第20話
「は、初めまして!魔法使いをやらせていただいてます、レビット・ルスキニアです!よろしくお願いします!」
「ヒューマノイド族、ローガン・ジンクム、職業は狩人だ。よろしく頼む」
「ちーっす!俺はチャック・アキノニクス、職業は拳闘士でチーターの獣人だ!よろしく頼むぜちびっこ!」
「ちびっこ言うな!俺は雨宮篤人、今こんなんだけど一応男だ」
「ふーん、職業は?」
「………魔法少女」
「体温の一時的な上昇を確認……興奮してるのか?」
「恥ずかしいんだよ!」
サプライズ・トラベラー内の一角にある木造のテーブル席で、俺たちは自己紹介をしていた。ここにいる彼らは、今日から俺の仲間になってくれるパーティメンバーだ。全員勇者ではないが、そこそこ実力者だとか。
「さて、早速だけどマスターからクエストを貰って来た。っていうか、ここのクエストってブレイバー持ちの勇者向けばっかりだけどいいのか?」
「問題ない」
「はい、いつもそうですから」
「俺たちの実力舐めるなよ?」
「ほお、それは頼もしいな」
「それで?内容はなんだよ」
「えーと、廃村でたむろするゴブリンの討伐だそうだ。すげぇな、マジでゴブリンいるか」
「見たことないんですか?」
「まあな、この世界に来てまだ三日目だから」
俺の言葉にレビットとチャックは少し驚いているようだ。まあ、よく考えたら結成三日で魔王の幹部を全員倒してる勇者パーティって早々いないだろうな。
「なるほど、マサトがあっさり引き受けたのも頷ける」
「そうですね」
「ったく、勝手なことするぜアイツも」
ローガンは大した反応をしてはいなかったが、レビットは少し落ち込み、チャックは不機嫌そうにそっぽを向いた。それに対して俺は苦笑いを浮かべたが何も言えなかった、というよりも言う資格がなかった。あの取引に持ち掛けた俺には……
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レオデーゴを倒した次の日、俺たちはサプライズ・トラベラーに向かっていた。以前借りていた宿と比べると距離が開いてしまったが、気にするほどでもなさそうだ。
今回の目的は、人生初のクエスト受注。それと朝食だ。今朝はシエルに土下座して、伊集院と篠原のご機嫌取りをしていたこともあり準備できなかったのだ。それにしても、あの魔法少女のコスプレは今でも恥ずかしい。
「はぁー、シエルたんと朝食食べたかったお」
「まだ言ってんのかよ」
「シエルはお姫様なんだから、お城に戻らないといけないのはしょうがないでしょ?」
「でも朝食ぐらい一緒に食べても良かったんじゃないかなー」
「お前らが俺で遊んでなければ食えたんだから、自業自得だ」
そんな他愛のない会話をしながら歩いていたのだが、さっきから視線を感じる、一つではなく周囲から。不思議に思い辺りを見渡してみると、町を歩く人たちや買い物中の人たちが、まるで有名人を見かけた一般人のような反応をしていた。
「なんか俺たち目立ってないか?」
「そりゃ目立つわよ、なんたって魔王の幹部を全員倒したんだから!」
「今や時の人ってことか?」
「女の子にもモテモテになるかな?」
「いや、そこまでじゃないだろ」
でも街中でこれなら、サプライズ・トラベラーでは歓声すら上がるかもな。
そんな期待をしている内にギルドへ到着する、俺は少し緊張しながらギルドの扉を開いた。
「あっ、来やがったなこの野郎!」
俺たちを出迎えてくれたのは見知らぬ一人の男、風貌からして戦士だろう。男は何故か俺のことを睨み付けながら接近してきた、片手にジョッキ持ってるし酔っ払いのようだ。
「おいお前、強い仲間に囲まれてるからって調子乗ってんじゃねぇぞ?」
「………はい?」
「はい?じゃねぇよ!調子乗んなって言ってんの!女の子になれるのをいいことに甘えやがって……俺はお前みたいな卑怯なやつは大っ嫌いなんだよ!」
突然現れた男に畳みかけるように暴言を吐かれ、俺は唖然としていた。このよくわからない状況に、頭が追いついていなかったのだ。
「おい無視か?無視ですかええ?このおじさん怖いよぉってか?気色悪いんだよこのカマ野郎!」
「え、えーと、とりあえずその辺にしといた方が――」
やっと頭が働き始めた俺は忠告を促そうとしたのだが、時すでに遅し。男は突然動き出した服に拘束されて、首筋に剣を突き立てられていた。
「テメェ、俺たちのアツヒメちゃんになんて言った?」
「屋上行こうぜ、久しぶりに切れちまったよ」
「まあ落ち着きなさいよ二人とも、私が強いってわかってる辺り見る目があるわね」
「えっ、い、いやお前もこいつと似たようなもんじゃ――」
「山の中と海の中、どっちがいい?好きな方にぶち込んであげるわよ」
「お前らな……」
怒り心頭な我らがメンバーに簀巻状態でビクついている酔っ払いの男、喧嘩売られた側だがなんだか可哀想に思えてきた。
「は、ははっ、いいよなお前は、守ってくれるやつがいてよぉ。どうせ幹部もこいつらのおかげで倒せたんだろ?ていうか何もしてないんだろ?」
ぐっ、何もしてないのは確かに事実だけど、よく知りもしないこんな酔っ払いに言われると心底腹が立つ。このまま伊集院たちに任せてもいいかもしれない、そう考えたところで俺はあることを思いついた。
「……じゃあ、俺とパーティメンバー変えるか?」
「……へ?」
「「「えっ?」」」
酔っ払いと伊集院たちが同時に俺の方を向いた、それを気にせず俺は男の前にしゃがんで話を続けた。
「お前はあれだろ、ようするに俺のメンバーが強くて羨ましいってことなんだろ?」
「そ、そうだけど、何か文句でもあんのかよ」
「いや、だから組ませてやるよ俺のメンバーと、それで文句はないだろ?」
「ね、ねぇアツヒト?何言ってるの?」
「悪い冗談はよしてくれよアツヒメちゃん」
何やらアタフタし始めた伊集院達に、俺は屈託のない笑顔を向けた。その笑顔の意味を悟ったのか、三人は絶句したようだ。
「ま、まさかアツヒト、私たちといると王道展開が繰り広げられないからわざと……!?」
「アツヒメたん、恐ろしい子」
「ていうか俺たちの意見は!?」
「そうだお!僕はこんな酔っ払いごめんだお!」
「俺だって男には興味ない!頼むから考えなおしてくれ!」
予想通り伊集院と篠原から文句が出始めた。でも俺には切り札がある、あまり使いたくない切り札が。
俺は何も言わずに立ち上がって振り返り、胸の前で手を組んで二人を見上げた。
「ダメぇ?」
「「もちろんオッケー!」」
「はぁ!?何言ってんの二人とも!」
ふっ、チョロイなこいつら。
「まっ、そんなわけだからウチの仲間は任せたぞ新リーダー。で、お前のメンバーどこだ?」
「え?あー、あっちにいるけど……」
「おーあれか!そんなわけでよろしくなー!」
「ちょっと待ちなさいよアツヒト!アツヒトォおおおおおおおおおおおおお!!」
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そんなわけで、酔っ払い男のマサトのメンバーと俺のメンバーをトレードしたわけである。見たところ三人とも真面そうなだし、これは苦労することもなさそうだ。
「それじゃあ行こうか――って、つい仕切ったけどいいのか?」
「別に構わない」
「私たちも基本はマサトさんが仕切ってますから」
「まっ、少しは期待してるぜ?」
「そっか、じゃあお言葉に甘えて――」
「えええ!?何それ、ありがち過ぎでしょ!」
聞き覚えのある声に俺はそちらを向いた、クエストを貼り出している掲示板の前で、元メンバーと新リーダーが何やら騒いでいる。
「何?ゴブリン狩りって?ベタ中のベタじゃない!」
「いや、でもここは無難な方がいいと思うんだけど――」
「無難?無難過ぎて欠伸が出るわよ!それよりクエストなんかじゃなくて別のことしましょう、勇者が依頼受けて冒険とかありきたり過ぎ」
「お、おい言うこと聞けって!なあアンタらもこの子どうにか――」
「そこのレディ、この出会いは運命だ。もしよければ俺とサキュバス退治にでも行かないかい?」
「あぁ~ウサギの獣人族が可愛いんじゃ~」
「何やってんのお前ら!」
「あん?俺が男の言うこと聞くとでも思ってんのか?」
「性転換してから出直して来るお」
「よし、決まったわよ今日の予定!ユキムネ、イサオ、あとそこの無難男!ついて来なさい!」
「「はーい!」」
「えっ?いやおいどこ行くんだよ!ていうかどこ連れてくきだよ!おいってば!」
マサトは暴走する三人に置いて行かれ慌てて追いかけた、俺はこれから起こるであろう面倒事を予見して、静かに合唱した。
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