一年後
無一文で何も分からず、何も知らず、誰も知り合いがいない俺がこうして生きているのは神様のおかげなのだろうか?
違う。
俺の実力だ。
そしてこれも違う。
神は何もしないし、何もくれない。
小銭をくれる道行く人の方が俺にとっては神様なのだ。
なんの話をしているのかって?
物乞いしている俺にとって神様はお金をくれた人たちだって事だよ!
分かれ、そのぐらい。
あ、伊藤 蕾です。
佐々木さんに助けられ、早一年が経過しました。
……いろいろあったな~。この一年。
ま、その話はつまらないから置いとくとして、俺は今物乞いをしています。
「お恵みを~……。どうか……お恵みを~……」
チャリ~ン。
ヒャッホ~!!
硬貨の音だぜ~!!
神降臨だぜ~!!
「おおぉ!! 銀貨だ……」
銅貨かと思ったら銀貨だったよ!!
今日も良い物乞いの日だったぜ……。
帰るか。
「……」
チラッと大通りの道の先にある貴族区の更に奥にある城を見た。
あの城に召喚され、おそらく死ぬ運命だった俺の命を救ってくれた佐々木さんには本当に感謝している。
……感謝と言う言葉では言い表せない。
恩人の方がしっくりくるな。
この一年で分かった事はあの城では一日に数回の召喚が行われ、一回の召喚で数人の日本人が強制的に呼ばれる。
その日本人たちはステータスを量られ、弱ければ処刑される。
では何故、俺は即座に殺さずに牢屋に入れるという面倒な事をしたのか。
それは異世界人の特性が起因していた。
異世界人。
つまり俺のように無理やり召喚された者の事を指すが、どうやら俺たちは命の危険にさらされると、覚醒と呼ばれる現象を極稀に起こすらしい。
これは図書館で調べた文献に載っていた一説だ。
『異世界人は危険が身に迫ると著しくステータスが上がる覚醒と呼ばれる現象が起こる』
文献ではこれ以上詳しい説明は無かった。
だが、コレで俺が殺されずに牢屋に戻された意味が分かった。
アレは覚醒を促す為だったのだ。
俺の目の前で殺された真守も一撃で殺されず、危険を体験させて覚醒を促したのだろう。
あの兵士もそんな事を言っていたしな。
クソ。
思い出しただけで怒りがこみ上げてくる。
「ふぅ~。……帰るか」
俺は城から視線を外し、俺の家に戻る。
現状、俺に覚醒の前兆はない。
……いつか出来るかな?
……出来たら良いな~。
俺の左手に住む邪竜はいつ目を覚ますのやら。
多分、無理だと思うけどね。
そんな事を考えてる間に帰宅。
「ただいま戻りました~」
大きな扉を開けて入る。
少し重い。
後で直すか。
「あらあら。お帰りなさい、ツボミさん」
「ただいま戻りました。シスター」
俺を出迎えてくれたのはシスター。
この街の小さな教会でトップの人だ。
シワシワだが背筋もピーンとしていてとても凛々しい女性だ。
後、五十年早く出会えていればお付き合いを申し込んでいたかもしれない。てか、する。
「本日はどうでしたか?」
「とうとう目標金額に達しました」
「……そうですか。それでは歩みを始めるのですね」
「はい」
俺の返事でシスターの顔が嬉しいような悲しいような顔をする。
「出会ってから今に至るまでアナタは傷つき、時には折れてしまいそうになりながらも頑張り、今を生きました。そして明るくなり、周りに想いを配る心も芽生え、とても成長しましたね」
「……シスターの背を見て学びました」
本当にこの人には頭が下がる。
恩しかない。
返しきれない恩が。
どうやって返して良いのやら。
「それはアナタが変わったからです。アナタが変わらなければ、私の背を見ても何も得る事は出来ないのですよ」
「俺が変われたのはシスターのおかげですから、全てはシスターのお力です」
本当に後、五十年早く出会っていれば結婚を前提に付き合っていたのにな~。
「フフフ。そう言う事にしておきましょう。……では」
実際にそうなんだけど?
俺がシスターに会ってなければ俺は野垂れ死んでたんだけど?
シスターは礼を俺にすると、部屋に戻ってしまった。
この世界に若返りの薬ってあるのかな?
あったら手に入れて、シスターに飲ませて結婚かな?
あれ?
これって俺にとってハッピーだけど、シスターにとってはどうなんだろう?
ま、いいか!
若くなって健康になればそれだけで俺は満足だしね。
さて、お金が目標金額の金貨三枚に到達したので俺の目的を現実にしていく為の行動を開始しよう!
俺の目的は『世界旅行』だ!
ちっぽけだと思うんなら笑えば良い。
異世界に来たからには異世界を満喫したいっていう俺の心にある気持ちに従ったんだ。
だが、外は危険だ。
モンスターが跋扈するこの世界は強さがモノを言うのだ。
護衛を雇ったり出来るのは安定的な収入がある奴だけだし、俺は何一つ持ってないからな~。
と、言う訳で……。
「行くぜ。奴隷商」
教会でボソッと呟く俺。
やっぱり仲間が必要だ。
だが、俺にとって命を預ける程の信用を置ける人物を作るのは難しい。
現状ではシスターと数人ぐらいしかいない。
だから奴隷だ。
使い潰す事はしないが、裏切る可能性が低くて俺が外に行く時も一緒に付いて来てくれるのは奴隷しかいないだろう。
友達作るの下手だから仕方ない。
奴隷にもある程度の人権もあるし、後ろから刺される可能性もゼロではない。
だが、俺にはこれしか方法がないのだ。
レッツ、お金を持って奴隷商。
この街は大きく、中心区以外は東西南北に部類される。
中心区の中心は城でその周辺が貴族が住んでいる区画。
そしてさらにその周辺がお金持ちが買い物をする高級街だ。
俺が物乞いしているメインの場所だ。
あそこは美味い。
その中心区として部類し、庶民区は主に住宅区、商業区、冒険区、食料区で分かれている。
協会は住宅区と冒険区の間だ。
買い物が地味に遠いのが難点だ。
そして商業区のメインに堂々とある奴隷商。
奴隷激戦区のここで買えば外れはないと言われている。
だが、俺はそれを信じない。
俺には悪魔がほほ笑んでいるのだ。
0%の可能性を1%してそれを引き当ててしまうのが俺だ。
しかも悪い方向にベクトルが向いているのは神様のイタズラだ。
イタズラにしては笑えないんだけどね。
悪魔と神で俺を使って遊んでんじゃねーよって叫びたい。
と、思考がズレた。
そんな俺はリサーチを十分にしてあるお店の扉を開ける。
「いらっしゃい」
日本人が奴隷商と聞いて思うのが鎖に繋がれた人たちが並び、汚く臭そうな場所に薄着で放置され目には活力がない感じを想像するが、この世界の奴隷は一定の水準で人権を保障している。
なので、ボロボロで死にそうな奴隷はむしろ珍しいのだ。
この激戦区では売れないだろう。
「お客様。今日はどのようなご用件でしょうか。一目、奴隷は見て行きませんか? お茶とお菓子のご準備もありますので、こちらにどうぞ」
俺は何も言わずに一室に通される。
そして目の前にいい匂いのお茶とお菓子が出される。
お茶と言っても紅茶だな。
お菓子はクッキーだ。
中々うまい。
激戦区ゆえのサービスの向上は日本も異世界も変わらないもので、食料区では日本のような対応を受けるお店もあるほどだ。
1回来たことがあるが、その時も手厚いサービスを受けた。
あの時も美味しいお茶とお菓子をご馳走になった。
ま、冷やかしだったのだけどね。
「それで、本日のご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」
お茶のおかわりが3杯目になった時、定員さんに聞かれてしまった。
美味しいお茶とお菓子に夢中になってしまった。
「奴隷を買いに来ました」
「左様ですか。では担当の者を連れてきますので少々お待ちください」
そう言って店員が行ってしまった。
お菓子のおかわりもらおうと思ったのに。
「お待たせしました」
「どうも。奴隷担当のガイルです」
入ってきたのは見るからに表向きな仕事をしてるとは思えない顔の男性だった。
「あ、どうも」
俺の向かいに座った奴隷商のガイルさん。
と、その前に去ろうとしている店員さんにお茶とお菓子のおかわりを頼んだ。
「それで、どのような奴隷をご所望で?」
「一番安い奴隷はどのような奴隷ですか?」
質問に質問で返すのは悪いと思いながら質問した。
「え~。何も技能の無い子供は安いですね。男女で分けるなら若干の差は出ますが、それほどの違いはないです」
男なら力が強い方が高く、女は顔が良い方が高いのだろうな。
「体力がある子供奴隷を見せてもらいたい」
「予算はいくらまででしょうか」
「銀貨500枚だ」
「分かりました」
ガイルさんが席を立つのと同時に店員さんがおかわりを持ってきてくれた。
お茶とお菓子を満喫しながら待つ。
「お待たせいたしました」
そう言って数人の奴隷を連れてきた。
なんで全員女の子なのだろうか。
そして次々に説明を始める。
なぜ全員が処女である事をアピールする?
え、俺ってロリコンだと思われているのか?
否定すれば怪しいし、否定しなかったらそのままロリコンのレッテルが貼られるのだろう。
どうすれば。
「いかがでしょうか」
「どうすれば……。ん?」
おっと。
悩んでる間に説明が終わってしまった。
最少は13歳で最高でも16歳か。
日本だと中学生から高校生の年齢か。
反抗期とかあるのだろうか。
ま、質問してみるか。
「体力に自信がある奴はいるか?」
数人の子供が手を上げる。
と、その中に頭の上部に耳のようなものがある子を発見した。
どうやら猫の獣人のようだ。
「ガイルさん。その子の値段は?」
「400ですが買ってくれるなら300まで下げますよ」
むむ。
銀貨300枚か。
いい値段だな。
「お前、体力に自信はあるのか?」
「うん」
「俺は外の世界に行くんだが、お前はモンスターと戦えるか?」
「うん。武器とかあれば」
「そうか。報酬に何を望む?」
「何でも良いの?」
「あぁ。買ってすぐに自由にしろってのは無しだが、将来的になら考えてもいいぞ」
猫少女は首を左右に振った。
おや?
どうやら違ったようだ。
「なら、何がいい」
「美味しいご飯が食べたい」
「ご飯?」
「うん!」
何とも子供らしいと言うかチョロイと言うか。
「お前はご飯のために命をかけるのか?」
疑問に思ったから聞いてみた。
俺の質問を理解できているのだろうか。
「明日より美味しいご飯のために!」
ん~?
明日生きるよりも今この時に美味しい物を食べたいって事か?
面白い奴だな。
「よし。買おう」
「ありがとうございます。では銀貨300枚でよろしいでしょうか」
「あぁ。全部合わせて300枚だろうな?」
あ、ガイルさんが引きつった笑みを浮かべている。
「分かりました。すべて合わせて銀貨300枚とさせて頂きます」
「どうも」
お礼に満面の笑みをプレゼントしよう。
「先に料金を支払って頂けますでしょうか」
そう言われると思っていたので、財布に銀貨で500枚入っている。
300枚を数えてガイルさんに渡した。
ガイルさんは小銭を量る機会で一気に量ってた。
そんな便利なモノを持ってるんなら貸してくれよ!
そう思ったが、すぐに俺が買う以外の奴隷を連れて去ってしまった。
俺と猫少女だけになってしまった。
「お前、名前は?」
「サンです」
敬語?
俺がご主人になるからそう言うのかな。
気にしないんだがな。
「ご主人の名前は何ですか?」
「蕾だ」
「ツボミ様」
「呼び方はなんでもいいぞ」
「旦那様?」
「それ以外で」
なんで旦那様なんだよ。
俺は結婚もしてないよ。
「ツボミ様」
「それでいいか」
「はい」
ふむ。
サンは猫耳の付いた人だ。
頭に耳は飾りで横にも耳が付いている。
でも上部の耳には重要な神経とかが集まってるらしい。
よく見ると目は少し鋭いな。
「サン。ちょっと口を開けてみろ」
「あ~」
歯も普通かな?
「獣人は人に近いんだな」
「私は生粋の獣人ではありません。お母さんのお母さんが猫の獣人でした」
つまりクォーターって事か。
猫っぽくないしな。
「よろしくお願いします」
「よろしくな」
こうしてサンを手に入れる事が出来た。
まずまずの買い物ができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます