詩
稲妻Z
男は見栄っ張り
勢いのまま飛び出していった
こんな場所にはいられない
勢いのまま吐き出していった
ここは俺にはふさわしくない
くすぶる情熱
認められたい不満
それだけを持って
都会の電車に乗りこんだ
俺が若かった頃
ありのままの自分でいられると
思うがままの未来になると
確証もなく信じていた
俺が純粋だった頃
這いつくばって駆けずり回って
歯を食いしばって汗を流して
それでもまだ自分の理想に追いつけない
努力も忍耐も人一倍
なのに何かが欠けている
己を越えるために必要なもの
頭を振り絞って考えた
俺が涙を零した夜
やっと勝ち取った勝利の吉報
誰に知らせるか胸が踊り
最初に思い浮かんだのは
がなりたてる父の顔
寂しそうに笑う母の顔
自分を無理矢理納得させて
黒い受話器を取った
俺の努力が報われた日
涙ながらに怒鳴られた
嗚咽混じりの父の怒号に
つられて俺も目の前が滲む
あの頑固親父は
「よくやった」と
あのいけすかない親父は
「帰ってこい」と
今までになく厳しい声で
そして俺は帰ってきた
田舎には似合わないスーツ
こざっぱりした格好で家の戸を叩く
記憶より少しだけ老けた顔が二つ
「おかえり」と出迎えた
鏡に映った都会じみた自分
「ただいま」と頭をかいた
俺が馬鹿だった頃の話
詩 稲妻Z @senshuonion
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