変わらない姿
場所は変わってスーパー。
「んー、何作ろうかな」
陽菜は先程の不安を消し去ろうと、哉汰への贈り物に頭を悩ませていた。
「試作では何作ったの?」
そんな陽菜の姿に質問を投げかけるのは、買い物カートを押す千昌。
本来は一人で買い物をするつもりでいた陽菜だったが、千昌も買いたいものがあるという事で結局二人でスーパーに寄る事になったのだ。
「試作では生チョコとパウンドケーキとマカロン……」
「へ~、美味しそうだね」
「でも何が一番いいのかわからなくなってきちゃって…」
そう言いながらバレンタイン特集のなされているエリアの前でチョコレートレシピの載った本を広げながら悩む陽菜。
(陽菜からの本命、なんてそれだけで喜ぶのになぁ…)
そんな陽菜の様子を見ながら、内心もどかしい気持ちを抱く千昌。
「あ、そういえば……」
先日、哉汰を含めた複数の友人と下校した時、
―――――――――――――――――――――
『いよいよバレンタインが近づいてきたなぁ!』
『俺今から楽しみだわ』
そう言うのは哉汰と同じサッカー部部の
帰り道に話題になるのはこの時期になると仕方がないのか、数週間後に控えたバレンタインデーの事。
『今年はいくつ貰えるか勝負やで~!』
そう言って哉汰の肩に腕を絡ませる陸に、
『はぁー?んなもん、勝負にするもんじゃねぇだろ』
『そうだよ。そんな争い意味ないよ』
大人びた意見を唱える二人。
『何言うとんねん!こういうもんは何か張り合うもんが必要やろ!』
『あーあ、哉汰と千昌は幼馴染の鈴森さんに貰えるからいいよなぁ…』
『なんや、そういう事か』
二人の冷めたリアクションに各々好き勝手な事を言う二人に、
『なっ、何を勝手な事言って……』
『にしても、オレはチョコレートやのうてケーキが食べたいわ』
『俺は王道に生チョコ希望だな』
哉汰が反論しようとした時、話題は何を貰いたいかという内容に展開した。
『哉汰は?』
『あー?俺は……あいつが俺を想って作ってくれたなら何でも嬉しい』
予想外のその答えに、
『なんやなんや!自分好きな人おったんか?』
『なっ、いねーよ!』
陸の追及に哉汰は顔を真っ赤にさせながらも全力で否定した。
『し、強いて言うならトリュフとカップケーキが食いてぇ!!』
慌てて話題を変えるかのように、
『千昌は何だよ?!』
哉汰から振られた疑問。まさか自分に振られるとは思っていなかった為に少しばかり哉汰を睨みながらも頭を悩ませる千昌。
『んー、本が欲しいかな』
その答えに一同はシーンとなる。
『なんや…急に冷めたわ』
『天然なのか、バレンタインデーに本ってな…』
そんなこんなで会話は終わり、その後も下らない話をしながら帰宅した。
――――――――――――――――――
そんな会話をふっと思い出した千昌は、
「トリュフとカップケーキにしなよ」
「え?」
「前に話したの思い出したんだけど、その二つが食べたいって」
「千昌~!ありがとう!!」
そう言うと陽菜は満面の笑みでチョコレートを手にした。
そして、千昌の持っていたカートを横から奪うと、
「他の材料も買わなきゃ!!」
嬉しそうにカートを押しながら駆け出した。
「ちょっ、走ったら危ないよ」
そう言う千昌の声にも耳を貸さずに、陽菜はお菓子の材料が売っているコーナーに向かっていった。
「本当に……変わらないな」
君の幼いところも、純粋な所…―
そして、彼に一直線な所も…―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます