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 榮倉は父の苗字。

 守田は母の旧姓。


 挙式会場に雅楽ががくの調べが流れる中、参進さんしん修筏しゅばつが執り行なわれる。祝詞奏上のりとそうじょうで神職が神前で祝詞のりとを読み上げる。神聖な雰囲気の中、三献さんこん。少し緊張気味の新郎新婦は交互に御神酒おみきをいただき、三三九度のさかずきを交わした。


 誓詞奏上せいしそうじょうで新郎は堂々と誓詞せいしを読み上げた。最後に名を読み上げた新郎新婦。


 その名前を聞き、私は驚きのあまり声を上げそうになる。


 新郎の名前は榮倉蒼えいくらそう、新婦はあや


 間違いなく、新郎新婦は私の両親だ。


「ねね、これはもしかして……」


「もも……。行こう」


 新郎新婦は指輪の交換をし、玉串奉奠たまぐしほうてん

 両家が親族杯しんぞくさかずきを交わす前に、私達はそーっと挙式会場を抜け出し、誰もいない新郎新婦の控室に飛び込む。


 私達が迷い込んだのは、両親の結婚式!?


 これは夢……?

 私達は洞窟の中で死んでしまったの?


 ドキドキと鼓動は音を鳴らし、目の前にある現実が理解出来なくて、私は激しく動揺し混乱している。


「ねね、榮倉蒼はねねのお父さんだよな。守田綾はねねのお母さんだ。紘一さんは生きていたんだ!挙式会場に紘一さんがいるんだよ!」


「新郎新婦が……お父さんとお母さん……。お祖父ちゃんの未来は変わってない。お祖父ちゃんは生きていたんだね。時正君は……?鉄道寮のみんなは……?お祖父ちゃんに聞いてくる!」


 控室を飛びだそうとした私の腕を、桃弥君が掴む。


「待て、俺達は未来から来たんだ!ねねのご両親は俺達のことを知らない。今逢えば大騒ぎになる。今日はお父さんとお母さんの結婚式なんだ。様子を見よう」


「もも……。わかった」


 祖父(守田紘一)が生きていた。

 きっと時正君も鉄道寮の仲間も、お世話になった時正君のお婆ちゃんも富さんも、この時代で生きているはず。


 控室の壁には日捲りカレンダーが掛けてあった。カレンダーは1981年1月15日……。


 終戦から……36年後の未来……。


 原爆投下により破壊され消滅した町。

“『戦後70年は草木も生えない』”と言われた広島が、復興を果たし人々は今もなお生きている。

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