第11話
「はぁ、はぁ……まったく、酷い目にあった。あいつらほんと、女の子ならなんだっていいんだな……」
貞操の防衛戦になんとか勝ち抜いた俺は城の廊下をヘトヘトになりながら歩いていた。やっぱりこの体だと大の大人二人を相手取るのは相当苦労する。いつか負けるじゃないかと思うと本当に肝が冷えるな。
「それにしても、やっぱり小さくなると動きにくいな。靴もズボンもパンツも逃げてる間にどっか行ったし……」
もし今後戦いの最中に小さくなるアクシデントがあった場合、命取りになる可能性が高い。
「とりあえず小さくなった時の対処法としては、身動きが取りやすいようすぐに調節することだな……」
手すら見えなくなるほど長い袖は折り込みならが腕を捲り、マントを細く丸めて腰の位置で巻く。それにより股下まで隠せる裾がスカートっぽくなる。この際靴下も脱ぐか、裸足になるのはご愛嬌ということで。
「よし、とりあえずこれでオーケーかな。さてと、あと問題は……」
俺はどこかに放置されているであろうパンツを思い浮かべる。今ここにないということは、俺はノーパンだということ。流石にこれはマズイ、めちゃくちゃスースーするし。でもパンツも大きくて履けないし、もちろんこの体のために女の子のパンツを用意するのも断固拒否。
でもパンツは流石にあれこれできないよな……
「アツヒト様!」
声を掛けられ振り向くと、シエル姫がこっちに向かって早歩きで近づいていた。さっきまで着ていたドレスとは違い、黄緑色の綺麗なドレスを着ていた。流石は姫様、着る服も豪華だ。
「こんなところにいらしてたのですね」
「シエル姫……そっか、もうパーティーの時間なのか」
「はい、アツヒト様も主役なのですから」
「そうだな、じゃあ行くか」
俺はシエル姫と肩を並べてパーティー会場へと足を進めた。それにしても、身長が縮んだ所為かいつもより目線が低い、姫様もさっきより大きく見える。そう思って横を向いたところで、姫様の手元に目が止まった。
姫様の右手の薬指に、不可思議な形をしたリングに大粒のエメラルドだけが付いた指輪が嵌められていた。そういえば助けた時もつけてたな、ドレスは着替えたのにこれだけは変えずにつけたままだ。
「あの、姫様」
「なんでしょうか?」
「姫様がつけてるその指輪、初めて会った時からずっとつけてますけど、大切なものなんですか?」
「これですか?これは、我がアイリスの一族から代々受け継がれてきた宝具なんです」
「宝具?」
なんだか聞きなれない単語だな。
「あっ、そうでした。アツヒト様まだこちらに来たばかりですから、ご存じないんですよね?」
「ええ、まあ……」
「この世界には人間以外にも、多くの種族が生きて暮らしています。それぞれの種族には、その種族を生み出した神――創造神なるものが存在します」
「神様……ミューみたいなやつがこの世界にもいるのか……」
そういえばミューもそれっぽいこと言ってた気がするな。それにしても、俺の神様のイメージって完全にミューだからな。そんなのが他にもいると思うと少しうんざりなんだが……
「私たちのご先祖様たちは、創造神と対話することができたと言い伝えがあり、神様と交信をする者は“姫巫女”と呼ばれていたそうです」
「姫巫女……」
「姫巫女はこの宝具を使って創造神と意思疎通をし、その力の一端を授かり、行使することができたそうです」
「神の力を!?なんだかスケールのデカイ話だな」
「とは言っても、これもあくまで言い伝えですので、実際に創造神の力を扱えたかどうかはわかりません。ですが、私たちアイリス家は代々種族の代表して姫巫女を務めてきました。そして宝具も、こうして後世に受け継がてきました。なので、言い伝えも間違ってはいないのではないかと、私は信じています」
シエル姫は右手の宝具を見て、優しく微笑んだ。姫様にとっても、宝具は特別なものであり、大切なものなんだな。
「じゃあ姫様がその宝具を受け継いでるってことは、今は姫様が姫巫女ってことになるのか?」
俺の質問に対して、姫様は足を止めて少しだけ俯いた。いつもならどんな顔をしているか見えないが、子供の視線からだと悲しい表情をしているのがよくわかってしまう。
「す、すみません姫様!俺もしかして余計なことを……!」
「い、いいえ。大丈夫です……実は私、姫巫女になったことはないんです」
「え?」
「私だけではありません。叔母様もお祖母も曽お祖母様も、姫巫女にはなれなかったそうです」
「でも、なんだろう。姫様も一族は代々姫巫女をしてきた家系はずなのに」
「書庫の奥深くに眠っていた古文書によると、第一次他種族間抗争を機に姫巫女は創造神との交信ができなくなったそうです」
第一次他種族間戦争……フラニアードのど真ん中にある大木は戦争を止めた英雄のために植えられたって話だけど、これがその戦争なのか。
「その戦争で何かがあった、としか考えられないな」
「私は……神様に見限られたのだと思います」
「え?」
「かつてこの国は戦争によって傷つき、多くの民が命を落としました。エルフ族の代表でありながら、私たちは同族を守れなかったんです。だから……」
そう呟いた姫様の声は、今にも泣きだしそうなくらい震えていた。
その姿を見て、俺は咄嗟に手を取った。
「そんなことないですよ!」
「アツヒト様……?」
「えーと、俺あんまりこの世界で何が起きたかとか知らないんですけど、多分――いや絶対に!神様が見限ったなんてことはありません!だって、姫様のご先祖様たちはみんなを守るために戦ってきたんですよね?そんな人たちを神様が守り切れなかったってだけで見捨てるはずありません!世の中には飽きるほどテンプレ転生者を見てきた神様だっているんですから、必死に頑張って、守ろうとしていた姿は、絶対神様も見てるはずです!」
「………………」
シエル姫は何も答えはしなかった。でも、その代わりに俺の手を強く握り返してくれた。俺なんかの言葉で少しでも元気づけられたかはわからないけど、どうやら届いてはいるようだ。
「おおおおおおおおっと足が滑っ――たああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ごふっ!?」
湿っぽい雰囲気をぶち壊すように現れた声は、俺に向かってドロップキックを放ってきた。俺は見事に吹き飛び、一度カーペットの上をバウンドした。
「あ、アツヒト様!?」
「な、何が……」
「ふふん!私の目を盗んでヒロインとイイ感じになろうだなんてそうはいかないわよ!そういうのもういいから、もう云千万回と見てきたから!」
「こ、この……ッ!」
「だ、大丈夫ですかアツヒト様?」
「ていうか早くしなさいよ、もう貴方たち待ちなんだからね?」
呆れながら肩を竦める目の前の女神を助走をつけて殴りたい。言ってることは正論だけど殴りたい。
「すみません、すぐに向かいます」
「うん、よろしい!アツヒトもシエルくらい素直ならいいんだけど」
「黙れ邪神!大体テメェがロクなことしかしないから悪いんだろうが!」
「あーいいんだ?そういうこと言って」
「あ?」
腹立たしい笑みを浮かべながらミューが見せつけてきたのは、逃げてる間に落とした俺のパンツだった。
「きゃっ!」
「馬鹿ッ、お前姫様の前で人のパンツ出すな!」
「折角見つけて拾ったのに、いらないの?」
「ぐっ……」
「ふふ~ん♪さぁ謝りなさい、私を邪神と言った件も含めて」
「わ、悪かったよ。見つけてくれてありがとうございます」
「はい、よく言えましたー」
苛立ちを押し殺しながら、俺はパンツを受け取った。
その瞬間――パンツが炎上した。
「へ?……熱ッ!」
慌ててパンツを投げ捨てた、タイルの床に落ちたパンツは瞬く間に灰へと変わった。突然の出来事に若干パニック状態になったが、深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻す。
「な、なんでパンツが……」
「あっ、そうだった。もう一つ言うの忘れてた」
「は?何が?」
「もしその状態でパンツに触ると、パンツが炎上するから気をつけてね?」
「……………えっ、ごめんもう一回言って?」
「だから、女の子のままパンツに触るとパンツが炎上するんだよ」
こいつの言ってることが一ミリも理解できないのは、俺の頭がおかしいからなのか?パンツに触るとパンツが燃えるって、正直意味がわからない。
「あの、なんで?なんで燃えるの?」
「だってパンツ履いてない方が面白いから?」
「……………………」
「あっ、待ってアツヒト!落ち着いて、無言で拳振り上げるのは無し!ガチのパンチはダメ!私泣くわよ、いいの?私泣くわよ!」
「泣きたいのは……こっちじゃあああああああああああああ!!」
ブレイバー“
小さい女の子に変身できる。女神も発動できる。パンツに触ると燃える。
また一つ、いらない機能が備わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます