第13話 解散後の経過
心に余裕のあるカズマと俺は、久しぶりのアクアの顔を見て同時に肩をすくめる。
泣きじゃくるアクアの後ろに目を向けると、どこか疲れたような顔のめぐみんと、なんとも形容し難い表情のダクネスの姿も見えた。
俺達はアクアの泣きっ面に押されるまま話を聞くことにして、とりあえず席についてご飯を注文する。すると、めぐみんやダクネスも朝食がまだのようで合わせて注文したが、アクアだけは更に泣き顔を酷い物へと変えた。
その顔から察したカズマが半白目でアクアの分も注文して席に着くと、アクアがまるで拗ねるように現状を話し始めた。
ポツリポツリと漏れる言葉は、だんだんと愚痴の様相を醸し出し始めたが、要約すれば『うまくいきませんでした』。その言葉に尽きる。
当然と言えば当然だろう。
そもそもアークプリースト、アークウィザードにクルセイダーのトリオで、見た目も良いのだから引く手
高額報酬と引き換えにパーティの助っ人をお願いしたくなる様な人材だろう。
だけれども、この三人はクセが強すぎるのだ。
他の冒険者から声をかけられて助っ人として参加することになったらしいが、声をかけた者は、三人の特徴を知らないからこそ声をかけたわけで、三人が通常の上級職と思ってしまっていれば、やはり期待して当然。
期待値というのは高ければ高いほど、外れた時の振り戻しも大きくなるし、そもそも冒険者というのは命がけの職業であり、死ににくくする為にパーティを組んでいる。
当然の事だが誰しも死にたくないのだ。
死なない保険のつもりで仲間にしてみれば『トラブルメーカー』『暴発大砲の後足手まとい』『モンスターホイホイ』という実態。無事に生きて帰った冒険者も愚痴の一つも言いたくなるだろう。
冒険者は耳ざとい者も多いし、危険を知らせる噂が広まるのも早く、愚痴を聞いた冒険者達は『アレはやめとけ』となるのは当然の事で、三人は早々に誰も声をかけてくれなくなった。
アクアはそれでもめげずに三人だけで討伐に行こうと当然の如く言い出すわけだが、そこは辛うじて良識をもっていた、めぐみんとダクネスで止め、アクアがヤケになって飲み。もう金を使いきってしまって俺達に泣きつくのを待つ事にし、ようやくアクアの銭が無くなった。
……という流れらしい。
「アクア……こないだ渡した金は、借金って分かってるのか?」
「……わかってるわよ。だから高い報酬のクエストをこなしたいの! お願いだからパーティを! パーティを組んでくだしゃぁい!」
今にも縋り付きそうなアクアにカズマが目を閉じ額を押さえ首を振りながら口を開く。
「はぁ……アクア、わかった。」
「ほんとっ!」
「わかったとも……俺がお前に貸していた借金の19万……いや、20万エリスだったか。」
「19万よ! 一人頭19万の合計76万エリス! 勝手に増やさないで!」
「うんうん。その20万エリス。チャラにしてやろう。もう返さなくてもいいぞ。」
「「「 えっ!? 」」」
カズマの胡散臭いまでの綺麗な声に、アクアだけでなく、めぐみんとダクネスも驚きの声を上げる。
俺もカズマに続いて口を開く。
「俺の貸している20万エリスもチャラにしてイイぞ。なんだかんだでアクアには世話になったしな。もう気にするな。」
「「「 えっ!? 」」」
カズマと同じ内容で口を開いた俺に対してもアクア達が目線を移しながら驚愕に染まった声を上げる。
「ど、どうしたの? カズマにアスカ。二人とも守銭奴が服を着て歩いているようなケチっぷりだったじゃない? なのにどうして急にそんな聖人みたいな事を言いだすの? 頭を打ったの? ヒールが必要なの? それとももう取り返しがつかない状態なの?」
「そ、そうですよ二人とも、異常です!」
「あぁ! 金の為にクリスのパンツを盗む事すらいとわなかった二人が、こんなことを言い出すなんて有り得ない!」
三人の、まるでバケモノでも見るかのような視線に晒されたカズマと俺は顔を見合わせ、軽く笑い合う。
「はっはっは。ヒドイ言われようだぞカズマ。」
「はっはっは。本当にな。俺達はこんなにも優しいのにな。」
アクアが何かピンと来たような顔をして、眉間に皺を寄せながら恐る恐る口を開く。
「ね、ねぇ。二人とも? 確か二人は220万エリスを持っていたのよね? そんなにギルドに入り浸っていたってワケでもないし、減ってるはずよね? なのに何でそんなに余裕があるの? ねぇ、もしかして増えたの? お金が増えたの? ねぇ?」
「「 はっはっは。 」」
ただ笑って見せる俺たち。
ぶっちゃけ増えたのだ。
俺とカズマはキャベツで大儲けした。
そしてその経験から野菜が高額で取引される事も知った。
となれば、必然的に俺の頭の中にある野菜の知識を探るのも当然の事で、二人で『黄金タケノコ』を狙いに行ってみたのだ。
この世界のタケノコは、俺達の気配を察知すると収穫されまいと高速で伸びる。タケノコがある種の地雷のような存在になっているだが、俺とカズマの運の良さは半端じゃなく、そんな中2本の黄金タケノコの収穫に成功し、その価格たるや1本100万エリス。
カズマのケツに黄金タケノコが伸びて刺さり、それをみて笑った俺のケツにも黄金タケノコが伸びて刺さるというアクシデントがありはしたが、タケノコ狩りをして日当100万エリスを手にできる事が分かった俺達にとって20万エリスなど些細な事になってしまっていたのだ。
別にアクセルの街で発見した、綺麗なモンスターの営むお店でお願いをして、そのお願いでアクアが登場した事があったから、いざ本人を前にして罪悪感が沸いたとかそういった事ではなく、単純にこれまで世話になったから、その礼としての借金の帳消しを言い出したに過ぎない。
カズマが言いだした心理も俺が言いだした心理も、どちらも清廉たる理由だ。本当に。
……それに、カズマと俺も荷物持ちとして他パーティに入ってみたことがあり、冒険をするのであれば、パーティメンバーとの連携というのは極めて重要と学んだ。
幸いなことに二人揃って参加できたパーティは、クルセイダーをリーダーとして構成されたパーティで、最初こそ荷物持ちとして少しバカにされた感はあったものの、クエストをこなす内に別世界生まれの柔軟さからか、それともこの世界の人間の頭の固さのせいか多大な成果に貢献することができ、かなり仲良くなったし頼られるようになった。
こうしたいい評判も耳ざとい冒険者達には、すぐに広まるようで俺達は『冒険者』という底辺職ながらも、なぜか男限定ではあるが街中で声をかけてくれる人間が増えてきているようになったのだ。
そう。
俺とカズマは街の流れに乗り、うまく回り始めていた。
……うまく回り始めたからこそ……
「アクア! 二人の借金の帳消しの提案に乗ってはいけませんよ! カズマもアスカも『手切れ金』のように思っている感がします。えぇ。ビンビン感じます。」
めぐみんの言葉に即時、目を逸らす俺とカズマ。
「ほれ見たことですか! この二人、図星ですよ図星。」
「え? ……ちょっと二人とも? 違うわよね? ねぇ違うわよね? 手切れ金なんかじゃないわよね? ねぇ?」
俺の肩を掴んで目を合わせようとしてきたり、カズマの肩を掴んで目を合わせようとするアクア。
俺達は、そんなアクアから目を逸らし続ける。
「飽きたらポイとか……くぅっ! 武者震いが……」
息を荒げるダクネスは完全に無視できたが、半泣きで圧力をかけてくるアクアは強かった。
「ねぇ? ねぇ? カズマ? アスカ? ねぇ? ねぇぇっ! こっち向いてよぉおっ!」
結局、俺とカズマが折れる形で5人パーティに戻る事になるのだった。
★・。・゜☆・。・。★・。・。
その後、アクアの俺達に対する借金返済の為に、野菜関連クエストをメインにこなしつつ、魔剣の人にいちゃもんつけられて追い返したり、モンスターメーカーの討伐クエストを受けて、街に住むリッチーなのに天使のウィズと知り合いになったりした。
他にも冒険者達に見事に『頭のおかしい魔法使い』と認識され始めためぐみんの廃城への爆裂魔法後のおんぶ係もカズマと交代で付き合ったりした結果、魔王軍幹部が攻めてきたりするなんて、とんでもないアクシデントもあった。
が、
どうみても幹部のデュラハンにアクアの『ターンアンデッド』が効きまくっていたので、俺とカズマが
「アクア様のいいとこ見てみたい。 それもっかい、もっかい、もっかい♪」
「デュラハンびびってる、へいへいへい ♪」
と、囃し立てていたら、アクアが俺達に乗せられるまま連発し、いつの間にか幹部が浄化されて消えていた。
セイクリッドターンアンデッド。100発打っても平気なアクア様。パネェっす。
むしろ女神のターンアンデッドを100発も耐えたデュラハンを褒めた方が良いんだろうか?
……だが、リッチーのウィズ然り、アンデッド要素がある敵に関しては、こと、このアクアは実に女神らしく無敵なのかもしれないなんて事を思わないでもないが、その事実は俺とカズマの胸に秘めておく事にした。
なぜなら、既に5人パーティで動くという事が、自然に感じられるようにもなっていたし、パーティ内でパワーバランスが崩れるのは好ましくないからだ。
ダクネスは『壁』、めぐみんは『最終兵器』、カズマは現状把握に努める『守備的遊撃手』なバランサーで、俺はダクネスの横からコッソリ切り続ける『攻撃役』。そしてアクアは大事な大事なおと……賑やかしなのだから。
もし幹部を倒したのが全てアクアの力のおかげという事を全面的に認めると、パーティバランスが崩れてしまう。別に報酬の取り分が減るとかそういうわけではない。あくまでも皆の為なのだ。
幹部撃退の報はすぐに広まり、
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