第11話 キャベツ到来

「……どうするよ……アスカ。」

「……いや、こっちのセリフだよ……どうすんだよカズマ。」


 俺とカズマは性格に似ている点があった。

 それは『変なところで小心者』というところ。


 俺とカズマが向かい合う形でキャベツ炒めを齧りながら、暗い顔で囁きあう。

 そんな俺達の横のテーブルでは暗い俺達とは対照的に大きな盛り上がりを見せる女達の姿がある。


「本当にすごいわね! 流石クルセイダーよ! あれだけのキャベツに体当たりされてもビクともしないんだもの!」

「いやいや私など、ただ固いだけの女だ。それに比べて、めぐみんのあの爆裂魔法の凄さ……集まってきていた雑魚モンスターを一瞬で吹き飛ばしてしまうのだから。」

「ふふふ。我が爆裂魔法は無敵なのです! アクアも回復魔法が凄かったですよね。私達以外のグループのケガを次々に回復させてましたし……あの回復力を連発するなんて、どれだけの魔力があるのか……とんでもないアークプリーストですよ。」


「うっふっふっふ! そうかな? そうよね。まぁ? もっと褒めてくれてもいいのよ!」

「……まぁ、最初は転んで泣いてましたけれども。」

「ちょ、ちょっとめぐみん!」

「ふふっ、しかし私達だけでは、ここまで多くのキャベツを手にする事は出来なかっただろうな……」


 女達の視線が俺達に注がれる。


 少し時を遡るが、俺とアクアとめぐみんがカエルの粘液を風呂で洗い流してカズマと合流した時、カズマは二人の女性と話をしていた。なにやら流れでカズマがスキルを覚える話になっていたらしく折角の機会なので俺も付き合わせてもらう事にした。


 盗賊スキルの【潜伏】や【スティール】を習い、カズマが教えてくれたショートカットの女のパンツを盗んでいるのを見て、俺も迷わず【スティール】スキルを習得。

 その後、カズマがショートカットのパンツ盗まれ女ことクリスから有り金とパンツを交換するという鬼畜を目の当たりにしてドン引きしつつも、俺も試しにカズマにスティールを試してみたところ、返還直前のクリスのパンツをスティールしてしまうという愚行を犯してしまった。が、もちろん俺はカズマと違うので、すぐに紳士的にクリスへ返還を申し出た。


 ……俺の23万エリスのマジックダガーが、クリスの持っていた40万エリスのマジックダガーに代わっているのは、その紳士的な行為に対する謝礼として、クリスが交換を自分から申し出てくれたのであり、そういった厚意を無下にするのは失礼に当たる。もちろん俺は恥をかかせるつもりはなく、その申し出を承諾しただけの話だ。


 その後、酒場に戻り、クリスがパンツと引き換えに有り金全部をカズマに無心され、しかもそのパンツを俺が半笑で横取りして『所有権は俺に移ったようだな』とか脅されて装備を無理矢理交換させられたと泣き、カズマと俺は、クズマとゲスカのゴミコンビと揶揄されるようになってしまった。


 めぐみんのパンツまでスティールして変態にジョブチェンジしたカズマのことは当然としても、俺までゴミ呼ばわりは納得いかなかったが、クリスは弁解の余地を残してくれず、そのまま金を稼ぐためにダンジョンへ潜ると、一人鼻息が荒いダクネスという女性を置いて酒場を後にしてしまい、ダクネスとカズマが話をし始めたその時、ギルド内に緊急クエストが大音量で知らされた。


 そのクエストは『キャベツ』


 先に話をしていた、動く野菜。その中でも飛ぶというアレだ。

 俺とカズマは直面した事実にゲンナリとしつつも、その報酬が『1個1万エリス』だというあまりの高額報酬に奮い立ち、心の底から協力し合った。

 なんせ10個キャベツを捕まえるだけで、カエル5匹分倒すのと同じ値段なのだ。

 フル頭を使って作戦を練り、俺のチート知識から得られるキャベツ知識も出し惜しみなく伝えて工夫し、力を尽くした。


 結果。ダクネスのデコイで集まったキャベツを、そのまま捕獲牢に流し込むという作戦が立ち実施され……なぜかダクネスはキャベツに攻撃される事を悦んでいて、カズマと俺は白目を剥きながらダクネスごと捕獲牢にぶちこむという行為を繰り返した。その結果、俺達は他のパーティの比較にならない量のキャベツ、ざっと見ても800匹以上を捕まえることができていたのだ。


 まだ計算は終わっていないが、パーティで800万エリス以上の報酬を手にする可能性が高い。


 カズマと俺は、これまでの収入とは比較にならない収入の可能性に、現実が追いついてきていないのだ。


「ぐふっ!」


 ようやく現実を感じ始めたのか、カズマが変な笑いをもらす。


「いや、待てカズマ。おおお、落ち着け。どう考えても高難易度のクエストが50万エリスとかの報酬なのに、キャベツ1個で1万エリスは有り得ないだろう。きっと乱獲で値が下がったから、やっぱり1個千エリスです! とか後からアナウンスが入るに違いないんだ。」


「いや、でもアスカ。それでも大金だぞ。ふふっ!」

「大丈夫だ。俺は信じない。それにまだ、あわ、あわ慌てるような時間じゃない。」

「よしキャベツ食って落ち着け。」

「ちょっと! さっきから二人でボソボソと何を話しているの?」


 アクアが俺達に声をかけてくる。


「アスカが現実を見れなくなっているから治療中だ。」

「え? ヒールいる?」

「失敬な。誰よりも現実を見ているから失望しないように予防線をはっているというのに。」

「なんだ、ただの心配性ね。損な性格ね~アスカは。プークスクス。そんな事よりも新しく仲間が増えた喜びを分かち合いなさいよ」


 アクアの声に、ダクネスが軽く咳払いをする。


「……ん、オホン。では、みんな。改めてよろしく頼む。さっきのでわかったと思うが、私に火力は期待しないでくれ。攻撃は当たらん。だが、その代わり壁になるのは得意だ。相方のクリスが帰ってくるまでの間になるとは思うが、よろしく頼む」


「ふふふふ! ウチのパーティもなかなか豪華な顔触れになってきたじゃない? アークプリーストに、アークウィザード。クルセイダー! ここまで豪華な顔ぶれのパーティも珍しいわ! カズマもアスカも私達に感謝しなさいよ?」


 カズマが浮かれていた顔から一転して沈んだ顔へと変わる。

 言わんとする事は痛い程に分かる。

 確かにまともなパーティであれば、感謝してもしきらないレベルの顔ぶれ。だが、アクアは魔力や魔法が優れていても、生粋のトラブルメーカー。めぐみんは爆裂魔法一回きりの極限砲台。


 そして……


「ああ……それにしても、キャベツの群れに蹂躙された瞬間は堪らなかった……あの次から次へと怒涛のように押し寄せてくる群れによる攻撃。さらに仲間であるはずの男二人が、まるで使い捨て物のように私を扱う始末……あの扱いは正しくゴミ扱い……んっ…お、思い出しただけで……む、武者震いが……んんっ!」


 ダクネスは、攻撃しない。むしろ攻撃されたい欲しか感じさせない前衛職と来た。見た目はクールで、相当な美人なのに、心の底から勿体無い。


「……アスカ……強く生きていこうな。俺達。」

「あぁ……本当に。なぁに……世の中考え方次第だものな。」


 こうしてなし崩し的に5人組みパーティが結成された。

 間もなくキャベツの報酬が確定したことがアナウンスされると、アクアは一人で自分の取り分の為に動いていたから、アクアは単独で報酬を受けとると言い出し、協力して事にあたった俺達の報酬は、俺とカズマ、ダクネスとめぐみんの四人で分けることになった。


「なんで!? なんで私の報酬はこんなに少ないの!?」

「いえ、アクアさんの捕まえていたのはレタスばかりだったもので……残念ですが……」

「じゃ、じゃあカズマ達は!? あれもレタスばっかりだったのよね! そうよね!

 私だけじゃないわよね!」

「いえ……カズマさん達の捕まえてくださったキャベツは、特に質の良いキャベツが多かったです……」


 俺の心配をよそに956万エリスもの大金が支払われる事になった。


 俺達の報酬を聞き、一瞬、獣のような目をしたアクア。すぐに表情を笑顔に変えて俺達の方へと近づいてきた。

 俺とカズマは目を合わせ、お互い同じ事を考えいる事が分かり、同時に口を開く。


「「 よし。これでパーティは解散しよう。達者でな! 」」

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