第14話 3億エリスという大金


 3億エリスという報酬金を手にした俺達。

 俺とカズマが冒険者として活動を始めてからは日本に居た頃には考えられないようなペースでお金を稼いでいたが、それでもこれまでに見たことが無い桁の金額を手に入れ盛り上がらずにはいられなかった。


「うふふ。3億よ3億! あぁ、これだけあれば買うのをためらっていたお高いお酒も買う為に思い悩む必要もないわっ! 買い放題よ! ほら見て! これがこの街で一番高かった最高級シュワシュワよ!」

「ハァハァ、この輝きを見てください。このマナタイトの輝き。ハァハァ、これぞ 紅魔族随一の魔法の使い手である私に相応しい輝きだと思いませんか? ハァハァ。」

「この鎧を見てくれ。頑丈さだけでなく装飾の美しさまで兼ね揃えた一級品の鎧だぞ。ここ、こことか見事しゅぎる……」

「ナーッハッハッハ! おいおいお前たち。はしゃぎ過ぎだぞう? まぁ? 俺もとうとう一級品な剣に一級品の装備になっているんだがなぁ! ナーッハッハッハっ!」


 浮かれる4人を後目しりめに、俺だけその熱に乗り切れないでいる。

 いかんせん日本に居た頃に、しっかりと社会人として労働していた俺。給料内での生活など『計画性』の大事さというのは身に染みているのだ。


「おいおいアスカ! どうした陰気な顔をしてさぁ?」

「いや、うん。このパーティは基本的にあるだけ使ってしまう的な江戸っ子とかアメリカンタイプな考えが主流なんだなぁと思ってな。」

「おやおや一人、俺だけは違うんだって顔しておきながら、その腰の新しいマジックダガーは一体なんなんでしょうねぇ?」

「……これは……ほら、必要な、アレだから。」


 まぁなんだ。俺だって雰囲気に流されるし、余裕があれば浮かれもする。

 魔法と相性の良いチート持ちだからマジックダガーは必要なのだ。


「オーイ、アクア! この陰気な野郎になんか言ってやれぇー!」

「なになになぁに? アスカったら、このめでたい空気に水を差そうって言うの? そうはさせないわよ。それっ花鳥風月!」

「「「「おぉー!」」」」


 カズマの頭から噴水のように水が噴き出し、思わず感嘆の声が漏れる。


「悪かった悪かった。でもさぁ、今は金に困ってないけど、金は使えば使っただけ無くなるだろ? ある程度計画的に考える必要があるんじゃないかって考えが抜けなくてさ。」

「それはもう話あっただろ? 1億エリスは共用の金として取っておいて、残りの2億エリスを5等分。1人頭4000万エリスは其々の自由に使うって。」


「あぁそうだな……ところでカズマ。その一級品の剣と装備。幾らだったんだ?」

「ん? 剣が50万エリスで、防具は一式で80万エリスだったな。良い買い物したぜ!」

「合計130万エリスか……すげぇな。なぁダクネス。ダクネスのその鎧は一体幾らだったんだ?」

「ふむ。まぁ、これだけの品で、それにカズマと比べて使っている防具の数も多いからな150万エリスした。」

「おおう! 中々するんだな……俺の新しいマジックダガー奮発しまくって100万エリスだったのに軽々超えてきてる。まぁフルプレートアーマに近いもんな、それくらいするか。」

「ふっふっふ……こっそりマジックダガーの自慢ですかアスカ? 武器自慢なら私を忘れないでくださいっ! このマナタイトの輝きの美しい杖を! どうです? この美しさ。思わずひれ伏したくなるでしょう? いいんですよ崇め奉っても。」

「めぐみん、めちゃくちゃ聞いて欲しそうだな……そのマナタイト? の杖。さぞお高かったんでしょう?」

「フーッフッフっ! そーです! なんとお値段200万エリス! 買う時かなり緊張しましたよ!」

「うっわ、すっげぇ高いなっ!」

「値切ったら190万エリスになりましたが。」

「やるなぁ。まぁ、めぐみんの爆裂魔法は切り札にはなるし、その威力が上がるんだろうから現状だと必要投資だわな。」

「ふっふっふー!」


 そっと問題児に目を向ける。


「ところでアクアさん。」

「ん? なぁに?」

「先ほど、そのお手に持っていらっしゃるシュワシュワについて、とっても不穏な事を仰っておられませんでしたか?」

「あぁコレ? ふっふっふ、さっきからみんなに小姑のように値段を聞いていたアスカは私のシュワシュワが気になって仕方ないのね! いいわ! 教えてあげる!」

「うん。教えて。『この街で一番高かった最高級』って枕詞まくらことばの付いたシュワシュワの値段を教えて。」

「フッフッフっ!! いーでしょう! 教えてあげる! なんとこのシュワシュワ! 500万エリスよ!」


「「「「 ゴッ!? 」」」」


「このシュワシュワは年間200本しか作られないシュワシュワで王族もたまにしか飲めない超老舗メーカーの一品。尚且つその中でも最高の当たり年と言われている20年前のビンテージ最高級シュワシュワなのよ! 良い買い物ができたわぁー!」


「「「「 ………… 」」」」


「なによその目は? なんなの? これは絶対あげないわよ! 私が大切に飲むんだから! 私だけのなんだから! でも安心して。この優しいアクア様は、ちゃんとみんなのことを考えて超老舗メーカーのシュワシュワを人数分取り寄せるように、お店に依頼しておいたから。」


「……アクア。まさかとは思うけど、それは『みんなの分なんだから共用のお金から出せばいいわよね!』なんてこと思ってないだろうな?」


 カズマの笑顔で笑ってない声。


「何言ってるの? 当然じゃない。」


 アクアの意に介さない声。

 その反応に俺も笑顔で笑ってない声が出る。


「ん~? 共用のお金から出すのが当然なのかな? それともアクアのお金から出すのが当然なのかな? アクアの言っているのはどっちの当然なんだろうか?」


「……ちょっと……カズマにアスカ? なんだかちょっと怖いんですけど……そういう顔はやめてほしいんですけど。」


「アクアの回答次第で」

「やめるか決まるよ」


 顔を引きつらせたアクアの回答は、当然の結果をもたらしたのだった。



 ★・。・゜☆・。・。★・。・。



「うん。計画的に生きよう。」

「計画って大事だな。」

「そうですね。流石にフォローできません。」

「だが、アスカにカズマ……流石にアレはかわいそうではないか?」


「ふぎゃぁー! 出してぇ! 出してよぉ! 檻はいやなのぉ! 湖を思い出すのぉ! お願いだから出してぇーっ! ぎょめんなさぁいー! ずっとここに居たくなってくるから! 出たくなくなるから! 早く出してぇー!」


 ギルドに移動して檻を借りてアクアを入れておいた。

 檻は衆人環視の状況なので当然ながら『餌を与えないでください』の張り紙もしてある。


「微妙に羨ましそうな顔しながら言われても説得力がないんだがダクネス?」

「そんなことはハァハァ……ないぞ。あぁ、まるで見世物のようにンンッ!」


 紅潮させフルっと身体を武者震いさせるダクネスをしっかりと見ておきながら無視する。


「それにしても酒屋さんの取り寄せ依頼が4本で60万エリスで助かりましたね。」

「いやいや、めぐみん。4本で60万エリス『も』した。だぞ。アクアの500万エリスという金額のインパクトで安く済んだと少しでも思っていたら大間違いだからな? 酒が4本でカズマの奮発して買った剣より高いんだぞ?」

「はっ!? そうでした!」


 めぐみんがハっとし、アクア以外の全員で顔を見合わせ溜息を漏らす。


「まぁ、今の段階で気が付いて良かったと思うべきじゃないか? 酒代はアスカとカズマの二人がかりでアクアに全部持たせることを約束させてたし、共用のお金については手つかずの状況なんだから。」

「そうだな。」


 ダクネスのフォローに留飲を下げる。


「ただ、だ。アイツをこのまま野放しにしておくのは危険すぎやしないか?」


 カズマの言葉に全員が静かに頷く。


「でもどうするんです? 全員が持ち回りで監視でもしようって言うんですか?」

「なるほど!」

「そんな手が!」

「ってなんですかカズマにアスカ! 適当に言った事に適当に反応しないでください!」


「いや、実際、それしかないと思うんだめぐみん。そうでもしないとアレはいつか取返しの付かない事態を起こしそうな気がする。そしてソレに巻き込まれそうな気がする。」


 俺が目を向けることなく「ぴぎゃあー!」と鳴き声を上げている方を親指で指すと、全員が静かに俯いた。


「いっそ拠点を作るべきか? 全員が住めるような。」

「拠点……か。」

「良いですね!」

「ふむ。賛成だぞ。できれば座敷牢や地下があるような――」


 というわけで、拠点となる住居を探す事になった。

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このすばになろう(旧:めぐみんは俺の嫁っ!!) 卯月 風流 @April_Fool

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