第4話 平原での紛争仲裁業務

高くなった鼻は消失した。さらに言語合成に齟齬をきたし、駆動モーターが誤作動を起こした。無様な挙動だったと思う。サーバルは素直に驚いていたし、かばんはいつも通り冷静だった。


完璧な治安と平和の象徴を誇っていたジャパリパークで車上強盗が起きようとは世も末か。武力を持たないラッキービーストは無力だ。一応、僕の統括エリア圏内なのだが。


目的も定からぬままにお城アトラクションへと拉致され、ヘラジカたちが出演する寸劇の鑑賞を強要される。狩りごっこ、合戦ごっこときて、次はジャパリパークから決死の脱出ごっこだろうか。


拍手を送る代わりに、より平和的な戦争ごっこの知恵がかばんから授けられた。形はともかく、新しい争い方を教えられて感謝したくなる心理とは、やはり本能に基づくのだろうか。久しく忘れていた感覚だ。管理職の職業病かな、


フレンズは寝食を保証されており、飢え死にの心配は一生ない。にもかかわらず争わずにはいられない。この事実は、世界中から貧困がなくなれば戦争もなくなり平和が訪れる、そんなロジックが幻想であると物語っている。


結局のところ、闘争本能を遺伝子レベルで削除はあるいは無効化してやらなければ根っこの所は変わらないのだ。そうした試みを長大な期間に渡り追跡調査できる点でも、ジャパリパークは稀有な存在だ。


前々から感じていたが、ハシビロコウは断じて悪い子ではない。そう思わせるチャーミングな声色と眼光のギャップ。真っ直ぐ行って右ストレートを放つKYさは、それで相殺される。


間もなく図書館で明らかになることが内定しているかばんの正体に、このタイミングで切り込む必要は特にない。そうした計算ではなく、気になってウズウズしているにも関わらず懸命にじっと見つめているしかできなかったハシビロコウの性格にこそ可愛げを求めたい。


ラッキービーストの身でこそ感じられる人間味、ヒトみ、健気さ、そういう血の通った温度が、最近は特に身に染み入る。

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