゃあ頑張れよ~」

 からかい口調でそのまま自分の席に戻っていった。





 キーンコーンカーンコーン

 一時限目のチャイムが鳴った。





 ふと、隣のを見る。 そこには水木が……水木もこちらを見ていた。






 な、な、な、……水木と目が合った。

 そのままお互い5秒程見つめあっているような状態になっていた。

 しかし水木の顔は見る見るうちに赤くなっている。





 な、な、な、……神崎君と目が合ったぁぁ。

 でもどうして私の方見てるんだろ。

 ダメだ!これ以上見られたら絶対顔が赤くなっちゃう! 目を逸らさないと!





 お互い目を逸らした。

 何故水木は赤くなっていたのだろうか。






 そういえば後であの事も聞かないと。

 でも健人にあんな事言われたあとでまともに話すことができるだろうか……。くそぉ、健人のやつ……。





 その日の授業中も神崎祐也と水木葵はあの日のことを考えていた。





 4時限目が終わり、昼休みになった。





 やはり昨日のことが引っかかり水木の方へ目を向ける。

 しかし早乙女と一緒に仲良く昼食をとっていた。





 流石にあれじゃあ聞けないなぁ……。

 仕方ない、俺も弁当食べるか。





 突然聞き慣れた声が聞こえてきた。

「よぉー祐也!一緒に昼飯食べよーぜ!」





「健人か……」





「なんだよそのリアクションは~嫌なのか?」





「嫌とかじゃなくてだな、ただ驚いただけだよ」






「おーうそうかそうかそれなら良かったぞ

 あ、それはそうと祐也~さっきの現代文の授業のやつなんだよ~」








 ん?現代文?なにかあったっけか……。





「現代文がどうかしたのか?」





「ああ、さっき座右の銘を書け!みたいな項目がプリントにあっただろ?それでさ~」

 健人の言葉が途中で途切れた。理由はまぁ、いつものあれだな……。





「け、健人君?良かったら一緒にお昼食べない!?」

 どうやら今日は隣のクラスの女子がわざわざお誘いをしに来たようだった。





「あーっと、ごめんね?今日は祐也と食べるつもりだったからさ~君さえ良ければまた違う日でもいいかな?」





 その女子は パァっと明るい表情を浮かべ

「うんっ!!」

 と言って教室を去っていった。





 にしても……神対応ってこういうことを言うんだな。

 ふむふむ勉強になります。




「流石は菅原健人様、モテモテで毎日楽しそうですなぁ」

さっきの仕返しに皮肉をたっぷり込めて言った。




「そんなんじゃないってば、祐也だってほら、水木……」



「あーー!!!悪かった!!!俺が悪かったから健人君!今はその話やめとこうな!?」




「なんだよ〜これからが面白くなるのに〜」




こいつ……絶対隣に水木がいるからわざと言ったな……。



「あ、そうだ!それよりさっきの話しどこまで話したっけ?」




「あー、確か現代文のプリントで座右の銘の項目がどうのって話だったぞ」





「そうだそれだ!それでさーお前のプリントをチラッと見たんだけどあまり見慣れないことが書いてあったからさ気になって見たんだけど……ははっ」





 健人は何かを思い出して笑っていた。





「な、なんだよ」





「ははっ悪い悪い、あれなんなんだ?誰か偉人のありがたーいお言葉か?」





「ああ、なんだそんなことか」





「で、しっかり見てないんだけどなんて書いてあったんだ?」




「常に悔いの残らない選択をしろ。だよ」





「ん!?」

 水木が突然こちらに目を向けてきた。





「へ?どうしたの?葵ちゃん?」

 驚いた様子の早乙女が声をかけた。





「い、いや……なん……でもないよ!?」





「そう?ならいいけど」





「ちょっとさ、優ちゃん?私お手洗い行ってくるね」

 その時水木はチラッと俺の方を見てきていた。

 なにかを訴えかけようとしてる目、そんな気がした。





「悪い健人、俺トイレ行ってくるわ」





「お、おう二人してなんだ突然?」




 廊下に出た俺と水木。

 やっと二人きりにきりになれた 。

 あの真実を聞くことが出来る……。





「あ、あのさ、」





「神崎君!!」





 突然の水木の大きい声に少し驚いた。





「な、なんだ?」





「か、神崎君は……神崎君は……!!」

 俯きながら震えた声で何かを伝えようとしていた。





「ーーーーー」





「神崎君は!!あの時の人ですか……?」





「……あの時の人?」





 どういうことだ?





「あの時の人ってどういうこと?」





 水木は顔はまだ下を向いたまま、また告げる。

「神崎君は……小さい頃河原で私を助けてくれた人ですか……?」





「なっ!?河原…………?まさか、水木……」

 嘘だろ……。水木が、あの子なのか……?!





「そう……ですか?」




 思考が働かない、頭の中が真っ白だ……。夢のようだ。まさかまた再会できるとは……。

「あ、ああ……俺が今考えてることで合ってるなら、そうだ……」





 夢のようだ。まさかあの人とまた再会できるなんて!

 どうしよどうしよー!いきなり好きですなんて言ったら嫌われちゃうかなぁ……?





「あ、あの時は!ありがとうございましたぁ!!」

 違ーう!こんなことを私は言いたいんじゃないのに!!!好きです。って伝えたかったのに!

 ずっと言いたかったのに……。







「お、おう……お礼なんて平気だよ、どういたしまして」

 でもまさか水木があの子とは思わなかったし……。

 でも確かにあの子の面影はあるな……。






 キーンコーンカーンコーン





 気がついたら昼休みが終わっていた。

 いったいどれだけの時間その場に二人で立って居たのだろうか……。









 言いたいのに……伝えたいことは言えないまま……会話は終わっていた。





 果たしてーー






 私はーー





 ーーいつか伝えられるのかなーー





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