12

「米軍?なにいってんの?ここにあるもんは全部日本製だよ。それより早く入れ。俺も風呂に入りたいんだから」


「一番風呂は父ちゃんと決まっとる。ほんまにええんか?あとで父ちゃんに叱られんか?」


「いいよ、父ちゃんは残業だ。早くしてくれ」


「ほいなら、遠慮のうそうさせてもらいます」


 俺より年上なのかな。広島弁丸出しで祖父ちゃんみたいだ。時正は年齢不詳、どこに住んでいるんだろう。


 シャワーも洗濯機も見たことないなんて、今時そんなヤツがいるんだな。


 胴着と袴を脱ぎ捨て、トランクスだけで室内を彷徨く。自分のジャージと新品の下着を時正のために用意し、冷蔵庫からペットボトルを取り出しゴクゴクと口飲みする。渇いていた喉を潤していると、玄関で声がした。


「ただいま、桃弥風呂に入ってるのか?近所迷惑だぞ。お隣には年頃の御嬢さんがいるんだ。窓を閉めなさい」


 少し不機嫌な父の声がし、玄関に顔を出す。


「父ちゃん、お帰り」


「桃弥、何だそこにいたのか。風呂場の電気つけっぱなしだぞ」


「今、時正が風呂に入ってるんだ」


「時正?友達か?剣道着も脱ぎっぱなし、だらしがない。ちゃんとしなさい」


「だから、時正が風呂に入ってっから、入れねーの」


 父はスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩める。


「こんな時間に友達か。親御さんが心配するだろうに」


「なぁ、父ちゃん、その親だけど、大崎って母ちゃんの旧姓だよね。時正の名字は大崎なんだ。母ちゃんの遠い親戚かな?山奥から出て来た原始人みたいなヤツなんだよ」


「母ちゃんの親戚?わざわざこんな時間に訪ねてきたのか?」


「うん。ワケありかも。何か目的あんのかな?この家、母ちゃんの実家だろ?相続問題勃発とか?母ちゃんの隠し子ってことねぇよな」


「馬鹿なこと言ってんじゃないよ。母ちゃんに隠し子がいるわけないだろう。母ちゃんは父ちゃんにぞっこんだったんだから。もちろん父ちゃんは母ちゃんよりもぞっこんだったけどな」


「はいはい」


 父は思いっきりノロケると、テレビのスイッチを入れた。


 息子によくそんな話が出来るなと呆れながらも、亡き母に対する父の愛情が感じられ男としてかっこいいなと思った。何故なら、俺は好きな人に未だに思いを伝えられないでいるから。


 浴室のドアが開き、俺のジャージを着た時正が遠慮がちに廊下に立ち尽くす。



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