もう一度勇者の称号と名誉を俺にくれ

まさ

プロローグ

魔王ゲルディス戦①

分厚い雨雲が空を覆っており、禍々しい外観の魔王城の周りには魔物が飛び交い、道端には人の骸骨が転がっていて来るものを拒むかのような異様な雰囲気が立ち込めている。



「ついにここまで来ましたね。皆さん準備はいいですか?」

魔王城を目の前にして初めに口を開いたのは勇者エルド。

まだ12歳の子供でありながら勇者として世界を救う旅に出て、仲間とともに数多くの脅威に立ち向かってきた。



「もちろんです、勇者様。このドリミラ全力でサポートいたします。」

ツバの広い黒のとんがり帽を被り黒のローブに身を包み、1mほどフワフワと浮かんでいる女の魔道士ドリミラ。

彼女の周りには赤や青といった様々な色のオーブが飛び交っていてこれらを使い攻撃をする。



その他に2名の仲間がいる。



1人目の名はベルタス

身長140cmほどのエルドに対してベルタスは2mを超える巨躯で全身は銀色に輝く鎧を纏っている、顔にも鎧を身につけているためどういった表情をしているかは分からないが、剣を力強く握っていることからやる気に溢れ覚悟を持っている事だけは伺える。



もう1人の名はウェルゴン

ドリミラと同じく魔道士だが回復魔法などを得意とする魔道士だ。

汚れが目立つ地面につくほど長い白いマントと顔より明らかに大きいフードを深く被っているのが印象的な姿。

木製の杖を持っていて杖の先端は複雑にうねっており赤い宝石が中心についている。



4人が城の朽ちた扉の前に行くとギィと音を立て扉がひとりでに開き始める、それはまるでエルド達を歓迎するかのようだった。



城内はやけに静かで魔物の気配がせず、おまけに薄暗くかびの臭いが充満していて呼吸するのが嫌になってくるほどだ。

目の前にはかなり横幅がある階段がありその先には随分と大きな扉があり、微かに光が漏れている。



階段を登っていくごとに手すりについているランプが順に灯って足元を照らしていく、階段を登りきると廊下と壁にかけられたランプがすべてともり部屋が一気に明るくなる。



扉に手をかけゆっくり開けると、広い部屋の奥にゲルディスが玉座に座していることが確認できた、その瞬間エルドに向かって何かが物凄い速さで飛んできたが反応が遅れてしまった。



呆気なくやられると思った時、隣にいたベルタスが剣でそれを咄嗟に払い落とす、飛んできたものの正体は鋭く尖った槍だった、床に落ちると同時に消えていく、どうやら魔法で作り出したものだったらしい。


「助かりました、感謝します」

「エルドを守るのが私の役目だ、礼には及ばない。」

ベルタスに礼をして、剣を両手で握り構えゲルディスを睨みつける。



「おぉ、いい目をしているな、殺意を持ってして私に挑まんとする姿、たまらんぞ…」

玉座から立ち上がりこちらへゆっくり踏みしめ歩いてくる。


ゲルディスは人の形をしているものの明らかに異形、異様に長い腕、身体からは光を一切通さない見るだけで吸い込まれそうな漆黒のオーラが溢れており、頭には太い角が2つ後ろに伸びている。

目は赤く光り額にもある目はギョロギョロと忙しなく動いている。


「勇者様、ここはまず私が…」

ドリミラがそう言うと高く浮かび赤のオーブを手の上に持ってくる、オーブが徐々に大きくなり炎を帯びていく、オーブから発される炎の熱がこちらまで伝わってくる。


『煉獄灼熱弾』


大きなオーブがいくつにも別れ弾幕となってゲルディスに向けて飛んでいく、しかしゲルディスはいたって冷静、ドリミラの攻撃を全て受けると言わんばかりの様子で歩みを止めることは無い。



ゲルディスは左腕を上げて右へ軽く振って軌道を描く、空間がグニャりと歪みオーブが寸前で止まり消滅する。



「ほう…最高位魔法でもこの程度とは片腹痛いわ。」

ゲルディスは余裕の表情を見せる、しかしゲルディスがドリミラに気を取られている隙にベルタスが懐へと潜り込み胴へ斬撃を食らわす、その威力は絶大で剣圧で後ろの壁が切れて崩れ落ち砂煙が舞い上がる。



ベルタスが数歩下がりゲルディスとの距離を取る、砂煙の中にゲルディスとその周辺に丸いシルエットが浮かぶ。

砂煙が落ち着き始めようやくゲルディスの姿を確認することができた、身体からは鮮血が流れて下には血溜まりが出来ているが、ダメージを感じさせない不敵な笑みを浮かばせている。



丸いシルエットの正体は黒い炎を纏った球体だった、それがゲルディスを囲うように四方八方に展開されていた。

血溜まりを踏みぴちゃぴちゃと足音をさせながらこちらに向かってくる、それと同時にゲルディスが右腕を前にやるとあちこちに球体が散らばりいつ攻撃が来てもおかしくない状況を作り出す。




「勇者よ、これをどう対処する?」

ゲルディスが右手を開くと球体が不規則に動き始め炎の揺らぎも強さを増していきエルド達目掛けて飛んでいく、しかし速度は極めて遅く簡単に避けられそうなほどだった。



「これは魔法…?しかしこんなものは見たことがないです、勇者様油断なさらぬようにお願いします。」

ドリミラが注意を促す、その間にもゲルディスの放った球体がジワジワと迫ってくる。



「このまま突っ立ってやられるわけにはいかない。この球体に私の斬撃を御見舞してやろう」

ベルタスがそう言うと腰を低く構え剣で床を削りながら大きく横に剣を払い、斬撃を飛ばす。

その斬撃は一瞬にして目の前の球体にぶつかるがその瞬間に球体が速度をあげベルタスに向かう、初撃を喰らわせた後すかさず二撃目を放つ準備をしていたベルタスに不足はない、皆がそう思っていた。



剣を振り払おうとしたその時一つの球体が目にも留まらぬ速さで動き、剣にまとわりついたように見えた。

たちまち剣は黒くドロッとした液体のようなものに覆われて、それはまるで生きているかのように広がり始める。



身に危険を感じたベルタスだがその時にはすでに液体は肘まで到達していた。


「くそ…腕が動かせん…仕方あるまい」


ベルタスは全身が覆われるという自体を避けるため、腰に身に付けていた短刀を持ち自ら腕を切り落とした。



切り落とした腕に付いていた液体は、腕に染み込み黒く染め上げその瞬間無数のトゲが腕の中から飛び出した。



「これに触れたら内部から破壊されるというわけか、エルド気をつけてくれ。」

「はい、ウェルゴンさん僕の周りに守護魔法をかけてください、球体が来る前にゲルディスに特攻しこの封魔剣で仕留めます。」



封魔剣─

この剣で魔物に対し一撃でも喰らわせることが出来れば、魔物は力を失い消滅するという伝説の剣だ。



はっきり言って無茶な方法と分かっていたがエルドはこうするしかないと感じていた。

「ウェルゴンさん、お願いします!」

「はい、分かりました。」

ウェルゴンはエルドを何としても守り、無事に国に帰すという使命のもと魔法陣を展開し守護魔法を何重にも発動させ小さな結界を作る。

結界が眩い光を発してエルドの周囲を囲み、迫り来る球体を無視してゲルディスのところまで走り抜ける。



ゲルディスは黒い槍を作り飛ばして結界に激しくぶつける、結界は槍を包み込み白く光って槍を打ち消そうとするがその程度で槍は消えない、槍は光を吸い込み漆黒となっていき結界と共に消えた。

ウェルゴンは球体を躱しつつすかさず次の守護魔法を展開して、エルドを守る。



ゲルディスの元へと到達したエルドは脚に力を入れ飛びかかって剣を渾身の力で振る。

「これで終わりだ!!」



直視できないほどの光を放ち、剣はゲルディスまで届いたと思った、だが白い光はだんだん弱くなり消えてしまった。

ドリミラ達が球体を躱しきってエルドの方を見るとエルドは確かにゲルディスの前にいる。

しかし、エルドの体は宙に浮いたまま静止している。



「ゆ、勇者様!何で…どうして…!!」

ドリミラは叫び動揺している、目の前で起こっていることに理解ができていない様子だ。



「守護魔法を何重にかけ結界を作ろうがそれを上回る攻撃をすればいいだけではないか、実に浅はかだ。」

ゲルディスはエルドが飛びかかったあの時、瞬時に数十本の槍を作り、守護魔法に当て相殺していたのだ。

その後エルドが振りかざした剣を避け、素手でエルドの体を貫いていた。



エルドの意識は朦朧としていて僅かに残る力で剣を握りしめていたが、動く気配はない。


ドリミラ、ベルタス、ウェルゴンの3人には絶望という言葉が頭の中をグルグルと駆け巡っていた。

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