両片想いの恋煩い side陽菜



「ふぁぁ」





月曜日の朝。それは学生にとって一番憂鬱な曜日といっても過言ではない。

それは私にとってもそうで、昨日は丸一日ある事に励んでいたから尚更だ。





「おはよ、アホ陽菜ひな

「きゃっ」





そんな事を考えていると、後ろから思い切り背中を叩かれた。





「大口開けてあくびなんてしてんなよなぁ〜。ただでさえ女らしくないんだからよ」





そう言って笑うのは幼馴染の月嶋哉汰つきしまかなた。私の……初恋の相手。





「何よ、その言い方〜!」





昨日は一週間後に控えたバレンタインで哉汰にチョコレートを贈る為、その試作に勤しんでいたのだ。





「おはよう。陽菜。今日も元気だね」

「あ、おはよう!千昌ちあき





彼はもう一人の幼馴染である風谷千昌かぜたにちあき。千昌は私達の喧嘩を諌めてくれる良識人だ。





「おいおい、千昌。陽菜に優しくすんなよな!」

「ん?哉汰。それってやきもち?」





その言葉に哉汰は私の頭を掴み、わしゃわしゃと撫でた。





「なっ!そんなわけねーだろ!なんで俺がこんなちんちくりんに!」

「なっ、誰がちんちくりんなの!」





思い切り肩を叩くと、怪力女〜と舌を出し笑いながら走って行く。





「もう!いい加減にしてよね!」





……これが私達の変わらない毎朝の光景。



すると、千昌が何かを思い出したように小声で話しだした。





「陽菜はバレンタインどうするの?」

「……」





千昌は私が哉汰を好きだという秘密を知っている。





「渡したい…と思ってるよ」

「渡せばいいじゃん」

「だって、哉汰ってああ見えて結構モテるじゃない?」





そう言って哉汰を見れば他のクラスと思われる女の子に囲まれている。





「やっぱり…怖いよ」

「幼馴染なのに?」





そう言って疑問符を浮かべる千昌は乙女心がわかっていないようだ。





「幼馴染だからだよ…」

「……?」





そう。幼馴染だからこそ、今の関係を壊したくない。





「大事だからこそ…怖いんだよ」

「……」

「中学生最後のバレンタイン。高校生になる前にこの気持ちを伝えたいの」





そう言うと千昌が私をどこか切ない目で見ていた。それにね、と加え





「傍にいられるのは幼馴染の特権だもん。それを簡単に捨てるなんて…出来ないよ」





そう笑って見せた。





「……でも」

「お前らー!何二人でコソコソ喋ってんだよ!遅刻しても知らねーからな」





千昌の言葉を遮ったかと思うと、哉汰がいじけたように大声を出す。





「ふふ、自分から走ったくせに寂しがってる。可哀想だから早く行こう?」





そう言って私は千昌の手を取って、哉汰の元に走り出した。





————————————……





私達三人は同じクラス。

私の席は一番後ろの窓側で右に千昌。そして斜め前が哉汰。





「おはよう、鈴森さん!」

「おはよう、翠川みどりかわさん!」





今挨拶してきたのはクラスのマドンナと呼ばれている翠川みどりかわありすちゃん。

とてもふわふわで女の子らしくて私の憧れ…。





「風谷くんと哉汰くんもおはよう!」





そう言って笑う彼女は、





「おう、はよ〜」

「……」





きっと哉汰のことが好き。





「哉汰くん!今日の数学の課題やってきた?」

「げっ、忘れた!」

「かっ、課題なんてあったっけ?!」





翠川さんから発された言葉に反応して思わず二人の会話に入ってしまう。





「やっぱり陽菜はアホで助かったわ」

「哉汰だって忘れたじゃない」

「そういう悪い事を言うやつには…」





そう言うと哉汰が屈んで私にデコピンをして、髪をわしゃわしゃと撫でる。





「ちょっと、髪が崩れちゃうって言ったでしょ!」





私の抗議に笑う哉汰の顔は本当にキラキラして見える、なんて私は相当重症だ。





「もう〜、二人とも駄目じゃない〜!」





私達の間に入ってきた翠川さんはとても良い香りがする。同性から見ても憧れる存在。





「風谷くんは真面目だからやってきてるよね?」

「……どうだっただろう」

「えっ、何それ〜」





クスクス笑うと彼女は自分の椅子を哉汰の机に近づけた。





「まだ間に合うから一緒にやろう?」

「え、教えてくれんの?助かるわ」





私の前で繰り広げられる光景に、思わず胸が痛くなる…。





「おい、哉汰〜。羨ましいじゃんか」

「ありすちゃんに迷惑かけんなよー」

「あの二人お似合いだよね〜」





クラスから飛び交う野次は、私なんてまるで届かないと言われてるようで並んで笑い合う二人を見ていられない…。



翠川さんはモデルさんみたいにスラッとしてるのに対して、私なんて幼児体型もいいところだ。自分で言うと余計に切ない…。





「……陽菜」

「えっ?」





そんな時隣から千昌が声をかけてきた。





「課題をやってこないのは感心しないな?」

「……ごめんなさい」

「俺が教えるから教科書開いて」

「え、千昌やってきてるの?」

「……どの口がそんなこと言うのかな?」





頰をプニッと掴まれて引っ張られる。





「い、いひゃい!」

「くくっ、変な顔」





千昌はすぐに手を離して頰を撫でてくれた。





「だっ、だってさっきは『どうかな?』って言ったじゃない」

「えー、そうだった?」





こうしておどけてくれる千昌がいるから私は落ち込まずに済むのかもしれない。





「ふふ、ありがとね。千昌」

「どういたしまして」

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