かばんデバイス

なんなな

第1話 サバンナ地方を始めとする護衛業務

この身体はジャパリパーク内を行動する上で最低限の機能しか持っていない。短い足、長い耳と尾、発光する目。不自由か、といわれれば意外とそうでもない気がしてくる。


胴と頭は一体になっており、あえて頭身をカウントするなら二頭身にも満たない。不謹慎な例えだが、フレンズの頭部がちょうど収まる程度の大きさだ。


高機能栄養食じゃばりまんのようなつぶれて丸い足はサバンナやジャングルも難なく踏破でき、サーバルの早歩き程度になら付いていける。詳しい動作メカニズムは、今となってはロストテクノロジーだ。


そのサーバルが一人の新規フレンズを狩りごっこで捕まえてきた。つば付きの大きい帽子に目がいく。使い古され、所々に穴が空いている。こちらとしては見慣れた帽子だ。ジャパリパーク開園時からガイドスタッフに支給されてきたユニフォームだからだ。


記憶喪失のそのフレンズに、サーバルはかばんと名付けたようだ。彼女らしいセンスといえる。現在のサバンナ地方にリュックサックを背負ったフレンズはいないので、区別する意味でも都合が良い。なぜ帽子と名付けなかったかといえば、フレンズ化する前の記憶がいくらか残っているからだろうか。


かばんは自分が何のフレンズか分からないという。鋭い爪、速い足、硬い体のような動物的に優れた特徴が見当たらない。これほど戦闘能力が低くてはセルリアンに容易に捕食されてしまう。しかも記憶喪失ときている。


自分の正体を調べるための旅を案内するという名目で、サーバルと僕はかばんに同伴することになった。サバンナ地方を含む近隣エリア一帯を統括する身分としては、セルリアン被害の汚点が増えるのを極力避けたい。縄張り内で物騒な事態は、サーバルも望んでいないだろう。


当面の行動指針はジャパリ図書館までの期限付き護衛業務。かばんが被っている帽子に付いた青い羽の持ち主は、フレンズやセルリアンから危害を防ぐべき保護対象であり、ラッキービーストとの言語コミュニケーションも許可されている。


よって青い羽は正規訪問者を証明するパスカードのような大切なもの。僕が今後もかばんをパークガイド対象者と認識し続けるために、無くされたら困る重要アイテムだ。本人に自覚は無いだろう。


かばんと話し始めた僕を目撃して、サーバルが驚いている。確かに、僕がガイド対象者を音声ナビゲートするのはサーバルがフレンズ化してから初めてかもしれない。


平坦な棒読み音調に合成された電子音声が内蔵スピーカーから流れる。機能としてはもっと抑揚のついた人間らしい発声データもプリインプットされており、例えばアトラクションの出入り口などで説明のためアナウンスされる。だがそれは僕の台詞ではなく、単なる録音済みテープの再生にすぎない。


かばんとの最初の言語交流は良好。サーバルよりも飲み込みが早く、こちらの意図を汲み取る理解力に長けていて助かる。僕をジャパリパークの案内役ロボットとして無事に認知してくれたようだ。


いくつかの候補地の中から、偶々かばんはサバンナ地方で発見された。目的地とする図書館は湖畔や平原のさらに向こうにある。話しかける対象はあくまでかばんだが、サーバルにも聞こえる声量で有益な情報を提供していく。聞かれていない知識を能動的に伝えたり、質問する機能は持ち合わせていない。


サバンナとジャングルが接続されたゲートのようなエリアの境界付近はセルリアンの出現率が高い。懸念された通り、移動する我々も数体のセルリアンに接敵。小型の個体はサーバル単体の格闘術で排除できたが、中型クラスに対して脳筋のサーバルは手をこまねく。


ようやくフレンズ化に成功したかばんを、こんなところで失うわけにはいかない。

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