第3話 砂漠地方から湖畔に渡る監督業務

アトラクションを解説する機能が暴発した。青い羽保持者と共に所定の場所まで来る条件を満たすと、親切にも当該アトラクションについて遊び方の自動再生が始まる。これは僕の意思ではない。キャンセルの方法もない。


女性の軽快なアナウンスで収録した音声だ。僕の声ではないし、僕のテンションともかけ離れている。そんな違和感の塊のような音が内蔵スピーカーから強制的に発せられる。気持ちの良いものではない。


幸い、かばんもサーバルも特に何も疑わなかったようだ。いいのかそれで。僕には手がないから藪蛇をつつくこともできない。蛇といえば、幻の蛇ツチノコがかばんの正体について鋭く言及していた。これだから林檎を齧った蛇はタチが悪い。


地下迷宮アトラクションには、所々に溶岩が残っている。フレンズたちには火山噴火の跡にみえるはずだ。合っているともいえるし、違うともいえる。少なくとも、ツチノコが勘付いた所である絶滅は、溶岩流出や火砕流が直接の原因ではない。


途中で遭遇した大型セルリアンは、サーバルが余計なことをしなければ間も無く役目を終える状態にあった。この辺りのフレンズは長生きをしている。近くに畑はあるだろうか。


舗装された道路を愛車が無線制御で走る。久々だ。やはり、地下構造は風化に強い。今後の参考になる。ただ、照明の数が少ないと感じた。半自動運転でも事故は起こる。安全運転のためにフットライトを増やした方が良い。いつサーバルのような無免許運転しようとする輩がしゃしゃり出てくるとも限らない。


トンネルを抜けてひた走ると、気持ち良さそうな湖畔に出る。この辺りは針葉樹の森も広がっており、先ほどの巨大迷路は湖畔から木材を搬入して施工された。多くのラッキービーストを投入した。その工事風景を観察していたのか、ビーバーが見よう見まねで木と戯れている。


ログハウス建築案件とのこと。ジャパリパークにはリゾート施設の側面もある。風光明媚な湖畔に野性味あふれるログハウスはいかにもラグジュアリーだ。そういえば、施工担当のラッキービースト向けに完成イメージをプリントアウトしてラミネート加工した記憶がある。


今のかばんに設計スキルは失われているが、現場統括能力は残っているようだ。思いのほかビーバーの学習が進んでいたのと、脳筋の土方フレンズが居合わせたおかげで、ほぼ要件を満たした成果物を納品する。かばんの優れた人材判断にはつくづく舌を巻く。


僕に鼻は付いていないが、もしあればジャパリカフェの標高よりも高く伸びていたに違いない。

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