20

 ――電車を降りた俺達は平和記念公園まで歩いた。

 平和記念資料館を見学し、時正は何度も涙を拭った。アメリカ大統領訪問の影響か、慰霊碑前にはたくさんの人が訪れていた。


 慰霊碑の前で3人で手を合わせた。

 慰霊碑から原爆ドームも見える。


「産業奨励館があんな酷たらしい姿になるなんて……。産業奨励館で働いてた人はどうなったんじゃろうか」


「爆風と熱線で焼かれ全員即死だったらしいよ……」


「……そんな」


 時正は愕然とし、原爆ドームを見つめた。


 パラパラと雨が降り始める。まるで原爆で亡くなった戦没者が泣いているみたいに、小雨は次第に激しくなる。


 周辺にいた人が、雨を避けるように一斉に走り去る。


「時正、どこかで雨宿りしよう」


 時正の腕を掴んだが、時正は動こうとはしなかった。豪雨は俺達の体を容赦なく打ち付けた。


「時正、行くぞ」


「時正君!行こう」


「僕は行かん。どこにも行かん。僕はみんなを助けにゃいけんのじゃ。僕だけが生き残るわけにはいかんのじゃ!」


 時正は雨に打たれながら、空を見上げ叫んだ。


 黒い雲に覆われた空に、不気味な稲光が走る。地響きのように、ごろごろと空に鳴り響いた。


 ――黒い雨雲を切り裂くように、空がピカーッと光った。


 と、同時に時正の体が雷光に包まれた。

 時正の左腕を掴んでいた俺も、時正の右手を掴んでいた音々も、同時に雷光に包まれた。


 体に電流が流れたように、ピリピリとした痛みが全身に走る。体が痙攣したみたいに、声を発することも息をすることも出来ない。


 俺達は落雷を受けた……。


 咄嗟にそう思った。


 音々の体がぐらりと傾くのが見えた。

 音々の手が時正から離れる。


「……ね……ね」


 手を伸ばそうとしたが……


 その手は音々には届かなかった……。







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