4
「連行しろ」
僕は石ころだらけの道をズルズルと引きずられ、軍のトラックの荷台に放り込まれた。
そこにはすでに数名の人が、呻き声を上げながら瀕死の状態で荷台に横たわっていた。
車はガタガタと音を鳴らす。荷台が揺れる度に殴られた腹部が痛み、口内に溢れた血を吐き出した。
トラックは駐屯地へと入っていく。
まるで荷物を下ろすみたいに、荷台から放り投げられた僕達は頭から冷水を浴びせられた。
僕と一緒に捉えられのは、反戦運動をしていた若者だった。
「この非国民が!こいつらは日本の恥じゃ!」
軍人は息も絶え絶えの若者を、足で何度も何度も蹴り飛ばした。若者は口から血を吹き出し痙攣している。
僕は地面に突っ伏したまま、腕を伸ばし軍人の足を掴んだ。
「なんじゃ、貴様は―!貴様もこいつらの仲間か!」
「……違う。けど……殺したらいけん。広島は明日原爆が投下されるんじゃ……。日本人同士が殺しあっとる場合じゃないんじゃ……」
「なんじゃ?お前はわしに指図するんか?非国民のくせにええ度胸しとるのう!」
ズンッと鳩尾に痛みを感じた。
軍人の足が、容赦なく体にめり込む。
「……ゲホッゲホッ、早朝空襲警報が発令される。“8月6日薄雲だが視界は良好。午前7時9分空襲警報発令、31分警報解除。午前8時15分、米軍機により新型爆弾投下”、広島の街は破壊されるんじゃ。退避せんと軍人さんも死ぬことになるんじゃ」
「貴様―!まだ日本を侮辱する気か!日本は米軍の爆弾ごときで破滅なんかせん。陸軍は無敵じゃ」
ドスドスと体中を蹴り飛ばされ、口内に血の味が広がる。
「……ゲホッゲホッ。ほんまなんじゃ。このままじゃと、陸軍も広島市民も……ゲホッ……みんな死ぬんじゃ」
このままここで処刑されたとしても、僕は構わない。この軍人が……日本の陸軍が……僕の話を信じ広島市民を退避させるなら。
僕は……
みんなを助けたいんだ。
僕は……
音々ちゃんを……助けたいんだ。
鉄道寮の仲間と決めたんだ……。
投獄されても拷問されても、原爆の危険性を訴え市民の命を守るために、全力で退避を促すと。
――コツコツと靴音がした。その靴音に、僕を痛めつけていた軍人の顔色が変わる。
「本条上等兵、やけに騒々しいな。軍人が権力に物を言わせ、数人で国民に暴行を加えるとは感心しないな。しかも彼はまだ少年ではないか」
「……谷崎大佐、この者は米国の回し者です。ありもしない噂を流し、陸軍や警察を撹乱するが目的。私にお任せ下さい。拷問を加え、仲間の名を必ず吐かせてみせます」
本条上等兵は他の軍人に目で合図し、気を失いかけている僕を引っ捕らえた。
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