第8話 仲間募集の結果
俺はとんでもない世界観によって精神的にゲロ疲れた状態をなんとか奮い起こしながら、カズマにこの世界の野菜について説明した。
この世界の野菜は一般的な特徴として『新鮮なもの程、動き回る』のだと。
キャベツに至っては跳びはねるだけじゃなく空まで飛ぶだとか。諸々。
確かに料理の時に動いたような気がする野菜もあったが、アレは気のせいじゃなかったんだ。鮮度のいい野菜だったんだ。
他にも『カモネギ』だの日本の常識では測りきれない食材ばかりな事を、ほぼキレながらカズマに説明した。
だが、
「働きすぎたんだな……今日くらいはゆっくり休んだらどうだ?」
と、カズマは何となく生暖かい目をしながら似合わない優しい言葉を発して信じようとはしなかった。が、アクアの補足もあって最後には信じてくれた。
――そしてやっぱりカズマも落ち込み、二人で机に突っ伏しながら口を開く。
「――この世界は、あまりにも……あまりにもオカシ過ぎる。」
「……ほんとにな……俺もこれまで千切ってた野菜が本当に野菜だったのか……それとも野菜に見せかけて野菜の味のする肉だったのかがもう疑問になってきた。なんで動くんだよ野菜が――」
「新鮮で美味しいんだからいいじゃない。うんっ! できたーーっ!」
アクアの能天気な声が、カルチャーショックに打ちのめされている俺達の頭に突き刺さる。死んだ魚のような目でアクアを見ると、書類を眺めてキャッキャと喜んでいる。
「ふふふんっ。いい出来。これこそ完璧な募集内容ね! さてと早速、貼ってこよーっと!」
「待て待てーい。」
カズマがアクアの羽衣を掴んで引っ張り引きとめる。
「ちょ、ちょっと! 引っ張らないでよー!」
「はーい。いい子だからソレを一度ミセナサーイ。」
カズマに引きとめられたアクアから、俺がひったくるようにして掲示しようとしてた書類を奪い取り、カズマの前に広げるとカズマが内容を読み上げ始めた。
「何々……『求む上級職っ! 偉大なる最上級職アークプリースト、アクア様と、そのオマケの下っ端冒険者2名のパーティが新規メンバーを募集! 千載一遇のチャンス! 初級・中級はお断り。上級職のみ限定募集!!
下っ端冒険者Kさんのコメント。
アクア様のパーティに入ってからというもの、幸運が続いて持病だった腰痛が無くなりました! 気分も毎日良くて最高です!』」
途中まで読んだ後、声を発しなくなったカズマが俺に書類を渡して来たので続きを読む。
「……『下っ端冒険者Aさんのコメント。
アクア様のパーティに入ってから、お金が驚くほど手に入るようになって、まるでモテなかった僕にもとうとう恋人が出来ました! といっても、恋人よりもアクア様の方が美人なんですけどね(笑)このパーティに入れて最高です。アクア様最高!』
……なぁ、Kさん。腰痛持ちだとは知らなかったよ。」
「そういうAさんもいつの間に恋人がおできになられてたんですか?」
お互いそういう素振りは一切なかったから、当然嘘八百であることは分かりきっている。俺とカズマは大きく溜息をつき、そしてアクアに書類とゴミを見る目を返す。
「だ、だって! こういう風に書いた方が声をかけてくれやすくなるでしょーっ!」
「はいはい。」
「俺達はもうそれでいいから、あ~もう早く貼ってこい。」
「なによー! 見てなさいよー!」
プリプリと怒りながらもメンバー募集の張り紙を掲示板に書類を貼付けに行くアクア。俺はごっそり疲れてしまった気分になりながらもカズマに話かける。
「俺は今からでも厨房に行って働く事にする。んで、適当なヤツからスキル教えてもらうわ。」
「おう。とりあえず今回のクエストは失敗だ。もうどうしようもねぇ。」
「じゃあ期限切れでクエストの失敗が決まるまでに新しくパーティ組んだ時の分配とかをルナさん当たりに聞いておくから、失敗したら改めて初級・中級者募集する感じでいいか?」
「ん。そうしよう。どうせアレを見ても、ここのギルドのヤツラはアクアが書いたってわかるだろうし、アクアを知らないヤツが見ても、そいつがまともなヤツだったらイタズラとしか思わないだろ。」
「だな。」
そう。有能で稀有な上級職があんな募集で来るわけがないのだから――
俺はこの日厨房で働きながら、クリムゾンビア一杯おごる事で片手剣スキルを教えてもらうことに成功し、初めてのスキルを習得した。
カズマはアクアが『すぐに来るわ、見てなさい! そう! 今来るわ! すぐ来るわ!』と引きとめらてテーブルから一切動いておらず。結局その日一日テーブルでダラダラとしながら、夜にはアクアが宴会芸を披露していた。
★・。・゜☆・。・。★・。・。
翌日。
俺が厨房で普通に働きだし、隙を見つけてはルナさんにパーティバランスやパーティ内での一般的な報酬の分配方法なんかを質問してみたり、冒険者達に実情を確認したりして情報を集めて過ごした。
色々聞けたおかげでなんとなく一般的なパーティのシステムも理解できたので、昼の厨房の忙しい時間帯に向けて仕事モードに切り替えて料理場で慌ただしく過ごし始めた頃、ホールで働いている女の子が俺に声をかけてきた。
「あのぉ……アスカさん。カズマって方がアスカさんを呼んで欲しいって言ってます。なんか『掲示板を見て希望者が来た』って伝言を預かったんですけど」
「……分かりました。有難うございます。お手数おかけしてすみません。」
間違いなく悪戯だろう。
内心イラっとしながらも、女の子には何一つ悪い点は無いのでキチンとお礼を伝える。
流石カズマだ。
が、一番されて嫌な時間帯に的確に悪戯ぶっこんでくるとか流石に鬼畜の所業すぎる。
とはいえ料理人の人数は増えているから俺一人の手が空かない程余裕が無いワケでもないので、入念に文句を言っておこうと他の料理人達に丁寧に断りをいれた上で調理場を出てカズマ達の姿をホールで探す。
目を動かすと程なくカズマとアクアの背中が見えた。
足を進めて行くと、カズマの向こうにヒラヒラしたローブのような物が見え、パっと見、カズマ達が誰かと話をしているようにも見えないでもない。
もしかすると誰か本当に募集に来ているのかもしれない。
――なんて思うわけがない。
そんなフェイクに騙される俺ではないのだ。
あんなアクアの募集内容で誰か仲間に入れて欲しいヤツが来るはずがないんだから。
きっと誰か人がいるように見えるだけで、誰かから借りたローブを持っているんだろう。徹底した悪戯だ。
俺ががっつり働いている時にアイツら楽しく遊びやがって……
そう思うと、心の奥がザワつき苛立ちを感じはじめていた。
そっちがそのつもりなら、もう後ろから飛び蹴りでも食らわしてやろうと足を早めてカズマに近づいていく。
その時
「やめっ、ヤメロー!」
と、聞き慣れない女の子の声が響き、その後に、 バチーン! と、大きくムチを打ちつけるような音が響き、
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!
イイッ↑ タイ↓ メガァァァッ↑!!」
そう叫びながら悶える女の子の絶叫と、痛みに悶える姿があるのだった。
俺はそれを見て思う。
――なんだ。
やっぱり幼女と遊んでるだけじゃないか。
改めて悪戯を確信し、俺の金を返す素振りのない恨みも乗っけて、カズマに飛び蹴りを食らわせるのだった。
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