第25話
「納得いかない……全然納得いかない!!」
魔王トゥーカを勇者が倒した。
その朗報は世界中へと一気に知れ渡り、翌日である今日でも、新聞でそのことが伝えられている。いるのだが……その内容に俺は憤りを感じている。
『八大魔王溶解のトゥーカ、美少女勇者に倒れる!!』
『魔王トゥーカを倒したのは勇者アツヒメとその仲間たち』
『勇者アツヒメは宝具アネモスを使うことのできる稀な能力を持っており、今後我ら人類にとって大きな希望となるだろう』
褒め称えられているのは嬉しい、本当に嬉しい。でも、なんでアツヒメなんだよ!俺はどこに行った!?しかもこの書き方だと宝具が使えるブレイバーを持った女の子だってことになるぞ!もっとしっかりとした情報得てから記事にしろよ新聞社!!
不満の炎をメラメラと燃え滾らせている俺の傍らで、伊集院は記事を読んで盛り上がっていた。
「おい見ろよ、『勇者ユキムネの活躍は、魔王を倒す上で重要なカギとなった』だってよ!いやーこれはまた俺のモテ具合が高まってしまったかもなぁ」
「おほっ、『魔王トゥーカへの道を切り開いたのは、勇者イサオのブレイバーがあってこそ』だって!デュフ、照れますな~」
「『今回のことにより勇者ミューが女神であるという確信に近づいたと専門家が話している』……まあいいわ、近づいただけ良しするか」
「雨宮!いつまで部屋の隅で呪いの呪文唱えてないでこっち来いよ!」
「うるせぇ!お前らはいいよな?ちゃんと活躍が載せられてて。それに比べて俺なんか……」
「まあまあ篤人氏、そんなに落ち込むことないお。それに篤人氏は基本アツヒメたんになってる時間の方が多いんだから変わらないお」
「変わるよ!360度変わるから!」
「それ元に戻ってるお篤人氏」
「折角、折角まともな戦いができたのに……こんなのって……」
床に手を付いて項垂れる俺を見て、伊集院と篠原は面倒臭そうに顔見合わせた。新聞をテーブルに置いたミューはそっと俺の傍に近づき、俺の頭を撫でた。
「アツヒト……」
ミューの優しい声に、俺は顔を上げた。
「ごめん、今の私ね?アツヒトがガッカリしてるところを見てすごい幸せ」
その顔は腹が立つほどいい笑顔だった。それを着火剤に俺の燃え立つ不満はついに爆発した!
「この邪神がぁ!!そもそもなぁ、アツヒメになって戦うこと自体がおかしいんだよ!勇者なら伝説の武器とかを携えて、仲間と共に苦難を乗り越え魔王を倒すもんだろが!」
「伝説の武器なら携えてるし、一応連携を取って倒したじゃない」
「俺の理想とかけ離れ過ぎなんだよ!」
俺とミューの口喧嘩に、伊集院と篠原は「また始まった」と呆れながらほっこりしていた。
「大体、お前が余計なことさえしなければこんなことにはならなかったんだ!」
「言ったでしょ?王道展開なんて御免、魔王を倒すための冒険なんかよりも魔王も倒さずぐーたらしてた方がマシよ!」
「いいや、絶対冒険してた方が楽しい!なんで今までそれを見てきたのにその魅力がわからないのか俺は常々思ってたんだよ!」
「わかりたくもないわよあんなありきたりな展開!それなら魔王がシエルに告白して顔が好みじゃないって理由で振られるほうがよっぽど面白いわ!」
「テメェ、あれと比べるんじゃねぇよ!ぶっ殺す!こいつぶっ殺してやる!」
「ぎゃああ!!ちょっと、首を狙わないでよ!」
「うるせぇ!お前だけもう一度転生しやがれ――って、お前また勝手に能力使いがやったな!」
「ふっふっふっ、さあこれで互角――いたたたた!痛い!痛いって!関節技は痛いってアツヒメちゃん!」
「おほぉ~、ダブルパンチラ頂きました~」
「いいのか篠原、アツヒメちゃんのは男物だぞ?」
「ブカブカな男物のパンツを履いてる女の子……よくない?」
「……ありだな」
「勝手に見るな変態共!!」
大きな豪邸から怒号と叫びと悲鳴と小さな竜巻が外へと飛び出している。
今日もどうやら、王道的な一日を送れそうにないらしい。
ありきたりな異世界転生に物申す! 一二三五六 @12356
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