おさまらない嵐



「おはよー」

「おはよう!」





挨拶が飛び交うクラスルーム。





「うーん」





そこで悩みの声を上げているのは陽菜だ。その原因は昨日のチョコレートの試作の結果である。





(上手くいかない…。哉汰の笑顔が見れるようなとびきり美味しいチョコレート…)





「……これじゃ間に合わないよ」





陽菜の口から思わず溢れた本音を拾ったのは、





「何が間に合わねーんだ?」

「えっ?!か、哉汰?!」





彼女を悩ませている原因である哉汰だった。





(ご、ごまかさなきゃ!)





陽菜は目をキョロキョロとさせながらも思考を巡らせて、今日の放課後までに提出すべきであった数学の課題のことを思い出した。





「す、数学の課題!ほら、放課後までに提出だったでしょ?」





その答えに哉汰はポカンとした顔をしたあと、すぐに得意気な顔になった。





「ったく、陽菜はドジだからな〜。オレはもう終わってるぜ?」





そう言ってバッグの中から一冊のノートを取り出し、見せつけてきた。

本当のことを言えば、陽菜も昨日千昌に教えてもらいながらではあるが既に宿題は解き終わっている。





「哉汰が課題をやってくるなんて明日は雪でも降るのかなー?」

「なんだと?!んなこと言うやつには見せてやんねーからな」





二人で笑い合っていると担任の先生が教室に入ってきてHRが始まった。





「ほらー、お前ら席着け」





その声で陽菜を馬鹿にしていた哉汰もしぶしぶながら席に座った。





———————————————





「はい、じゃあこれでHRを終わりにする」





先生から必要な項目が連絡として伝えられると教室はまた騒がしくなった。





「陽菜、おはよう」

「あ、千昌。おはよう」





そう言うと口元に手を当てて陽菜の耳元に口を持っていく。





『試作は順調?』





その言葉に黙って首を横に動かす陽菜。





「んー、どうするか…」





陽菜の無言の返事に千昌は顎に手を当てた。





「だんだん悩んできちゃって…」

「まぁ、確かに料理は難しいからそんなに落ち込む事はないよ」

「でももう日にちもないんだもん…」





バレンタインの問題は迷走する一方だ。





「まずは今日の授業を頑張ってから考えよう?」





次の授業の為にクラス内がざわざわとし、次第に人がまばらになってきた様子を見た千昌はそう言って引き出しから教科書と筆箱を取り出した。





「そうだよね…」





そう言った陽菜はキョロキョロと周りを見渡した。





「あ、哉汰なら先生の助手として強制的に連れていかれてたよ」





するとその様子を察知した千昌。

以心伝心ともいえる意思の疎通を図ったところで、陽菜が教科書を取り出した時、





「……っ?!」





陽菜は驚くものを発見した。





「そんなに驚いてどうかした?」

「なっ、何でもない!」





幸いと言っていいのか、千昌から見えない角度で教科書から出てきたのは





『哉汰くんから離れて』

『お前みたいなぶりっ子うざい』

『二股女』





陽菜へ向けられた悪口が大量に書かれた紙きれだった。





(……どうしよう)





「顔色悪いぞ?」

「何でもないってば!元気元気!」





犯人の心当たりはないわけではない。昨日の先輩達かもしれないけれど、何せそれを証明する証拠がない。それに哉汰の事を好きな女生徒が多い事は陽菜も十分理解しているし、現状としてこのような卑劣な犯行を止める術は持っていない。





「………」





陽菜はその紙をぐしゃりと丸めると、慌ててポケットの中に隠した。





「授業遅れちゃまずいよ!早く行こう!」

「あ、ああ…」





そう言って千昌の背中を押した陽菜の心は不安で埋め尽くされていた。





「………」





そんな二人を見ている人影に気がつきもせずに…—

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