第3話
※※
遅刻ギリギリに、僕は学校についた。危ない危ない。あと一本遅れた電車に乗っていたら、遅刻は確定だっただろう。僕は、貼川君の席を見た。昨日の落ち込み具合から、学校に来れていないのではないかと思っていたのだ。すると、貼川君が昨日座っていた席には、人はいなかった。そんなに落ち込むことでもないだろうに、大丈夫だろうか。僕はポケットの中のスマートフォンを握る。あとで連絡を入れよう。
「おはよう。」と言いながら駒沢先生が入ってきた。僕は自分の席に座って、バッグを机の横に置いた。
授業を真面目に聞いて、放課後になった。僕は携帯を取り出すと、貼川君にメールを送る。どんな文面がいいだろうか。
「昨日の試合。見れなかったけど、貼川君ならきっと大丈夫。あんまり気にしないで、学校で待ってるよ。」と書いて、送信ボタンを押した。無難だが、まだ知り合って間もない人間が長文で慰めのメールを送ったら気味が悪いだろう。
そして、体験入部二日目に乗り出すために、僕はバッグを背負って多目的ホールへ向かった。
「今日は、皆さんにも練習に参加していただきます。」末永先輩は、二日目の体験入部に来た新入生たちを集めて、そう言った。
「秀樽高校卓球部のモットーは『効率よく』です。効率悪く練習していても、練習の回数を重ねるだけで、強くはなれません。上手くなるためには、効率の良い練習方法が不可欠なのです。」末永先輩は、演説するように、僕たちに話す。
「今日は、多球練習をしています。球出し、球拾い、そして球を打つ。三つ、すべて練習です。球出しは狙い通りの場所にボールを送るコントロールを、球拾いは卓球で大事な脚力を、球打ちは技術の反復を。それぞれに、大事な意味があります。」なるほど、球拾いも練習に組み込んでしまうのか、確かに、効率がよさそうだ。
多球練習とは、文字通りたくさんの球を使う練習だ。卓球台に、一人がついて、反対側にはネットを置くなどして、打った球を回収させる。そして、球出しの人が練習する人に、かごなどに入れた大量の球を何度も同じ場所に打って反復練習させたり、左右に打って練習相手を動かしたりする。基本から、高度な技術まで、様々なことが練習できるものだ。
普通は卓球台の反対側にはネットがあるはずだが、ネットは置かれていなかった。その代り、卓球台の後ろと前に、虫取り網を持った部員が立っていた。虫取り網は、安いかつ、意外と球を拾いやすいという理由で、卓球部の用具に入ることが多い。
つまり、球出しの人が出した球を、練習する人が打ち、飛んでいった球を、球拾いの人が拾うという一連の流れが、すべて練習になっているということだろう。休む暇がなさそうだ。
「それでは、二人一組になって、台についてください。練習を始めます。」僕は、近くにいた男子と組むことになった。端から二番目の台について、先輩に「よろしくお願いします。」とあいさつをする。先輩たちは「よろしく!」と元気に返事をして「じゃあ君は、虫取り網もって台の後ろについて。君は台について、練習してもらうよ。」と言って、僕は虫取り網を持たされた。言われた通り、台の後ろにつく。
「飛んできた球は全部拾うつもりでやってね。」と、先輩が注文する。僕は「はい!」と返事をすると、両手で虫取り網を握りしめた。
練習が始まった。まずは、二点にボールを先輩が出し始めて、僕と組んだ新入生が打ち始める。フォア側とバック側にそれぞれ球を出すことを「二点」という。「三点」だったら、ミドルを含めて三つの場所に球が出されるというわけだ。
僕は飛んできた球を虫取り網でキャッチし始めた。二つのコースに打たれるから、自然と僕自身も二つの場所を反復横飛びのように動くことになる。受験で体を動かしていないせいか、すぐに息があがってしまう。それでも、全部取るつもりで。と言われた通り、僕は飛んできた球をほぼ全部拾った。
次は僕が打つ番だ。ラケットを手の中で回して、卓球台に立つ。
「じゃあ、君も二点からね。」と球出しの先輩が言う。
「はい!よろしくお願いします!」僕は、軽く腰を落として、いつボールが来てもいいように構えた。
先輩は僕が構えたのを確認すると、ラケットを持って球を出してくる。二点のバック側とフォア側の球を、両方フォアで取る。と言う分には簡単だが、出されている角度は、かなりキツい。僕は全力でボールを追いかける。かこん。かこん。かこん、かこんかこんかこん。
だんだん出される球の速度も上がってくる。球がなくなるまで、あと少し、あと少し、あと少し……。
「ぶはあ!」球がなくなって、先輩が「ラスト」と言って上げた高い球をスマッシュして、僕の番は終わった。
「鮎川は体力があと一息だな。」先輩がそう話しかけてくる。
「はい。かなり落ちちゃってますね……。」僕は息切れしながら先輩に言った。言葉にした通り、体力は、中学で卓球をやっていた頃より、かなりなくなってしまっているようだった。
そのあとは、球出しをしたり、また後ろで球拾いをしたりと、忙しい時間を過ごした。練習メニューを進めていくのに比例して、僕の体力はどんどん削られていく。だけど、辛いとは思わなかった。卓球は、やっぱり楽しい。サッカーとか、テニスとか、野球とか、色んなスポーツにも負けないくらい、華のあるスポーツだと思う。楽しく卓球をできて、疲れるまで練習できる。これは幸せだろう。
最後に、課題練習というものをやった。自分が、今足りないところ、出来るからもっと伸ばしたいところをそれぞれやる。というもののようだった。
僕は、体力がない所が、今現在のダメなところだと思った。だけど、それは練習ですぐなんとかなるものではない。どうしたものか。困ったので、先輩に聞いてみることにした。
「なら、二つ目にやりたいことをやるといい。体力に関しては、今日の多球練習で充分やったからね。」僕に質問された先輩は、そう言った。なるほど、やりたいことの候補を作って、それを消去法で消していけばいいのか。一番やりたい体力面の練習は、すでに今日やったから消して、フットワークの練習も、球拾いと多球練習でたくさんやったから消して・・・。
最終的に残ったのは、「全体的な球の軽さを重くする」ことだった。昨日先輩と基礎打ちをしていた時に感じていたものだ。
球の重さは、回転量、スピード、打つ時の強さなどからくる。今日はどれを鍛えるべきか。
いろいろ考えて、結果的に、僕は回転量を増やす目標を立てて、基礎打ちをすることにした。相手は、重い球を打つことができる先輩に頼むべきだろう。しかし、僕は気弱で、自分から「お願いします!」をなかなか言いにいけない。きづくと、どんどんみんなはペアを作っていってしまう。いよいよ焦り始めたその時だった。
「よかったら、打ってくれない?」と声をかけられたのだ。振り返ると、昨日貼川君と試合をした宮島先輩がいた。
「はい!お願いします!」自分から声をかけられなかったのは少し悔しかったが、先輩と打てるのだから、結果オーライということにしておこう。僕は台に着くと
「君の課題は?」と宮島先輩に、ボールを地面につきながら言われた。
「球を重くする練習をしたいので、基礎打ちからお願いします。」と言うと、宮島先輩は驚いたように
「へえ、珍しいな。新入生がいち早くやりたいことなんて、ドライブやサーブ練習なんかだと思ってたよ。」球を巧みに台の上で転がしたり、ラケットで球つきをしたりしながら言った。
「高校と中学の違いって、フィジカルからくる球の重さだと思うんです。サーブやドライブもまだまだ足りないことではありますけど。」僕は、宮島先輩の操る球を眺めながらそう言った。
「確かにそうかもね。おっと、あまり話してると部長に怒られる。そろそろやろうか。」球つきを止めると、宮島先輩は球をこっちに渡してくる。
その後は、末永先輩に終了と言われるまで、二人でそれぞれ課題練習をした。宮島先輩が上手すぎて、少し自信を失いかけたが、先輩とは一年間も卓球をやっている時間が違うのだ、それは当然のことだと、自分に語りかける。
「今日の練習は、これで終わりです。体験入部の新入生は、片付けは無しです。お疲れ様でした。」末永先輩はそう言って、僕たちの二日目の体験入部を締めくくった。僕はロッカールームで着替えると、家に帰った。
※
俺は、ゴミ捨て場にいた。まるで廃人のような顔で、目の前のごみに目を向ける。
ゴミ袋には、ラケットやシューズが入っていた。もう、俺はダメだ。たった一度の敗北で、俺はダメになってしまった。それは、買ったばかりのラケットに貼ったラバーが、その日に、台の角などでぶつけて、抉れてしまうように、簡単に大事なものが壊れていく感覚によく似ていた。
もう、こうしてラケットを見ることもないだろう。
「さよなら。」
俺はそれだけ言うと、ゴミ捨て場を去った。空はすっかり、オレンジ色になってしまっていた。相当長い間、俺は部屋の布団の中で過ごしていたらしい。
部屋に着くと、少しすっきりしてしまった空間に目をやりながら、俺は布団に身を投げ出した。しかし、投げ出した際に、何かの角に足の指をぶつけてしまう。しかし、俺は声を出す気力もなく、打った足をさすった。何にぶつけたのだろう。目をやると、それは積み上げられた卓球ノートだった。どうやら捨て忘れたらしい。もう一度捨てるか。と、卓球1と書かれたノートを広げる。すると、まだ卓球を始めたばかりの初々しい俺の字が目に飛び込んできた。
卓球を始めたのは、小学五年生の時だった。家の近くにあったボロい卓球場に、毎日通っていたのを思い出す。卓球ノートには「今日、フォア打ちが5回続いた!」等と下手くそな字で書かれていた。俺は、次のページをめくる。「今日は、下回転サーブができるようになった!ドラゴンサーブと名付けた!」と書いてある。アホらしい。そう思いながらも、俺の顔は少し綻んでいた。目を瞑ると、昔のことがまぶたの裏に、まるで映画のように上映され始めた。
「おんじ!どうだ!?」オレは、キラキラした目で振り返る。
「おお、今のはかなりいい線いってたな。あと少しだ。」おんじと言われた老人は、オレの頭をわしわしと撫でながら、卓球台の端に置いてある空き缶を指差して言った。
「いいか、狙うんじゃないんだ。あそこへ打つ。って気合が大事なんだよ。」おんじはタバコに火をつけながら言う。おんじの言っていることは、たまによくわからない。けど、胸にすうっと入ってくる言葉たちは、コツを教えてくれているんだ。ということだけ教えてくれた。
「おお!気合!」俺はそう叫ぶと、またボールを上げて、ボールの下の部分を切った。下回転サーブを、あの空き缶に当てたら、オレの勝ち。おんじがジュースを奢ってくれるらしい。しかし、なかなか当たらない。端に置かれた空き缶から、少しだけ逸れてしまった。あと少しで当たりそうなのに、その少しが詰められない。もどかしいが、気合だ気合。またポッケに入っていたボールを取り出すと、下回転サーブをかけた。しかし、サーブはまた逸れていってしまう。
「おんじ!こんなのできないよ!難しすぎ!」とオレは弱音を吐く。おんじはタバコを灰皿にギュッとやって火を消すと「ちょっと貸してみろ」とオレからラケットをひったくった。
「まず、心の中で三回叫ぶんだ。そうだな、俺は天才!って言え。」
「オレ天才じゃないから。」オレはそう言ってブーをたれる。
「細かいことはいいんだよ。とにかく言ってみろ。」おんじは、少し声を荒げると、オレに唱えるよう促した。
「オレは天才。オレは天才。オレは天才。」オレはおんじが言った通り、心の中で三回叫ぶつもりが、声に出して言ってしまった。
「よし!これで当たるぞ。」おんじはそう言って、下回転サーブを出した。かこん、かこん、かこん。ラケットがボールに当たる音、一回バウンドする音、二回目のバウンドする音。そして
「すげえ!本当に当たった!」おんじの出したサーブは、綺麗に空き缶と一緒に台の外に落ちた。
「だろ?ほら、お前もやってみろ。」おんじはオレにラケットを返すと、二本目のタバコに火をつけた。
「オレは天才。オレは天才。オレは天才!」目を瞑ってオレは三回言う。そして、サーブを出す。すると、すぅっとボールは空き缶の方に吸い込まれていった。がこん。空き缶は少し大きな音を立てて、台の外に落ちた。
「おんじ!」オレは、さっきより更に輝いた目でおんじの方を振り返った。
おんじは、タバコを咥えながら、こくりと頷いた。
「ドラゴンサーブって名付けとけ。」
「嫌だよ!ダサいし!」
目を開ける。どうやら少し寝てしまっていたようだ。窓の外は、すっかり暗くなっていた。かなり懐かしい人との夢を見た。卓球ノート。毎日卓球が楽しくて仕方がなかった頃に、毎日書いていた日記のようなものだ。少し、捨てる気分ではなくなる。おんじ、まだ元気かな。
明日、行ってみよう。そんな気にさせたのは、本当に出来心だった。だけど、なぜ昔の楽しかった記憶を思い出すのだろうか。しかも、もう卓球などしたくない。と思った矢先にだ。
卓球ノートは、月明かりに照らされて、少し黄ばんだページを明るくした。
次の日、朝起きると、携帯が何かのメールを受信していたことに気づく。鮎川からだ。
「昨日の試合。見れなかったけど、貼川君ならきっと大丈夫。あんまり気にしないで、学校で待ってるよ。」という内容のものだった。一昨日の俺の落ち込み様から心配して送ってきてくれたのだろう。俺は「俺は大丈夫。ありがとう。」とだけ打って送信ボタンを押した。
さて、今日は学校に行こう。卓球場へ行くのは、その後だ。と思って、俺は制服に着替え始める。
制服に着替えると、すっかり軽くなってしまったスポーツバッグを背負って、外に出る。昨日は随分と怯えながら学校に行こうとした。俺は思い込みが激しい方だというのは、重々承知している。それはある時はよく働き、またある時はどん底まで辛くさせるもので、やはり俺は「不器用」なのだ。と思った。
あとは商店街をまっすぐ行けば、駅に着くところで、鮎川に遭遇した。鮎川は俺を見つけると、笑顔になってこちらへ近づいてきた。
「今日は来れたみたいだね。」鮎川は嬉しそうにそう言う。
「昨日はメール、ありがとうな。」正直、今まで一人で突っ走ってきた分、俺には友達と言えるような人間は、ずっといなかった。ここまで好意的に接触してくれる人間は、俺の中で初めてかもしれない。
「気にしなくて大丈夫だよ。今日は体験入部、来れそう?」
「いや、実はもうあまり自信がないっていうか……。」俺は頭を掻きながら言う。
「そうか……。まあ無理は禁物だからね。」鮎川は残念そうにそう言う。
そのあとは、二人で色々喋りながら登校した。最初に会った時は、恥ずかしい姿を見せてしまった。と今更ながら照れくさくなる。
クラスに着くころには、俺の調子はいつもの状態に戻っていた。卓球については、やっぱりまだ思い出すと辛い気持ちになる。というか、もうできないのではないか、と思うくらいに、気持ちは卓球から離れてしまっていた。卓球目的でこの高校に入ったのに。滑稽な話である。
教室に着くと、スポーツバッグを椅子の下に置いて、授業の準備をする。ガラガラ。と音を立てて、駒沢が教室に入ってくる。今日は学習調査テストだったはずだ。
そして、テストがすべて終わって、帰ろうと思って、昇降口に行った時だった。下駄箱の付近に、宮島先輩がいる。俺は胸が重たくなって、なぜか階段の裏に隠れてしまう。俺が隠れる必要など、どこにもないはずなのに。
「実は、一昨日の体験入部で新入生に喧嘩売られてさ。卓球でだけど。」宮島先輩は、どうやら友達と話しているようだ。しかも、俺の話。
「へえ、でも宮島のことだから、完封してやったんだろ?」
「そりゃあ。三点ほどミスったけど、あとは完全にボコボコにしてやったよ。」笑い声が聞こえる。俺は胸のあたりがからっぽになった気分になってしまう。動悸がして、あの屈辱的な敗北の事を思い出していた。
「それでその後、ちょっとからかって、そいつからお小遣い貰おうとしたんだけどさ、体験入部生は片付けなしだったから失敗しちゃったよ。」お小遣い?カツアゲでもするつもりだったのだろうか。俺は怖くなって、握り拳を作る。
「じゃ、また明日な。」そう言って、宮島先輩は友達と別れた。そのまま昇降口から去るのかと思いきや、こちら側に向かってくる。俺の心臓は、活発に血を体中に送り出していた。しかし、それはあったかくはなく、とても冷たいものだった。
「出て来いよ。負け犬。」宮島先輩は、階段の後ろの俺に向かって、そう言った。バレていた。俺の顔はすっかり真っ青になっていた。
「お前、さっきの話聞いてただろ?俺今さ、金に困ってるんだよ。だからちーっとばかし貰えねえかな、ってな。」宮島先輩は、階段の裏で動けなくなっている俺に近づくと、勝手に俺のスポーツバッグを漁り始めた。
「なにするんですか!」大きな声で言おうとした瞬間、俺は顔面に強い衝撃を受けた。殴られたのだ。
「お前に逆らう権限はないんだよ。」そう言って、倒れこんだ俺の腹をさらに蹴った。ぐふっ。と声を漏らすと、そのまま体を丸めてしまった。
「いいか、俺はお前みたいな自信家だけど実力がない奴が、いっちばん嫌いなんだよ。抵抗したら、もっと痛い目にあって貰うぞ。」俺はその言葉に怯えて、ますます体を丸めた。
「実力がない奴は、強い奴に従うしかない。秀樽高校卓球部の、隠れた掟だ。俺はそうやって、強くなってきた。」俺の財布から三千円程抜き取ると、宮島先輩はそう言って、地面に伏した俺にゴミのような視線を向けて、去っていった。
俺は、弱かった。どうしようもなく。弱かったのだ。俺は涙か汗か鼻水かわからないもので、顔をぐっちゃぐちゃにしていた。もう俺は卓球はできない。弱い人間は、強い人間に立ち向かう権利さえないのだ。そして、大好きなはずだった卓球は、いまや恐ろしいものに姿を変えていた。俺は卓球にすら立ち向かう勇気がない。たった一度の敗北で、俺は全てを失ってしまった。それが悔しくて、情けなくて、恥ずかしかった。
俺はよろよろと立ち上がると、スポーツバッグを背負って、歩き始めた。死にかけの蝉のような声を口から出しながら、駅に向かっていく。
電車に乗り込む。だけど、ぐちゃぐちゃになってしまった顔を上げるのが恥ずかしくて、俺は下を向いたままだった。
弱い奴は、強い奴に従うしかない。宮島先輩の顔が現れて、俺の脳裏に張り付いた。頭を振って、その考えを振り払おうとするが、それすらも出来ずに、俺の脳内で、宮島先輩は繰り返し言う。
お前は弱い。
お前は弱い。
お前は弱い。
そして、そう言われる度、俺の心はずたずたにされていった。俺は、走って家に帰ると、自分の部屋に飛び込んで、泣き崩れた。
悔しいのに、それを覆す実力がない。俺はもう何も出来ない。俺は床を殴る。自分をなじる。でもいくらそれらをやっても、心は晴れることはなかった。そして、俺は布団に倒れこんで、泣きながら眠りについた。
「なんだ、またお前いじめられたのか。」おんじはオレにそう言って、またオレの頭をわしわしやった。いじめられた時、いつもおんじに泣きついては、一緒に卓球をした。なぜか、その光景が俺の頭をかすめる。
「お前は決して弱くなんかない。ただ立ち向かう勇気がないだけだ。心の中で3回繰り返せ。」おんじはそう言って、またタバコをふかした。
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