第2話 ジャングル及び高山の整備業務
セルリアンの弱点指示を、サーバルに代弁させる。冷静に観察していたかばんがそれを聞いて知的特性を発揮。セルリアンの攻撃対象をサーバルから外すことに成功する。僕には胸を撫で下ろす手がない。そのため、安堵したこの気持ちが二人に伝わることはないだろう。セルリアンがデジタルなキューブ状になって四散し、大気中に溶け込む。
頑張った二人と一匹へのご褒美というわけではないが、長い旅路を少しでも楽に進めるよう取り計らうことにする。かつてジャングル地方で乗り捨てられたジャパリバス。確かこの近くにある。進路を恣意的に誘導するのは越権行為だが、観光の順路を大きく逸れなければ通常の道案内業務の範疇だ。
はたして記憶通りの場所にバスが、あるにはあった。錆はひどいがタイヤやハンドルは無事。しかし運転席と後部座席が川を隔てた対岸までバラバラになっているのは何の冗談だ。どう風化すればこういう配置になる。おおかた洪水による鉄砲水が直撃し、その際に橋ともども変な方向へ流されたのだろう。
整備業務を開始。居合わせた原住フレンズのカワウソらによる協力の元、橋の修復とバス運転席部分の移送を完了する。重機もなく人力のみで橋の床板を設置するのは難航が予想されたが、限られた人的リソースを適材適所で配置したかばんの采配に舌を巻いた。もちろん、車両のフロント部分を担いで八艘飛びをやってのけたサーバルの驚異的筋力も評価されてしかるべきだ。
車両の形だけ元に戻したところで動かないのは、前もって想像がついていた。EVの動力源は電気バッテリー。数年以上も野晒し状態なら完全に放電されているはずだ。
この付近で至近の充電設備は、高山の頂上で営業中のジャパリカフェ。サーバルの踏破能力ならバッテリーを担いで難なく到達できるが、かばんは厳しい。ロープウェイ乗り場に誘導するが、動作を停止している。整備してすぐ動くような雰囲気ではない。若干の気まずさを味わう。
高山一帯は鳥由来の飛行系フレンズが多い。この時ばかりは運良く、トキが通りかかってくれて助かった。僕はかばんが持っているカバンの中に収納される。非常に落ち着く。できればずっと一生このままでいたいと切実に願う。
頼んでもいないのにトキが世間話を始める。動物だった頃、とかフレンズの姿、などと余計なことをかばんに教えないでいただきたい。だが、山頂まで運んでくれたことには感謝している。この人力ピストン送迎業務を生業にしてはどうだろう。
アルパカが切り盛りするジャパリカフェは立地の悪さから長らく開店休業状態だが、ここの紅茶は絶品だ。ラッキービーストである今の僕に口が付いていたら足繁く通って唯一の常連客となり、アルパカとただならぬ仲に陥っていたかもしれない。
客じゃないと知るや吐かれたツバの臭いから遠ざかる意味でも、ソーラー充電設備のある屋上へ上がった。これだよ、これだよ、と我ながら嬉しく興奮してつい二回言ってしまった。大切なことには違いない。一般的な量産型ラッキービーストを知るフレンズが居合わせたら、不審に思われていただろう。
かばんが費用対効果の高い集客施策をカフェに対して実施した。電力と紅茶のお礼というわけではないだろうが、できる貢献を積極的にしようとする姿勢はやはり特筆すべき特性だ。返報性の原理も働いている。こちらまで誇らしくなってくる。ついでに、ほぼメンテナンスフリーでも生き続ける電気系統を実現したジャパリパーク主任設計者にも賛辞を送っておこう。
そしてバスは動き出す。ジャパリパーク内ほぼ全てのエリアを踏破可能なSUV仕様の特注バスだ。そうと見えないかもしれないが、高スペック。の割に、衝突防止センサーは付いていない。標準装備だと思い込み、オプションを申し込み忘れたのだとしたら、よくある話だ。車両調達担当が無能だったばっかりに、サーバルが被ったような対人事故が絶えないのだ。
砂がいっぱいある砂漠の中もずんずん進む。道中、UMA系フレンズのツチノコに遭遇した。かばんを見て絶滅していなかったのかと訝しんでいたが、それはこっちのセリフだ。そして、何のためのジャパリパークだと思っている。動物研究所の連中はどこまで吹き込んだのか。こちらにも行動に不整合が生じないよう念頭に置いておきたい前提というものがあるのに。
そんな些事に気を取られていると、迷路アトラクションの入り口でちょっとしたイレギュラーが発生した。
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