魔王ゲルディス戦②/〜勇者の10年後〜
エルドは自分の体を貫かれた事による激痛、流れる血の温かさ、ゲルディスのゴツゴツとした腕を体の中で感じていた。
「こ、このままでは…終わらせない…うぐっ…!」
吐血をしながら掠れた力のない言葉を発する、あまりの出血のせいか視界もボヤけてきていた。
「終わらせないとはよくこの状況で言えたものだな、勇者よ貴様はもう負けだ」
ゲルディスはエルドから手を引き抜こうと腕を振り払う、しかしゲルディスの腕にはズッシリと重さがかかったままだった。
視線を腕にやるとエルドが振り落とされまいと腕にしがみつき虚ろな目をこちらに向けていた。
「き、貴様…まだ粘るか」
「言っただろ、まだ終わらせないって…!」
そう言うとエルドは力を振り絞って腕を勢いよく上へと振り上げ、ゲルディスの体に斬撃をくらわせた。
「ば、馬鹿な…私としたことが…!!こんなあっけなく終わるわけがな━」
ゲルディスの体から黒い煙があがり、徐々に塵となっていきゲルディスは消滅した、体を貫かれたままだったエルドは床に転げ落ちる。
「勇者様!ウェルゴン、はやく手当てを!」
ドリミラ達がエルドに駆け寄りウェルゴンが懸命に治癒魔法をかける。
「みなさん、、僕やりました、魔王を…倒しました…」
エルドはすでに限界だった、エルドの一撃が致命傷となって今にも息を引き取ってしまいそうな様子だ。
「エルド、気を確かに!ゲルディスを倒し世界を救ったんだぞ!ここで死ぬんじゃない!」
ベルタスが声を大にしてエルドに話しかける、エルドの肩に手をかけていたがその手は小刻みに震えていた。
「皆さんだけでも国へ帰ってください…世界を救えたのには変わりありませんから…」
「バカ言うな!ウェルゴン!そのまま治癒魔法をかけ続けてくれ!」
「僕はもう…ダメみたい━」
ここで意識は途切れゆっくりと目を閉じた。
* * * * *
─アルデイル王国 ─
「ゆ…さま…ゆうしゃさま!」
「うっ…ここは…?」
微かに聞こえてきた声でエルドは目を覚まし、眼前に広がるのは真っ白な天井、それと涙を流し顔がぐしゃぐしゃになっていたドリミラだった。
「アルデイルの病院です、勇者様が無事生きておられるだけで私は…私は嬉しいです…」
ベッドで横になっているエルドは自分の体に手を当てる、ゲルディスに貫かれた後はキレイに元通りになっていて体の痛みも全く感じない。
「ドリミラさん、ベルタスさんとウェルゴンさんはどこに?」
「ベルタスは腕の治療に、ウェルゴンは魔王城からここに帰ってくるまでずっと治癒魔法をかけて、魔力を使い果たしてしまい今は眠っています。」
「それは良かったです、しかし僕が無茶をして死ぬ一歩手前までいってしまい迷惑をかけてしまいましたね…」
「大丈夫ですよ、世界に平和がもたらされたわけですし、ベルタスとウェルゴンも勇者様が無事なことを喜んでいましたから」
涙ながら笑顔で答えるドリミラを見るとこちらまで笑顔になれた、役目を果たせたことに安心できていた。
「失礼致します、お話の最中に申し訳ありません、国王様がお呼びです。城の大広間までお越しくださいませ。」
ドリミラと談笑していると華奢な男が病室へと入ってきた、急いできたのか少々息を切らしている。
「分かりました」と一言、傷は癒えているが体に若干の疲労感が残るもののドリミラ達を連れ国王が待つ城へと向かう。
大広間に着くとそこには多くの国民がいてエルド達に喜びの歓声が浴びせられる。
「我が国が誇る勇者エルド様!ありがとう!」
「若いのに良くやったぞ!さすがだ!」
大広間の真ん中には長い赤の絨毯が敷かれておりその先には国王が笑顔で立っていた。
「エルドよ、魔王を打ち倒しよくぞ世界を救ってくれた…感謝する。」
「いえ、魔王を倒せたのもここにいるドリミラさん、ベルタスさんウェルゴンさんのお陰です。僕ひとりでは倒すことは出来なかったでしょう。」
「ふむ…確かに彼、彼女達の支えがあってこそかもしれぬな」
国王は一人ひとりと握手を交わし改めて感謝の言葉を述べ国民がいる方へと視線を移す。
「皆のもの!ここにいる勇者エルドは封魔剣により魔王を倒し世界の平和を取り戻した!そして、ドリミラ、ベルタス、ウェルゴンの3人はエルドと共に旅をしエルドを支えた英傑だ!この者達に拍手を!」
国王の言葉を聞いた国民達は拍手でエルド達を賞賛し、涙を流すものまでいた。
エルドが世界を救った記念すべきその日に豪華絢爛で晴れやかな宴が行われた。
その後エルド達は伝説の勇者一行として悠々自適で優雅な生活を送った━
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
━10年後 アルデイル王国━
「おはようございます、エルド様」
「おっす!お、美味そうなリンゴじゃねぇか!ひとつ貰ってくぜ!」
「あ、…どうぞ貰っていってください!」
「うめぇな!勇者払いでツケといてくれや!!じゃーな!」
「ゆ、ゆうしゃ……分かりました…!」
22歳となったエルドは国の警備という口実で、国の西側にあるディール市場を散策していた。
「今日も平和だなぁ、美味いもんは揃ってるし子供は無邪気に遊んでるわ、いい国になったもんだな」
リンゴ片手にあちこちを自由に見て回るのは最高の暇つぶしであり、俺を見かけた国民は必ず元気に挨拶をしてチヤホヤしてくれて、もはや俺のために存在する国だと思っていた。
「さて、そろそろ帰るか」
日も暮れてきて街を充分歩き回って満足した俺は家に帰ろうかと考えていたのだが「泥棒よ!誰かその人を捕まえて!!」と後ろから女性の声が聞こえてきた、振り向くと小柄でガリガリの男がこちらに走ってきていた、どうやら俺は一仕事しなければならないようだ。
俺は立ち止まってその男が近くに来るのを待ち構える。
「逃がさねぇぞオラァ!!」
腕が届く範囲内に男が来た瞬間に顔をわし掴みして地面に思い切り叩きつける、その衝撃と音は凄まじいもので腕にビリビリと伝わって近くにいた人たちの注目を集める。
昔と比べ戦闘することは減ったが趣味で体を鍛えていて良かったと思う、国で犯罪が起きようが武器を持たず体一つで救えるからだ。
「俺の国で盗みを働くとか許さねぇぞ、おい、聴いてんのか!?」
屈んで話しかけるが男はすっかり伸びてしまい声は届いていないようだ。
「ありがとうございました、エルド様助かりました…ですが…」
「ん?どうかしたか?」
「あの、子供が怯えているので、その…違うやり方で捕まえてもらえればと…」
女性の後ろに隠れてこちらを見る子供はまるで魔物と会ったのかと言うほどに震えて涙目になっていた。
「あーそうか、それは悪かったな、まぁ泥棒には気をつけんだぞ、それじゃ俺は帰る、そいつの事は兵士にでも頼んどいてくれ」
「は、はい…お気を付けて…」
女性に言われた一言に関しては特に気にしていなかった、ずっとこうやって犯罪者を懲らしめてきたのだ、何も悪いことはないだろうと思いながら帰宅した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、いつもは小鳥の鳴き声で目を覚ますのだが、今日は誰かがドアを叩く音で目が覚めた。
「ったく、誰だこんな朝早くに!うるせ…ぞ…?」
ドアを開けるとそこには国王の使いがいて何故か深刻そうな表情をしている。
「エルド様、国王が話したいことがあると仰っております。封魔剣を持ってすぐに城へ来いとのことです。」
封魔剣を持っていく訳が分からないが、自分の日頃の行いの良さを褒められるんじゃないかと勝手に楽しみになっていた。
「マジかー、おっけースグ行くわ、あんたは城に戻ってていいぜ!!」
国王に褒められるとなるとダラダラしちゃいられない、そして久々に城に行くので身だしなみもしっかりして行かなければならないという考えがあり、背広を着て腰には封魔剣を携えるという奇妙な格好で城へ向かった。
━アルデイル城 応接間 ━
「よぉ国王!こんな朝早くからどうしたんだー?俺の日頃の行いの良さに感服したってことだったら心の準備は出来てるぜ!!?」
俺の明るい笑顔に対して国王の表情は極めて険しく眉間にシワが寄っていてこちらを睨みつけてくる。
「来たかエルドよ…単刀直入に言うが…最近のお前は勇者と言うにはあまりに乱暴で勝手すぎる、よってお前から勇者の称号を剥奪する!!」
「……は?何言ってんだボケ」
もう一度勇者の称号と名誉を俺にくれ まさ @mssndayo
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