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 ◇◇


「もも、あの日時正君は軍人に捕まったんだ……。だから鉄道寮に一緒に行けなかった……」


「……やはりそうか。時正が軍人に捕まり、そのあと原爆が……?陸軍の駐屯地に連行されたのかな。ねね、時正の足取りを調べよう」


 何をどうすれば時正君の足取りが掴めるのか、私達には見当もつかなかった。


 手を伸ばしても掴めるはずもない空に、闇雲に手を伸ばしているに過ぎない。


「……そうだ。もも、一緒に来て」


 私は桃弥の手を掴み、1階に下りる。

 母はリビングで、まだ祖父の写真を整理していた。


「……お母さん。教えて欲しいことがあるの!」


「なぁに、騒々しいわね。仲良く手を繋いでるってことは、仲直りしたんね」


「……やだ、そんなんじゃないよ」


 私は慌てて、桃弥の手を振り解く。


「日の丸鉄道学校のことが知りたいの。お祖父ちゃんのお仲間のことが知りたいの」


「どうしたの急に?日の丸鉄道学校のことはお母さんにもわからないよ。でも……お祖父ちゃんが亡くなって、ご仏前とお手紙を送って下さった人がいてね。名前は……山本軍士さんだったかな」


「……山本軍士!?ねね、軍士さんだ。軍士さんは生きてるんだ!」


「もも……!軍士さんが……生きてる!」


 桃弥と私は手を取り合って喜び涙を溢した。


 母は状況が理解できずとても驚いていたが、軍士さんから送られて来た手紙を私に見せてくれた。


 ――――――――――


 榮倉綾様


 喪中の葉書を頂戴し、お父様の逝去を知り大変驚いております。

 つい最近、沢口和男さんから守田さんが入院されていると聞いたばかりで、何だか信じられない気持ちが致しております。

 ご家族の皆様の気持ちを思うと心が沈む思いです。


 今は、若い頃守田さんと一緒に過ごした楽しい思い出ばかり思い返されます。


 日の丸鉄道学校の仲間は、守田さんのお陰で命を救われました。あの時、守田さんや大崎さんが防空壕や建物から出てはいけないと、強く言ってくれなければ、仲間は原爆で命を落としていたでしょう。守田さんは我々の命の恩人です。


 本来であれば、今すぐにでも線香をあげに伺いたいところですが、私も体調が万全ではなく、遠方のため略儀ながら書中にてお悔やみ申し上げます。


 心より故人のご冥福をお祈り申し上げます。



 山本軍士



 ――――――――――


 軍士さんの手紙には、住所も電話番号も書かれていた。


 桃弥に視線を向けると、桃弥は黙って頷いた。


「……お母さん、この手紙借りていい?私、ももと山本さんに逢いに行きたいの」


「音々が山本さんに?どうして……?」


「お祖父ちゃんの話を聞きたいの。お祖父ちゃんから聞けなかった8月6日の話を聞きたいの」


 母は困惑しながらも、黙って頷いた。

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