第25話 非日常
その日も部活は無しとなり、家に帰った俺は一人ベッドに倒れ込む。
身体を反転させ仰向けになり天井を仰ぐと、溜め息を漏らす。
まだ心の整理が出来てない状態で、しおんに会わずに済んだのは正直ほっとすると同時に寂しさを感じた俺は、この気持ちをどう表現していいのか迷っていた。
「会ったところで、何て声掛ければいいんだ」
明日は彼女はやってくるのだろうか? それともまた姿を見せてくれないのだろうか?
今の状況がまるで彼女に拒絶されてるかのように感じた俺は、キリキリと胸が痛むのを感じた。
「もう、終わったことだろ」
自分を叱るように呟く。
しかし、返ってくる言葉は無く、ただ静かに時間だけが過ぎていった。
「あの時、なんて言えばよかったのかな」
"たられば"を言ったらキリがないが、どうしても考えずには居られなかった俺は、別れを告げられたあの日彼女に感情的になった事を後悔していた。
「もっと別の言い方もあったんじゃないか?」
しかし、過ぎてしまった時は戻せない。
今回ばかりは過去へは戻れないのだ。
「多分、また同じ事言ってしまうだろうな……ダメだな、俺って」
あの夜の出来事に触れるべきじゃなかった。俺は選択を誤ったんだ。
それだけが、俺に突きつけられた現実だ。
「もう考えるのは止めよう……」
静かにまぶたを閉じる。
そしてそのまま眠りの谷へと落ちていった。
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夢は見なかった。
いや、見たのかもしれないが、何も覚えていない。
いつも通りに目を覚ました俺は、部屋を出てリビングへ向かう。
そしてドアを開けていつもの挨拶。
「おはよう母さん」
しかし、その言葉に応えてくれる人は居なかった。
「母さん?」
いつもは台所に立って朝食の準備をしている筈のその人物は居なかった。
「誰もいない」
そう、誰も居ない。影も形も。その温もりさえ感じない空間がそこにあった。
「寝坊かな……」
遅刻するわけにはいかないので、仕方なく顔を洗い家を出る準備をする。
準備を終え再びリビングを覗くが、やはり誰も居なかった。
「返ったら文句言ってやろう」
そう決めた俺は、そのまま玄関へと向かいドアを開ける。
しかし、いつもなら家の前で待っている幼なじみの姿もそこには無かった。
「
少しだけ待ってみても、一向に現れる気配のない由美をこれ以上待つ訳にもいかなかった俺は、今回ばかりは一人で登校することに決めた。
いつもの通学路、歩きなれてる筈のその道で、俺は違和感を感じ始めていた。
しかし、それが何なのかが分からない。
いつもと違う? でも何が?
きっと気のせいだと思う事にし、俺は学園の門を潜った。
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違和感の正体に気付いた俺は、一人混乱していた。
「静かすぎないか?」
そう、静かすぎるのである。
学園へ来るまでの間に人に会ったか? いや、誰も見なかった。
それに学園に人が──
「誰も……居ない……?」
今日は休日だったか?
一瞬そう思って携帯を取り出す。
「休日じゃないよな……祝日でもない」
それにしても変だ。仮に今日が休日であっても、部活の為に学園へ来る生徒くらい居るはずだ。
何かがおかしい。
自分の教室へ入るも、そこには俺以外誰も居ない。
普段なら
「どうなってる……何なんだよこれ」
俺はそのまま教室を飛び出し、走り出す。
「いない……」
どの教室も無人。職員室も覗いたが、やはり誰も居なかった。
俺は、今日誰にも、家ですら誰にも会っていないのである。
「いない……!」
急に孤独感に襲われる。得体の知れない恐怖感がやってくる。
何かが起きてる。俺の知らない何かが。
確信は無かったが、この状況は非日常そのものだった。
「なんで誰もいないんだよ!」
廊下を走る。ひたすら走る。
校舎にも──
体育館にも──
グラウンドにも──
「どうなってるんだよ……」
心細さが俺の心を侵食していく気がした。
俺はそれを振り払おうと必死に走った。
気がつけば部室の前まで来ていた。
「誰か……」
俺はドアを勢いよく開く。
そこには俺の見知った人物が立っていた。
「由美……!」
「待ってたよ、祐二」
静かに、口元には笑みを浮かべながらその女の子は俺の方を向いた。
「待ってたって……何で──」
「祐二なら、ここに来るって思ってたから」
「どうして──」
「幼なじみの勘ってやつ?」
「何で由美は──」
「やだなあ、お化けでも見たような顔してるよ? 早く部室入りなよ」
「何で冷静でいられるんだよ!」
俺はつい叫んでしまった。
「何でって、何で?」
いつもの調子で、困ったように微笑むその女の子に得体の知れない恐怖を感じる。
「由美、お前は──」
「うん?」
「お前は、誰だ……?」
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