第15話 それぞれの想い:小原由美の場合
「うぅ、身体バッキバキ……」
家に帰って早々、私は部屋に入ると荷物を放り出してベッドに沈み込む。
「ああ、幸せえ……」
二日もテント生活だったからか、ふかふかなベッドの感触が身体全体を包み込むようで、気を抜くとすぐにでも寝てしまいそうだった。
「
「あとで行くー!」
遠くからお母さんの呼ぶ声が聞こえてきて、ハッと我に返る。
だけどもう少しだけこの幸せな感覚に浸っていたかった私は、お腹は空いているけど夕飯を後回しにすることにした。
私はベッドの上で身体を回す。
「合宿……かあ」
久しぶりに見る、見慣れた天井を見つめながらポツリと呟く。
正直言うと本当はこのまま寝てしまいたかったが、まだやることが残ってるし、それに記憶の整理も必要だった。
私は合宿の出来事を振り返っていた。
合宿一日目──
特に思い出深い事は無し。
強いて言うなら、あの子の料理が"相変わらず"だったこと。
結果は見えてたけど、それを止められなかったのは私がそのことに興味を持ってなかっただけだ。
そして、合宿二日目──
「
あの夜、山道へ消えていく彼の後ろ姿を思い出していた。
「あの時、もし居なくなったのがあの子じゃなくて私だったら、祐二は同じ事してくれたのかな……」
私の大好きな幼なじみで小さい頃からずっと一緒。
昔、彼に向かって「およめさんになる」なんて言ったこともあったっけ。
私が転んで泣いてた時だって、すぐ駆け寄ってきて慰めてくれた。
その後ぐずってる私をおんぶして家まで連れてってくれて、その時言ってくれたこと。
祐二はもう忘れたなんて言ってたけど、私は鮮明に覚えている。
『由美が困ってたら、俺がいつでも助けにきてやるからな』
うん、これは私の記憶。
昔の事だから、祐二が覚えてないのは仕方がないけど──
「でも、ちょっと悲しかったかな……」
きっと祐二はあの子に惹かれてる。あの子だって祐二のこと好きなんだ。
でもこれはどうしようもない事実。私が変えようにも変えられない真実。
「しおんちゃん……無事でよかったな……」
祐二があの子を連れて帰って来た時、その光景に胸が締め付けられる思いだった。
大好きな彼が無事でいてくれて、そして大切な友達が無事でいてくれた事が嬉しくて、そして何もできない自分が許せなくて、頭の中がグチャグチャになっていて、あの日二人に合わせる顔が無かった。
キャンプファイヤーの側で踊る二人を遠目に見ながら、私はここで良いと諦めていた。
「合宿、楽しかったなあ」
なんちゃって、それは嘘──
「……」
私はベッドから起き上がり、部屋の隅に立てかけてある鏡の前に立つ。
「私に質問」
「どうぞ」
「祐二は好き?」
「うん、大好き」
「しおんちゃんは好き?」
「……好きじゃない」
「それは何故?」
「祐二を奪ったから」
「じゃあなぜ友達でいられる?」
「好きじゃないことと、友達でいることは別だから」
「あの時、しおんちゃんを探しに走り出した祐二を止められた?」
「無理、結果は変わらない」
「なぜ変わらないと断言できるの?」
「何かしたところで、結果は変わらない」
「"今回"は私、不思議部に入ったのに?」
「それでも、結果は変わらない」
「そう、じゃあ質問変えるね?」
「どうぞ」
「私はだあれ?」
「
「だよねー、それじゃあ言い方変えようか」
なんてことない、ごく当たり前の事を聞いてみる。
「あなた……誰?」
「……」
暗い部屋、目の前のそいつは黙ったままだった。
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