来世はウイルスみたいです。
@kurehaneko
第1話 ウイルス
俺はごく普通のサラリーマンだった。去年重篤な病を患い病院に入院している。
症状はどんどん悪化していき、今ではもう体も動かない......
「先生、109号室の患者様に異常があったようです!」
「わかった。今行くから急いでバイタルサインの確認をしてくれ」
なんだかたくさんの人が俺に向かって話しかけている。
おぼろげな意識の中俺はそれをただ見ていることしかできない。
「脈拍、呼吸共に低下を確認。意識レベルも低下しています!」
なにか言い合っているようだ...
まぁそんな事どうでもいいか...
そろそろお迎えも近いみたいだ。瞼が重くなってきた。
友人のひとりもいない。借金を抱えてからは家族にも縁を切られた。
そんな俺を見舞いに来てくれる人など いるわけが無い。
こうやって1人で死んでいくんだな...
あぁひどい人生だった・・・・・・
「先生!どんどん心拍数が下がっています......心停止を確認しました!」
「わかった。心臓マッサージを行っている間に急いで除細動器を用意してくれ!」
「はい、わかりました!」
「彰さん、頑張ってください!電気ショックまでもう少しですから!」
「先生、除細動器の準備が出来ました!」
「わかった。ではみんな離れて......」
除細動器のボタンが押された。
バクンッバクンッ
「心拍...戻りません...」
午前3時22分
「脈拍なし、瞳孔散大、対光反射の消失を確認。死亡を確認しました」
その日おれは死んだ。
池崎
享年 26歳
起きてください。起きてください。
そう体を揺すられると俺はうっすらと目を開けた。
「あれ?俺は死んだはずじゃあ」
「いいえ、厳密には死んでいません」
一体どういうことなのだろう......
「お姉さんバカいっちゃいけないよ。おれは重篤な病にかかって死んじまったんだよ...」
「はい、そのように記録されていますね。正確にはあなたは死んだのではなく肉体から魂が離れただけなのです。そうして魂が肉体から離れたあとはこの天界へともどってくる仕組みになっているのです。そしてごく稀に生前の記憶を保持したままの魂も戻ってくるのです。今回はあなたがその魂だったようですね」
そして俺が唖然としている中、暫くの間を置いたあと、
「あなたはこれから第二の人生を始めるのですよ。早く起きて一緒に来てください」
お姉さんはそう言うとにっこり微笑んだ。
そしてそう言われて改めて俺は実感した。
あぁここは死後の世界か...と
「あっ待ってください。お姉さん」
そうしておいてけぼりにならないように追いかけていくと大きな広間に出た。
どうやらここで何かをしているらしい。
「次の人生への受付はあちらになります。奥にあるカウンターにお並びください」
そう言われて奥の方を見ると同じように死んだ人なのか数人ばかりの列ができていた。
(何だかみんな表情が虚ろだな。記憶が無いからなのか?それにしても名前を呼ばれたら返事はするんだな。記憶が無いのにみんな名前だけは覚えてるんなんて不思議なもんだ)
おっと、そんなことを考えていたらどうやら順番が回ってきたみたいだ。
「えーっと、池崎 彰様ですね?」
「はい、そうです」
なにも見ずに名前を言っちゃったよ。一人一人の名前を覚えてるのか?
すごいなぁ。彰くん感心。
「池崎様は記憶を保持したままだと記録されていますがそれでよろしいですか?」
「はい、そうです」
えっ?なんか記憶を持ったままだと不味いんだろうか...
「えーっと、それではご説明させていただきます。
こちらの天界では記憶を消す事は出来ませんので記憶を保持したまま第二の人生を始めていただくことになります」
(あれ?これラッキーじゃね?今度こそ薔薇色の人生が俺を待ってる気がする。記憶を持ったまま生まれ変われるとか俺得すぎるよこれwww)
「池崎様、それではこれからあなたの第二の人生についてお話させいただきます」
「はいっ!」
そういって受付の女性は封筒から一枚の紙を取り出した。
「池崎様の第二の人生なのですが......」
「ウイルスです」
「はい?」
俺は言っている意味がわからず、思わず聞き返してしまった。
「ですから、ウイルスです。」
「はい?」
なんか変な単語が聞こえるのは気のせいだろうか?単なる幻聴に違いない。いや、絶対そうに違いない。
「ですから、ウイルスですって!」
そう力強く女性は答えた。
どうやら幻聴ではないらしい。
そんなことを一瞬考えると叫び出していた。
「なんですとーーー!ウイルスってあの風邪とかの原因のウイルスですよね!?」
「そ、それはこちらの説明書に記載してありますので、詳しくはこちらの説明書を読んでください。」
「は、はぁ。わかりました。」
そういうと薄っぺらい紙を取り出した。説明書の割になんだか薄っぺらいけど何なのだろう。
「あの~、次のお客様がお待ちなので横にずれていただけるでしょうか。それと一時間以内にあのゲートを潜って次の人生へ行かないと魂が浄化されてしまうので気をつけてください」
「わかりました......」
そういって彰が横にずれると受付のお姉さんは次の客の対応を始めた。
どうやら本当に俺の来世はウイルスらしい。
とりあえずさっき貰った紙でも見てみますか......
えーと、どれどれ。
「これからのあなたの人生はウイルスです。
あなたはウイルスとは何かを知っていますか?
ウイルスはほかの生物と違い生物の最小単位である細胞を持っていません。
それ即ち、ウイルスは生物ではないのです。
ではどうやって生物ではないウイルスは増えているのか?そう疑問に思いませんか?
ウイルスは細胞を持たない代わりに独自の遺伝子を持ち、それを宿主である生物に組み込むことで増殖しています。
例えば、ウイルスが動物の体内に入り込めばたちまちウイルスは増殖し、その体は侵されるでしょう。そして次の生物の体へ。また別の生物の体へ。
こうしてウイルスは増殖していきます。
あなたはそのウイルスとなるのです。
世界へのゲートを潜ればあなたは次の瞬間にはウイルスになっていることでしょう。
それではあなたの次の人生に幸福がありますように。」
えっ!?これだけ!?
ほかの説明はなんもなし?
俺の次の人生は生物ですらないの!?
しかもウイルスになってどうするとか何をしたらいいとか全く分からないんですけどぉ!?
あぁ、あれか。なってみたら分かるってやつか。なるほどなるほど。
いやいや、ホントだろうな...
まぁなるようになれだ。
俺は散々不幸な目にあってきたんだ。
今更不安がることなんか何も無いじゃないか。
ふぅ落ち着いてきた。
「でもなんだが不思議な感じだな。
あのゲートを潜れば今までの俺じゃなくなるんだもんな。
まあゴチャゴチャ考えてても仕方ないし、そろそろ次の人生始めるとしますか。」
そう言うと次の世界へのゲートを潜るのだった。
~拝啓~
お父様、お母様。
もう縁は切ってしまいましたが一応報告しておこうと思います。
僕の次の人生はウイルスみたいです。
死んでしまって伝えることは出来ませんけど、次の人生頑張ります。
来世はウイルスみたいです。 @kurehaneko
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