離昇。

 ヴァラライア王国の超弩級大型空撃機は、全長37メルバル全幅は機体だけで14メルバル二層構造の船のような形をしている。そして、この超弩級大型空撃機を空に運ぶための翼の全長、全幅というべきか、長さ45メルバルの翼と呼ばれる空力発生機を二枚備えている。

 そして、その翼に6発の成石燃焼噴射器を各翼に三発づつ搭載、これによって分速167コンラルバルの速度を得る。

 速度と空力の相関関係を発見したのは、空の神ヘラル神のお告げによってということに多々神会では言われているが、実際には、聖人として祀られている、聖クラル・シングリリトルという一生一切一度も衣服を着ることのなかった稀にみる変人によって聖暦1159年の月齢3/7あたりで発見された。この速度と空力の関係が、発見されるまでに幾多のこの本人、、聖クラル・シングリリトルの明確な意思と蛮勇、それらの試みによる結果に寄って本人が瀕死の重傷から、女性聖人とされる敬虔な信者への異端儀式すれすれの姦淫が行われた末であることも公然の秘密とされている。

(姦淫と空力の関係は今持って、多々神会原理主義系歴史学者にもわからない学術的体型を保持している)

 これは、多々神会と信者、王国、教育機関、空力全般に関わる技術者、すベての人間の公然の秘密とされている。しかし本人が聖人に列挙されたことで家族、ユグリリ地方ならびに、その両方の名誉は保たれるどころか観光地、有名な神聖事実として成立しており、王国の誰も文句、抗議等のたぐい一切もちえない。

 超弩級大型空撃機は、空中の安定を得るためにこの翼を前後にも幾枚も搭載しており、計翼は、主翼が4羽、補助翼は主翼を挟むように前後に二枚づつ搭載されている。

 一般には、鳥より、虫からその飛翔の仕組みを得たことに多々神会、御典本第47章では書かれている。

 しかし、当然これも多々神会による後付けの理論である。多々神会はつねに完全でないといけない。

 成石燃焼噴射器だけは、多々神会が口の挟む余地のない発掘機械である。これにも異端多々神会学派の学会では多数派の多々神会に対する異論が多数あるのだが、今のところ議論はどうにか拮抗を保っている。

 簡単にいえば、ちょとした船ほどある与木で出来た船に大きな翼を幾枚も搭載し、その翼に成石燃焼推進器をのせ無理やり成石を燃やし推進力を得て、飛んでいるのである。

 速度は、単発の戦闘空撃機に比べるとその半分程度しか出ない。そのかわり、約3.7パドンの重さの搭載能力をもつ。

 これも、他国と比較するものがないためにすごいのか、大したことがないのか、王国の誰にもわからない。

 ただ、この重さの空撃物は、ほぼ広さ89バートの建物すべてを破壊し尽くせる激爆物ならびに空雷物の搭載量に相当する。

 この人類が発掘した機械から多々神の恩恵で異様に進化した化物に約10人近く人が乗り込み長駆し、ザバシュ帝教連邦の新進獣畜産農場を空撃に赴くのである。

 

 ガンビアッス基地の整理塔に突撃旗と戦の神ヴァレレルア神旗が、掲げられた。多々神会の従軍会親が戦勝の舞ならびに戦勝の与木でつくられたホランを吹き上げるが、成石燃焼噴射器のあまりのうるささに搭乗員には多々神会、会親の数人の半裸の舞が小さくみえるだけである。最後に、飛行の無事を祈るため、拳ほどもある大型の打虫うちむしを出撃機数だけ、生贄として殺す。

 第622空撃機中隊、出撃ならびに、突撃の合図である。無線がないヴァラライア王国ではすべて旗と狼煙で交信を行っている。念には念を入れ、基地司令官の副官。ガリータス・ジン・ギャットが信号弾を空中に撃つ。彼には、残念ながらこれぐらいしか仕事がない。

 信号弾の色は、燃えるピンク。

 今回の作戦で、このガンビアッス基地から出撃するのは、621中隊から、"砕けない拳"に"吠える女心ロレッタ"、"6回目の浮気と4回目の暴力"、"黒衣のサネリリタ"の4機。ほぼ小隊規模である。

 そしてジン・フェンが搭乗し所属する我らが622空撃中隊からは、"大股開きのサンカ"

そしてわれらがジン・フェンが登場する"噛み付くドネッタ"、"大刀と大盾"の三機。こちらも小隊規模である。

 もう一中隊623空撃中隊からは"大嘘つき"に"嬌声と鬨の声"、"半分雷"、"性悪るリタ"の4機。これも、中隊と言いながら完全に小隊規模である。中隊や大隊、第何空軍などという大きな単位は、もう総合軍の作戦家の地図上にしか存在しない公然のファンタジーである。

 戦は長引き、国庫は底をつきつつある。王国の借財は、王家直近の金融商品として担保と利ざやが附属しているものの、独立した第三者理財団体ながらほぼ公的金貸しを経て、最終的には王国国民自身によって買い取られ、もはや誰が誰に借金をしているのか、中道の王立の経済学者ですらわからない状態である。もちろん額など把握しているものはいない。お互いで長く大きくつき続けている嘘と同じだと、国民は理解している。学者より国民の常識の方が賢明にして簡潔である、。

 簡単に言えば戦争そのものがもう限界なのである。

 

 各中隊は、滑走路に並んだ状態でそのまま編隊離陸を行う。もちろん、成石を少しでも節約するためだ。621中隊の"砕けない拳"から最後尾の623中隊の"性悪るリタ"まで離昇するまで軽く1/4刻かかることになる。

 やがて、"噛み付くドネッタ"の順番となった。

「戦友に告げる、いくぞ」

 "噛み付くドネッタ"の機長エラルラード・ジン・ムンケモンが伝声管で機内の各員に告げた。

 敬虔な多々神会アドラル派の副長テラル・ゾン・マイラートは多々神古劇第21説を小さな声で唱える。

 ジン・フェンは 離床する時の加速感が大好きだ。本当は禁じられているだが、操縦席まで行って、ものすごい早さで後ろへゆく滑走路の景色と加速感を楽しむ。その時、黄金の鎧を着た貴族とマントを着た、ジンとそれほど年齢の変わらない高貴そうな貴族とぶつかりそうになった。

 黄金の鎧を着ていたのは、人と変わらぬ年齢の高貴な貴族の護衛のキグナス・ジン・レイアード。長剣強弾という弾位をもつ剣豪である。体もでかい。

 そして、ジンと同じぐらいのこれまた高そうな黄金の鎧を着た青年貴族は、なんと王国の王家の人間。通称"見透かす深い目"と呼ばれる、ソダルソン第三王弟陛下である。

 実際の理由は誰も知らないが、戦時視察でこの"噛み付くドネッタ"に客人として搭乗している。

 ジンは、始めて今、このことに気付いた。

 高速の景色の誘惑には勝てない。ジン・フェンは、操縦席の末席に向かった。

 そこには、"見透かす深い目"ことソダルソン第三王弟陛下が座っていた。

 ジンが操縦席の末席に座れずにいる間に、"噛み付くドネッタ"は滑走路を蹴って、離床した。

 異教徒にして蛮族の巣窟であるザバッシュ帝教連邦を空撃するために。

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