5話「うそかわうそ」

 あなたは知っていた。誰よりも身近なところで、誰よりもあの子と仲良くしていたから。触れ、戯れ、じゃれ合うことで得た知識は、大きな力となる。そしてその力こそが、大きな結論を招くのだ。


 闇は去り、世界は再び光に包まれた。それは弱いながらも、精一杯力を示そうとしている。その結果、ジャパリパークは仄かな温もりに包まれることになった。

 目覚めたウソに夜の話をする。彼女は、これっぽっちも驚愕しなかった。

「らしいね」

 ウソの返答はそれだけだった。言うべきことは言ったウソは、次なるたのしー話題をまだかまだかと心待ちにしている。

 私は、ウソに何故驚かないのかその理由を聞いた。

「だって、セルリアンが教えてくれたもん!」

 セルリアンが教えてくれた──?

「ちょ、ちょっと待って。あなた、もしかしてセルリアンと話せるの?」

「話せないよ。でも、意思疎通を図ることくらいはできるよ。きっと皆も、やらないだけでできるんじゃないかなー」

 私には、ウソが何を言っているのか分からない。

「私も何度か話してみようって頑張ったことがあるんだけれど、毎回攻撃されちゃって話にならなかったよ?」

 私よりも長い間ジャパリパークで生活を送っているサーバルでさえも知らないことを、ウソは知っているというのか?

「話し合いは私にも無理かなー。もっと強引に、楽しくいかないと!」

「何だか、ウソが別人みたいに思えてきたぞ……」

 ターバルは、発言しながらぶるりと身体を震わせた。

「別人かー……あながち間違いじゃないかもね。今までの私は、嘘の私だったし」

 ウソは、ターバルの言葉に同意した。

 嘘のウソではない真のウソは、一体セルリアンのことをどこまで知っているのだろう。問い質す必要があると思った私は、思い切って次のように質問してみることにした。

「ねぇ、ウソ。あなたは、このセルリアンのことをどこまで知っているの?」

 ウソは、己の記憶を探るためにしばらくの間唸っていた。

「セルリアンは今、爆発的に数を増やしているということ。セルリアンは、ヒトに寄ってくるということ。フレンズ型のセルリアンは、悪いセルリアンじゃない。ざっとこんなことろかなー」

「それは全部、セルリアンに聞いたことなの?」

「そだよー」

 ウソからもらった情報は、私達の旅に必要なものだと私は確信した。何故なら、セルリアンは最も強大な障害だったからだ。セルリアンと出会ったら戦わなければならないし、怪我だってするかもしれない。戦うと疲れもするし、怪我をすると治るまで周りに気を遣わせることにもなる。期限はないものの、時間の浪費は極力避けて通りたい。

「セルリアンから情報をもらえるなんてすごいね!」

「私にもできるか!?」

 興味津々の二人に、ウソは少し考えて、

「うーん、厳しいかなー」

 と、曖昧に否定した。

「そっかー……」

 セルリアンとの交流は難しい。私は、ウソの言った情報にその一文を付け加えた。

「難しい話をしたら、お腹空いちゃった! ジャパリまん持っていない?」

 そう言ってお腹を擦るウソに、サーバルが懐から出した食料を差し出す。

「はい、どうぞ!」

「わーい! ありがとー!」

 ウソの発言を嚆矢として、私達は朝食を取ることにした。


 空は青さを増し、太陽も本調子となった頃、昨日も聞いた水を掻き分ける音を私の大きな耳が捉えた。

「来た!」

 ウソが見付けてきた石でお手玉の練習をしていた私の前を、ジャガーが通り過ぎようとしていた。

「おっ、まだここにいたのか……って、ここで夜を過ごしたの!?」

 ジャガーは呆れ半分、驚き半分といった声色でそう言った。

「その話はまた今度……」

 私達は、泳げないウソをカワウソ達のところまで連れて行ってあげるようジャガーに依頼した。

「私は、誰であろうと乗せてあげるよ! カワウソなんて、もう数え切れない程乗せてあげてるしねー!」

「カワウソ、ジャガーのことが大好きだもんね!」

 ウソの搭乗を視認したジャガーは、止めた足をまた動かし始めた。

「じゃ、お達者でー!」

「ばいばーい!」

 別れを告げる二人の姿が見えなくなるまで、私達は手を振り続けた。

「さて──」

 ターバル、私の順番に顔を見たサーバルは、後ろを振り返る。

「としょかんまではバスを使った方が早いんだよ!」

 バスとやらが停まっているらしい場所まで先導するサーバル。彼女が草のカーテンを開くと、植物の生えていない一帯の姿が見えた。そこには黄色い乗り物が停車しており、すっかり存在を忘れてしまっていたボスがその前で待機していた。

「これが、ジャパリバスだよ」

 待っていましたと言わんばかりに始まるボスの説明を聞き流しながら、私達はサーバルの後を着いていく。

「ここに乗れるんだよ!」

 サーバルは、バスの後部にある四角く囲まれた空間へと入っていった。

「へぇ~……」

 屋根があるので、雨の心配はしなくてもよさそうだ。

「すっごーい!」

 ターバルはあちこち触りまくりながらはしゃいでいる。私も、彼女のことを言えないくらい騒いでいたが。

「バスは運行中だよ。電池もあるし、いつでも出発できるよ」

 バスの前の席に座ったボスは、どこに行きたいか指定するよう言ってきた。

「目的地はどこにする?」

「せーの……」

 サーバルの掛け声に合わせて、三人のサーバルキャットはその場所を高らかに宣言する。

「じゃぱりとしょかん!」

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