第2話

 あれから何年経っただろう……。





 彼女の顔はもう覚えていない。





 しかし、あの時の素直な笑顔は素敵だったーー





 そう感じていたあの時の気持ちはハッキリと残っている。





 今年の四月で高校二年生になった神崎祐也は授業中にそんなことを考えていた。





 もしかして俺はあの子の事が好きなのか……?








 俺は果たして今まで何回この葛藤を繰り返しただろうか。





 もはや数え切れん……。











 はぁ……あの子は今頃なにをしているのかなぁ……。





 どうして名前も聞かなかったのー!!!私のばかばかばかー!!!





 はぁ、はぁ……やめよう。惨めさが残るだけだよね。





 今年の四月で高校二年になった水木葵は授業中に一人で暴れていた。心の中でだけど……。





 もう一度あの子に会いたいなぁ…… 。





 あの時の気持ちは今でも忘れることはできない。

 お礼も結局言えないままあの子はすぐ帰っちゃったし。





 きっとあの子は私のことなんてもう忘れちゃってるよね……。









((キーンコーンカーンコーン))



 授業が終わった。





 深い葛藤から目が覚める。





「はぁーやっと学校終わったな……長かった……」





 思わずため息をついていた俺のことを隣の席の水木葵はチラッと見てきていた。





 特に意味の無いなんてことのない行動だったのだが、

 何故かその行為が妙に気になった。





「ん?どうした?」

 気になったので水木に声をかけた。





 突然だったので水木も流石に驚いたようだった。





「ん!?ああー!なんでもないよ~?ため息ついてたから疲れてるのかなぁ~って思っただけだから!」





「ああ、そう」





 気の抜けた返事に水木はクスッと笑っていた。





「な、なんだよ?」





「いやぁ~神崎君っていつも疲れてる感じするよね~部活とかやってるわけでもないのにさ」





 それは俺が帰宅部なことに対しての皮肉ですか?

 そんなことは言わないけどさ……いや、言えないけどさ……。





「こういう性格なんだよ、決して疲れている訳では無い」





「ふぅ~んそれならいいけどさ~」





 水木は俺のことをからかうようにニコニコしてそう言った。





「なんか引っかかる言い方だな……まぁいいやとりあえず今日は学校も終わったし帰るわ」





 俺は席をを立ち上がろうとしたがその声に遮られる。





「あー!待って?優ちゃんが今日お休みで一緒に帰る人いないんだよね……だから途中まで一緒に帰らない?」





「優ちゃん?……ああ、早乙女優香のことか、そういえばあいつ今日休んでたな」





 早乙女優香は水木葵の一番の友達だ。

 普段からいつも一緒にいるが……詳しいことはよくわからんのが正直なところだ。俺ストーカーの趣味ないし……。





「そうそう!だからいいかな?」





「うーん、まぁ特に断る理由もないし別にいいけど」





「ありがと~じゃあ帰る支度するからちょっと待っててー!」





「おーう」






 水木のやつ……他に友達がいないわけでもないのに何故俺と一緒に帰るんだろうか……。





 そんなことより今頃あの子も帰ってる頃なのかなぁー

 あれ、でも同い年なのか?もしかしてもう高校なんて卒業してるんじゃないか?どうなんだろ……









 でもあの子は……

 またもや声に遮られる。





「お待たせ~!!……ん?神崎君どうかした?」





「いや、なんでもないよ。さぁ帰ろう」





「…………」





「ん?どうした水木?帰るぞ?」





「いや……その、神崎君……?この手は、どういう意味なのかなぁ……?ははは……」





 水木は愛想笑いを浮かべていた。手……?なんのこ……

 んん!?





 しまったぁぁ……さっきまであの子のことを考えてたからつい手を差し出してたぁぁ……!





 やばいよね、これ絶対引かれたよね、違うからね?間違えただけだよからねね!?通報しないでください!?





 ーー落ち着こう、一旦落ち着こう。よし、俺は冷静だ。 まずは相手の誤解を解かないと……!!





「あ、あー!ごめん!!あれだこれは、前に近所の子供とよく遊んでたからその時の癖でだな……」





「あ、うん……そういうことだったんだ!!びっくりしたよー!ははは……」





 水木の顔がゆでダコみたいになっていた。もしかして怒ってる?そんなに嫌だったのかな……?

 ちょっと流石に神崎君傷ついちゃうな ……。





 え、え!?うそ!?これって……あの時のあの人と同じようなこと……!?





 いやいや、違う!きっと神崎君も「近所の子供が~」って言ってたし!やっぱり間違えただけだよ!

 それに手を繋ぐのなんて良くあることだし!!

 普通ないかな……。





 ……あれ?もしかして私今顔真っ赤……!? どうしよぉー!

 見られてるよね……?落ち着け私!!!





 と、とにかく!!さっきあの人のこと考えてたからこんなに意識しちゃうんだ!なにも考えるな私ぃ~







「あ、あの!神崎君?そろそろ帰ろっか!ね!?」





「う、うんそうだな!帰ろうぜ」





 祐也 ふぅ、いくらか落ち着いたな……。


 葵 よ、良かったぁ……特に気にされてない!





 俺と水木はそのまま教室を後にした。













 教室を後にした俺達はそのまま校門を出て下校中だった。

 時刻は15時50分




「そろそろ春も終わりだね~」





 そうだな、高校2年になって少ししか経ってないしな。





「だなー、そういえばちょうどこの時期だったかな……あの子と会ったのも……」





 不思議そうな目で水木が見てきていた。





「ん?なんて言ったの?この時期なんとかって」





「ああ、なんでもないよ。気にするな」





「え~隠し事はいけないなぁー教えてくれてもいいでしょ?」





 教えてって言われてもな……小さい頃会った名前もわからない女の子を探してるなんて水木に話してなんになるんだよ……。





「ホントになんでもないんだ。

 それより水木はさ、小さい頃の記憶とか覚えてる?」





 水木は少し、はっとした表情を浮かべたがすぐにニコッとした表情に変えて言った。





「んーやっぱりハッキリとは覚えてないね~子供の頃一緒に遊んだ友達とか顔も名前ももう覚えてないしさー」





「そうか、……どうしても思い出したい記憶ってどうしたら思い出せるのかな……」





 神妙な表情を浮かべていたのか、水木が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。





「なになに?やっぱりなにか悩み事?ちゃんと相談しないとダメだよ?」







「本当に話してもなんの得もないぞ?」




「うんうん!神崎君がどんなことに悩むのか興味あるから何でもいいよ!」




 なんかこいつ俺のこと変な人として認識してないか?




「実はさ……」




「あ、話してくれるんだ」




「うるせ、お前が話せって言ったんだろ」




「はいはい」



 水木はニヤニヤと俺のことをからかうように笑みを浮かべていた。


「実はさ……小さい頃会った子ともう一度会いたいんだけど名前聞いてなかったし住所もわからないからどうしたら会えるのかな……って考えててさ」





 その瞬間突然視界から水木が消えた。

 後ろを振り返ると水木は足を止めて固まっている。





「お、おい?水木?どうした?」





 え……?神崎君今なんて言った……?

 そんな……私とまったく同じことを考えていたなんて……。





 もしかしてーーーあの人なの?





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