ゲーム売りの少女がブチ切れるまで5秒前

ちびまるフォイ

これを見た人もゲーム買ってください…

「PS3……PS3はいりませんか……」


「いらねーよバーカ!」

「なんでこの時期にPS3なんだよ!」


ゲーム売りの少女はたまりにたまった在庫をひっさげ

まだ春になりきらない寒空の下で売っていた。かわいそう。


「ああ……もう……だめ……」


在庫が減らないので給料があがらない。

じわじわと追い詰められた少女は疲れのあまりその場に倒れてしまった。


そして、異世界のテンプレシーンを経由して異世界にやってきた。


「ここは……異世界! そうよ! ここならまだゲーム知識がないから

 PS3だってゲームボーイカラーだって売れるに違いないわ!」


少女は在庫を売るために異世界の町へと走り出した。

道中のモンスターはムダにでかい箱でぶん殴って突破した。


町につくと、誰もが剣や魔法だけで生活している。

ゲームどころか科学すらないこの世界はまさに手つかずの楽園。


「ここなら間違いなく売れるわ!」


リヤカーを引いてさっそく売り出すことに。


「PS3はいりませんかーー。

 高グラフィックのゲーム機はいりませんか――。

 今ならPSMOVEもついてきますよーー薄型ですよーー」


見たことのない黒い箱を見て、町の人たちは足を止める。


「なんじゃい、そりゃあ」


「ゲーム機です。ゲームソフトもありますよ!

 これがあるだけで、想像したこともない世界が体感できるんです!」


「あ、そう」



「……あれ!? ちょっ……待ってください!」


少女の在庫はぜんぜん減らなかった。

巨人の侵入すらはばめそうな壁になっている在庫を見て少女は考えた。


「うーーん、やっぱり新しい文化だから受け入れられないのかな」


思えば、このゲームで何ができるかなんてわからない。

この世界にはなにも知識がなかったのだから。


翌日から少女は売り方をかえた。


PS3をセットして一番人通りの多い場所でゲームをプレイした。


「はっ! やあ! とお!!」


周りにアピールするため聞こえよがしに声を大きくしてプレイする。

アクションゲームにRPG、恋愛ゲームにシューティング。


実際にゲームを楽しくプレイする姿を見せ続けた。


「これならきっとゲームのすばらしさに気付くはずだわ!

 ゲーム、ゲームはいりませんか!

 スマホのゲームにはない本格的なゲームが楽しめますよ!

 今ならセガサターンとドリームキャストもついてきますよ!」


けれど、人が集まるどころかモーゼが叩き割った海のように

人垣が少女をさけてぱっくりと割れていた。


「な、なんで!? どうして誰も買ってくれないの!?」


少女はこの異世界でも在庫を残して死んでしまうのか。

見かねた趣味が異世界転生の女神がやってきた。


「ああ、女神さま! どうしてゲームの魅力が伝わらないんでしょう!」


「悪いのはゲームではありません。原因はあなたの方にあります」


「私が美人じゃないからと言いたいんですか。ぶっ殺しますよ」


「そうではなくて、伝え方に問題があるのです」


女神は少女に親切な説明をはじめた。


「この世界にはすでにゲーマーがいるんです。

 ゲームを楽しむプレイヤーはすでにいるんですよ」


「そうなんですか。ゲームが売れないのは、ゲームが嫌いなわけじゃないんですね」


「あなたは単に"ゲーム面白いよ"と伝えるばかりですね。それではいけません。

 これをプレイした結果、どういったことが楽しめるかまで踏み込んで説明なさい」


「なるほど!」


少女は自分の売り方に問題あることを悟った。

マッチ売りの少女よろしくテープレコーダーのように「ゲーム…」と繰り返しても

それを手に入れて何が良いのかわからないので誰も買わない。


異世界ジャパネットに行ってプレゼンを学んだ。


「これできっと売れるわ!」


リヤカーを引いて町までくるとゲーム機を売り始めた。

学んだ技術をフルに生かすと、どんどん人が集まってくる。


「なんだかおもしろそうだな」

「それはなんていうソフトなんだい?」

「これはすごい!!」


少女はタイミングを見て叫んだ。



「これがゲームです! みんな買ってください!」






「そうしよう! 魔王城ちかくのブックオフで!!」


少女のプレゼンでゲームは異世界に浸透した。

やがて、魔王が運営するブックオフに人が絶えることはなくなった……。



「飽きたゲーム売ってただけなのに、すげぇ売れるんだけど……」


一番びっくりしていたのは魔王だった。


数日後、怒りで目を充血させた少女が城に殴り込みに来るとまたびっくりした。

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