第24話 日常
一学期が終わり、夏休みが始まった。
俺はこの期間どう過ごしたのかを思い出せない。
特に何かする事もなく、ただ惰性に日々を過ごしていたと思う。
外に出ない俺を心配して
気がつけば夏休みも終わり、二学期初日を迎えていた。
「
由美は、俺としおんが別れた事を知っている。
多分、そのことを気にして掛けてくれた言葉なのだと俺は理解した。
「うん、もう大丈夫。色々心配させてごめんね」
「ううん、祐二が元気になってくれたならそれでいいよ」
由美は理由については何も聞いてこない。
ただ、いつものように接してくれるだけだ。
彼女なりの気遣いなのだろう、ただそれが今の俺にはありがたかった。
心をえぐられるようについた傷はまだ癒えてはいなかったが、それはきっと時間が埋めてくれる。
「……」
「……」
無言の通学。
俺たちは久しぶりに見る学園の門を潜った。
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「おはよう
「おう、おはよう祐二」
久々にあう友人の顔。俺は挨拶を交わし自分の席に着いた。
「夏休みはお楽しみだったか?」
席につくやいなや、にやつく翔太の顔が目の前にあった。
俺は胸にチクリと刺さる感覚に口を歪めそうになったが、平然を装った。
「お楽しみって?」
「そりゃあ、
綾崎しおん──俺が好きだった女の子。
多分夏休み前の俺だったら感情的になって大声を上げていただろう。
しかし、今ではその思い出はセピア色に
「特に、何もないよ」
「特にって……お前……」
「翔太、もうその話は止めてもらえないかな」
「祐二……」
俺は静かに翔太に訴える。
翔太も事情を察してくれたのだろう、これ以上何も聞いてくる事はなかった。
「祐二、今日暇か? どうせ学期初日は部活禁止されてんだ、予定ないなら帰りにカラオケ行かないか?」
学期初日は始業式と午前の授業が終われば即下校を言い渡される。
部活動もその日は原則禁止となっていて、活動は翌日からとなっていた。
俺は、正直明日から部活に行けるのかどうかを悩んでいたが、それは明日考えようと問題を先送りすることにした。
「分かった、行くよ」
その言葉に翔太の気遣いを感じた俺は、二つ返事で答える。
「何なら由美も誘おうぜ。久しぶりに三人でさ」
「いいね」
「じゃあ決まりだな! 由美には俺からメールしとくから、祐二は特に何もする必要ねえぞ」
「そうか、ありがとう」
すっかり翔太にも気を遣わせてしまったな。
「はーい、じゃあ始業式始まるからみんな体育館に集合ー!」
担任の呼びかけで、俺たちは移動を開始した。
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久しぶりの三人でのカラオケも終わり、由美と俺は帰路についていた。
「久しぶりに歌って声ガラガラだよお……」
「俺も、全然声出ない……」
俺は抑えていた感情を爆発させるように熱唱し、完全燃焼を果たしていた。
「でも楽しかったねえ」
「そうだね、また行きたいな」
「ねえ祐二、明日から部活……どうする?」
突然話を変えてきた由美に、俺は一瞬固まる。
「部活か……」
まだ傷も完全に癒えたわけではない状態で、しおんとどう接すればいいのか分からなかった。
きっと彼女も、同じ気持ちではないだろうか。
考え無言になる俺に、由美は優しく声を掛けてくる。
「無理しなくていいんだよ?」
「うん、分かってる。でも部活は部活だから、そこはちゃんと出ようと思う」
「そっか」
由美はそれ以上何も言ってこなかった。
夕暮れに染まる街並みを眺めながら、俺たちは無言でただ歩き続けた。
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翌日の放課後、部室の前までやってきた俺は、まだドアを開けるのを
「……だめだな、俺って」
今になって尻込みする。
こんなにも小心者だったのかと自分を責めたくなった。
でも、それでは何も変わらない、先に進めない。
震える手でゆっくりとドアノブを回す。
ガチャリと開いたドア、しかし──
「……」
見慣れた部室に、見慣れた光景を予想していたが、そこに
「まだ来てないのかな……」
俺は自分の席に座り、鞄から一冊の本を取り出した。
それは以前、しおんから借りた本だ。
まだ読み終わってなかったその本のしおりに手を掛け、ゆっくりとページを開く。
「もう、読んだ内容覚えてないや……」
再び最初のページから読み始める。
部室を静寂が包み込む。
聞こえるのは、俺のページをめくる音のみだった。
「……」
どれくらい経っただろうか、部室のドアが勢いよく開く音が聞こえ、俺は体を硬直させる。
「あ、祐二やっぱり居た」
振り向く俺の前に現れたのは由美だった。
「しおんちゃんね、今日来てないの、祐二に教えようと思ったけど教室に居なかったからメールしたんだけど、携帯見てなかったでしょ?」
「え?」
俺は携帯を取り出し通知欄を見ると、由美からのメールと着信があるのを見つけた。
「ああ、ごめん、全然気付かなかったよ」
「もう、祐二そういうのちゃんと見てよね。まあ、そういう訳だから今日はしおんちゃん来ないよ。部活はお休みでいいんじゃないかな?」
「そうだな……正直何やっていいか分からないし、帰ろうか」
そう言って途中まで読んだ本にしおりを挟み、鞄に入れると俺は立ち上がった。
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しかし、次の日も彼女は学園に来なかった。
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