第9話

「………………………………ッ!!?」

「………えーと、姫様……救出しました……」


 ミューのスーパーイリュージョンによって召喚されたシエル姫を連れて、俺たちはアグリオ城に戻って来た。姫様と俺たちのことを見た国王と兵士たちは、開いた口が塞がらない状態になっている。まあそりゃそうだ、一ミリも期待していなかった奴らが、城を出て30分くらいで姫様連れて戻って来たんだから。


「……あ、あのーユーリス王?」

「……はっ、お、おおい貴様!いくら扱いが酷かったからといって偽物を見繕って連れて来ても意味はないぞ!」


 うん、この短時間なら有り得る話ですね。


「あの、すみません本物です。モノホンのシエル姫です」

「お父様!」


 シエル姫は目の前の父親に我慢できずに駆け出し、飛び込むように抱き着いた。


「ッ!!この感触、この重さ、この大きさ、この匂い!……ま、間違いなくシエルだ!本物のシエルだ!!」


 その確かめ方はどうなんですか国王様……とはいえ、国王の言葉を聞いた兵士たちは、みんな警戒を解いて歓喜の声を上げた。一応これで一安心か。


「ただいま戻りましたお父様。またお父様にお会い出来たこと、とても嬉しいです!」

「ああ、我が娘よ。本当なら真っ先に私がお前を助けに行きたかった……守ってやれず済まなかった」

「いいえ、お気になさらないでください。アツヒト様からお聞きしました、お父様が国中の勇者様たちにお声を掛けてくださったと。そのお陰でシエルはこうして元気に戻って来れたのです。ありがとうございます、お父様」

「ああ……シエル……ッ!」


 お互いに強く抱きしめ合う二人に、兵士たちは大きな拍手を送った。俺も感動的なシーンに思わず拍手をしていた。隣で若干震えてるミューはこの際無視しよう。


「勇者アツヒト。そしてその仲間たちよ……先ほどの無礼を許してくれ。そして感謝する!娘を助けてくれて、本当にありがとう!」

「いえいえ、ぶっちゃけ何もしてませんし……」

「ところでどうやってシエルを助け出したのだ?エルベルダへ行くには四日は掛かるはずなのだが……」

「ふふん!そ、れ、は……私が神だからよ!」


 国王様の問い掛けに、ミューはここぞとばかりに名乗り出した。ていうか事実とはいえ神を名乗るな、見ろよ周りを、みんなポケーっとしてるぞ。


「と、というと?」

「私はこう見えて異世界転生者――つまりは勇者の管理をしている女神であり、招来を司る女神でもあるの。そして、その招来の力を使って、エルベルダの魔王城からお姫様をこっちに招来させたのよ!」

「そ、それは誠か!?」


 国王は俺の方を向いて聞き返した。シエル姫もそうだがなんで俺に聞くんだろ。


「はい、事実です。実際に俺の転生を担当したのはそこのミューなので」

「わあ、本当に女神様だったのですね!」

「そうよ、さあ私を崇めなさい!そして供物をたっぷり捧げなさい!」


 ミューに後光でも指しているように見えたのか、兵士たち(何故か伊集院たちまで)五体投地し始めた。ミューも女神だと認められかなりご満悦のようだ。


「ていうか、ここの世界の人って神がいるって知ってるのか?」

「割とね、ここは異世界転生者が多いから、それを管理する神様がいるってのも大分広まってるわ」

「ほんと異世界系に有るまじき世界だなここ」

「勇者たちよ、君たちとシエルの生還を祝して今夜パーティーを開くことをたった今決めた!突然のことで済まないが是非とも参加してほしい。褒美もその時に渡そうと考えている」

「ほんとですか!もちろん参加します!」

「国王よ。綺麗でセクシーなレディは……」

「積極的に呼ぼう」

「じゃ、じゃあ可愛いエルフや獣人系の女の子は……」

「種族も問わず可愛い子を呼ぼう」

「「感謝致します、我が国王よ!!」」


 ここに来た時ののっそりした動きが嘘のように、二人は綺麗に素早く傅いた。こいつらほんとにぶれないな。


「では、準備が出来るまで部屋で寛いでいるといい。誰か案内を――」

「お父様!私が案内しても宜しいですか?」

「姫様が?」

「別に構わないが……魔王城に連れ去られて疲れているのではないか?」

「私なら大丈夫です、それよりも私は、私を助けてくださった勇者様たちともっとお話がしたいです」


 シエル姫の言葉を聞いて、国王は優しい笑みを浮かべた。


「そうか、わかった。じゃあ勇者たちを客間へと案内してあげてくれ」

「わかりましたお父様!」


 元気良く返事をした姫様は、国王から離れて俺たちの前までやって来た。


「では、私について来てください」

「「はーい!」」

「元気いいなお前ら」

「ふふっ、では参りましょう」


 シエル姫を先頭に俺たちは王室を離れた、祝杯パーティーが開かれることになったと城中に知らされたからか、メイドさんや執事っぽい人たちが慌ただしく廊下を走っている。こういう時使用人は大変だな。


「ねぇねぇアツヒト?私に何か言わなきゃいけないことがあるじゃないの?」

「え?何が?」

「だって国王からご褒美貰えるのよ?きっと勲章とか貰えるのよ?これは一体誰のお陰かな?」

「……ほんと可愛くないなお前。むしろ腹ただしいわ」

「なんでよ!冒険はチャラになったけどお姫様は助けられたからいいじゃん!何か文句ある?」

「あーはいはいありがとありがとー」

「心が篭ってない!もう一度!」


 はぁ、こういうのが無ければ素直に感謝できるんだけどな……


「あっ……」

「どうしたのよ?」

「いや、すげぇ単純な質問なんだけど……お前魔王どうした?」

「え?」

「いや、だから魔王だよ。姫様連れて来るついでに倒したんだよな?招来の力があればそのくらい可能だろ?」


 そういえば姫様は救出したけど魔王は倒したとは聞いていなかった。まあどうせこいつのことだ、俺が魔王を倒しに行くなんて言いださないように始末してるだろう。


「あー魔王?倒してないわよ」

「だよなー、やっぱ倒して――えっ、今なんて?」

「だから、魔王は倒してないわよ?お姫様を呼び出して今日の分は使い果たしちゃったから、魔王までは手が回らなかったの」

「えっ、じゃあ魔王はそのままってこと?」


 ということは、魔王を倒す冒険自体はできるってことか!どうしよう、本来喜んじゃいけないけどすげぇ嬉しい!


「ねぇアツヒト?まさか魔王を倒すための冒険を始めるとか言いださないよね?」

「え?何言ってるの?行くに決まってんじゃん」

「……よしわかった!明日朝イチに魔王をマグマに叩き込む!」

「やめろ!俺の冒険を終わらせるな!」


 俺とミューはもう何度目かの取っ組み合いを、慌ただしい廊下で始めた。何か大事なことを失念している気もするが、多分気の所為だろう。

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