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「桃弥君……。そがあなことをしても駐在に捕まるだけじゃ。まずは、鉄道寮の仲間を味方につけることじゃ」
「時正、2人で何ごしょごしょ話しちょるんじゃ。お前らの悪ふざけは、わしらにはさっぱりわからんど」
時正は意を決したように、押入れの中をごそごそとあさる。押入れに隠していた新聞を引っ張り出し、みんなの目の前に広げた。それは2016年5月28日付の新聞で、そこにはアメリカ大統領の姿があった。
「時正、お前敵国の新聞を何でもっちょるんじゃ!こいつはやっぱり非国民じゃ!」
「和男、誤解じゃ!大声出すな!よう見てみい。これは日本の新聞じゃ。全部日本語で書かれとる。未来の新聞なんじゃ!僕は2016年にタイムスリップしたんじゃ!戦争のない未来にタイムスリップしたんじゃ!」
時正は畳の上に広げた新聞紙を、力強く手のひらでバンと叩いた。その弾ける音と時正の行動に3人は目を丸くする。
「タイムスリップ?なんじゃそれ。英語じゃろうが!わしらは米軍には騙されんけぇの!」
和男は俺達の話も聞かず息巻いている。
黙々と新聞を読んでいた軍士が、太い眉をしかめた。新聞を覗き込んでいた紘一も、明らかに混乱している。
「時正、こがあなものが寮長に見つかったら、お前は非国民として駐在に突き出されるんぞ!わしらまで巻き添えにする気か」
和男が瞬時に奪い取り破り捨てようとした新聞を、軍士が「まあ待て」と取り返す。
「紘一、お前はここに書かれとる記事をどう思う?」
「軍士、わしは……時正がこがあなものを作れるほど性根がすわっとるとは思えん。時正は臆病者じゃ。もしあるとすれば、これは桃弥君が手に入れたもんじゃろう。桃弥君は米軍に通じとるんか?日本が敗戦すると嘘ばかり書かれとる。これは米軍の策略じゃ。日本国民を混乱させる策略じゃ」
紘一の言葉に俺は首を左右に振る。
「ここに書かれていることは、日本国民を混乱させるつもりで書かれたものじゃない。ここに書かれていることは真実なんだ。8月6日、アメリカは広島に原爆を投下したんだ」
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