両片想いの恋煩い side哉汰


俺には大事な幼馴染が二人いる。

一人は風谷千昌かぜたにちあき





「一週間後…緊張する?」

「な、何の事だかわかんねー」





毎朝の登校は大体がこいつと一緒だ。

そしていつも巧みな話術に踊らされている。





「さぁ、何の事だろうね?」

「聞いといてしらばっくれるなよ…」

「しらばっくれてるのは哉汰の方だろ?……あ、噂をすれば」





そういって千昌が指をさした先にいたのは、もう一人の幼馴染。





「……」

「……行ってきなよ」





こういう千昌の性格は嬉しくもあるがお節介とも言えるだろう。





「おはよ、アホ陽菜ひな!」





そう言って駆け寄って背中を叩いた相手は俺の…初恋の相手。





「大口開けてあくびなんてしてんなよなぁ〜。ただでさえ女らしくないんだからよ」





俺の片想いは長い。五歳の頃からずっと、今日までの十年間こいつだけを見ていた。





「何よ、その言い方〜」





そんなこと、こいつは思いもしないんだろうな。





—————————————……





何だかんだで一緒に登校して、同じクラスに向かう。





「おはよう、鈴森さん!」

「おはよう!翠川みどりかわさん!」





陽菜が声をかけられたのはクラスのマドンナとか言われてる翠川みどりかわありす。





「風谷くんと哉汰くんもおはよう!」





こうして俺らにも笑顔で挨拶をしてくる。

仲良くなったきっかけは覚えてないが、同じクラスでCDや漫画を貸し借りする仲だ。





「ああ、はよー」

「……」





俺はいつものように挨拶を返したが何故か千昌は不機嫌そうな顔をしている。





「哉汰くん!今日の数学の課題やってきた?」





……数学の課題?





「げっ!忘れた!」

「かっ、課題なんてあったっけ?!」





俺の声に続いたのは陽菜。本当にこういうところが面白くてしょうがない。





「やっぱり陽菜はアホで助かったわ」

「哉汰だって忘れたじゃない」

「そういう悪い事を言うやつには…」





そう言ってデコピンをして陽菜の頭をわしゃわしゃと撫でる。俺の言葉にいつも言い返してくる陽菜。





「ちょっと、髪が崩れちゃうって言ったでしょ」





そんな陽菜に、ただ触れたいだけなのに…。臆病な俺は本心を隠し、自分の行動を正当化する言葉を並べては陽菜に触れる。





「もう〜、二人とも駄目じゃない〜!」





そういって俺と陽菜の間に入ってきた翠川は甘い匂いがする。

他のやつならときめくんだろうけど、俺はそんな香りや色気もないお子様を好きになっているから相当重症だ。





「風谷くんは真面目だからやってきてるよね?」

「……どうだっただろう」

「えっ、何それ〜」





クスクス笑うと彼女は千昌のいつもと違う雰囲気の反応にもめげずに自分の椅子を俺の机に近づけた。





「まだ間に合うから一緒にやろう?」





後ろの陽菜からの視線が気になるが、ここで断るのはせっかくの好意を無駄にするようで申し訳ない。





「え、教えてくれんの?助かるわ」





そう言って俺は自分の椅子に腰を下ろした。





「おい、哉汰〜。羨ましいじゃんか」

「ありすちゃんに迷惑かけんなよー」

「あの二人お似合いだよね〜」





クラスから飛び交う野次は正直うざったい。俺は別にそんな気でいないし、向こうもそうじゃないだろう。所詮は一時的な冷やかしでしかない。





「……陽菜」

「えっ?」





そんな時後ろから千昌と陽菜の声が聞こえてくる。どうやら千昌が勉強を教えるらしい。





「ここをこうしてね。公式はこれを使うの」





何を……話してるんだろう。





「い、いひゃい!」

「くくっ、変な顔」





陽菜を笑わせる話術も…。



陽菜に触れる手も…。



全てが羨ましい。





「哉汰くん?聞いてるの?」

「…っ!!」





俺の頭はの中は後ろの会話に支配され、翠川の話が全く入ってきていなかった。





「わ、悪い!」

「もう〜、ちゃんと聞いてね?」





彼女じゃないくせに、千昌に嫉妬するなんて本当に俺は…どうかしてる。


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