第9話 中ボスじゃなくなる(1)

特にロストが強くなることもなく、中ボス戦会議の日がやってきた。

 魔王秘書がロストの元に来る。

「準備の方はよろしいでしょうか?」

「うん、だいじょーぶだよ」

 ロストの返事を聞くと魔王秘書は一瞬で別の場所に移動できる転移石を取り出し魔力をこめる。

 転移石が光り、ロストと魔王秘書を青白い光りが包み込む。

 二人の姿がダンジョンから消えて、魔王の城の円卓の間に現れる。

 すでに円卓の間には他の中ボスが椅子に座っていた。

「子供が中ボスになったというのは本当だったのか」

 マントを羽織った青年がロストを見つめる。

「おにーさん、だれ?」

「俺は旧鬼族きゅうきぞくのムラムだ。 血を吸うことで相手のスキルを奪うことができる」

「聞かれてもいないのに自分のことを喋るからあまり冒険者に勝てないんじゃないの?」

 セクシーな衣装を着た耳の長い女性がムラムをたしなめる。

「色仕掛けしかできないサキュバスのお前は戦績いいのかよ?」

「ええ魅惑で惑わし冒険者同士を争わせてますので、かなり良いですわ」

 ムラムに対して勝ち誇った笑みを浮かべる。

 その場にいる中ボスはロストを含めて五人。

 旧鬼族のムラム、サキュバスのメノウ、勇者の一族に産まれたが幼いころ魔族にさらわれた青年コクヨウ、ゴーレム族の中でも特別硬いアイアンゴーレムのフェル。

 ドラゴンウルフのロストが最後に椅子に着く。

 円卓の間にある扉が開き魔王が姿を現す。

 魔王は歩みを進めると空いている一番豪華な椅子ではなくロストの体をもちあげ、ロストの座っていた椅子に座り、ロストを自身の膝の上に乗せる。

「ではそれぞれの戦績を聞かせてもらおう」

 ロストの毛を撫でながら魔王が聞く。

「二十勝十二敗」

 一番最初に口を開いたのはムラム。

「私はは二十二勝七敗ですわ。 誘惑が効かない冒険者がいましたので」

「俺は一勝0敗、冒険者がダンジョンにほとんどこなかった」

「まあ大量のゴーレムとの戦いを冒険者は避けるから仕方あるまい」

 魔王はロストの体をしっかり掴むと顔をロストの頭頂部にうずめた。

「俺は戦闘そのものがゼロだ。 冒険者のほとんどは俺のダンジョンの最初で全滅だ。 で、新しい中ボスお前は?」

「ぼ、ぼく? かったかいすうはぜろ、まけたかいすうは、かぞえてないからよくわからない」

 ロストの報告を聞いて他の中ボスの顔が一瞬引きつる。

 その雰囲気を察知した魔王が瞬間的に魔力を放出して一言も発せないようにした。

「まだ中ボスになりたてだからな。 これからに期待しよう」

 そう言うと魔王はロストの頭頂部の匂いを鼻一杯に吸い込む。 

 「ではそれぞれの戦績に応じた報酬を与えて今回の会議は終了ということでよろしいですか、魔王様?」

 魔王秘書の言葉に答えるため、魔王がロストから顔を上げる。

「うむ。 そなたたちの今後の活躍を期待しいるぞ」

 魔王がそう告げると魔王秘書はロストを抱きかかえ魔王の側から離れさせる。

「では、それぞれの領地への転移石を渡します」 

 幹部がそれぞれ青白い光りに包まれる、この時魔王とロストを見つめ、妖しく光る眼が一つ。

 しかしそのことに気づく者はいない。

「これ、どーやってつかうの?」

「ロスト様は魔力がありませんので私が転移石を使いお送りします」

「ま、待て、もう少しもふもふを撫でさせてくれ」

「魔王様、私が戻ってきたら貯まっている書類仕事をしてもらいます。 私がいない間のわずかな時間をお楽しみくただい」

 転移石が光りロストと魔王秘書が青白い光りに包まれ、二人はクレーダンジョンの入り口に移動した。

 すぐにボーンジがロストを迎えにくる。 

「ではロスト様、私はこれで失礼します」

軽くお辞儀をして魔王秘書は転移石で魔王の城に戻った。

「ロスト殿、会議の内容を後でゆっくりお聞かせください、まずはお食事をどうぞ」

(ではあの三人に手紙を送りますか)

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る