音々side

 ―2016年5月27日、金曜日―


“「71年前、雲一つない明るい朝、空から死が落ちてきて、世界は変わった」”


 アメリカ大統領のスピーチが、平和記念公園に響いた。


 現職のアメリカ大統領が被爆地を訪れることは初めてのこと。それは歴史的な出来事で、日本中の国民が注目し、広島在住の私も家族も大統領のスピーチに耳を傾け、テレビを食い入るように見つめた。


「お祖父ちゃんが生きていたら、アメリカ大統領の訪問をどう思ったかな。もし元気だったら平和記念公園に観に行ったかな」


「そうじゃね。元気な時は毎年のように首から一眼レフカメラをぶら下げて、平和記念公園を訪れていたからね。きっと感慨深かったじゃろう」


 祖父が亡くなるまで、私は祖父が被爆者であることは知らなかった。広島に住んでいながら、戦争も原爆も近くて遠い存在だった。


「お祖父ちゃんはどうして私らに何も話してくれなかったのかな?」


「以前、原爆投下のことを聞いたことがあるんよ。でも『思い出しとうない』って、とても辛そうな顔をしたから、それ以上は聞けんかったんよ」


 祖父は16歳で被爆した。

 昭和19年6月から、学徒動員で広島の鉄道寮(現在の広島市東区)にいた。


 私は祖父が被爆した時と同じ年齢だが、戦争も原爆の悲惨さも知らない。


 71年前、広島に住んでいた一般市民も祖父も、空から落ちてきた閃光を見つめ、何を思ったのだろう。


 原爆投下後、体に刻まれた……

 苦痛……

 激痛……

 絶望……

 計り知れない悲しみ……。


「おーい!ねね、何やってんだよ!」


 玄関で大きな声がした。

 隣家に住む峰岸桃弥みねぎしとうや、私と同級生で幼なじみ。生意気で意地悪で超のつく俺様、幼少期のあだ名は『オレ様桃太郎』愛称はもも。

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