二日目 白紙さん
何枚も何枚もの白い紙がひらりひらりと部屋を舞う。そんな場所をこつりこつり足音をたてて進む女性。舞う紙と同じ白い髪をゆらゆらと踊らせながら、にこにこと鼻歌混じりで歩み行く。彼女は、部屋の中央に辿り着くと歩みと鼻歌を止め、目の前を横切ろうとした紙を掴んだ。
「さてさて。今日は、どんなものが見れるのかしら?」
彼女がそう呟き微笑むと、何処からか現れた色取り取りの光が、手の中の紙の上をするりと滑る。きらりきらりと光が紙に溶けていくと、白い紙には年月を感じさせる茶色の幹に青々とした緑の波が溢れる大樹が描かれていた。
「あらあら! 今日はとても綺麗で素敵な景色ね!」
絵の描かれた紙を掲げて、女性は嬉しそうにくるりくるりと回り踊りだす。
「嗚呼、嗚呼。風を感じるわ。踏みしめる土の感触も、深く濃い木の香りも」
紙をぎゅっと抱きしめ天を仰ぎ、彼女は言葉を零す。その身が絵の様な大樹の元へと在るかの様に。
「そうね。きっとこれは、良い思い出になるわ。忘れちゃ、駄目」
彼女は瞼を閉じる。
「大丈夫。あなたの記憶は、私が守るから」
腕に抱えた紙と辺りを漂っていた紙数枚を手に取り、彼女は部屋の入り口へと向かう。
「私は、あなたの記憶の管理人。あなたの見たもの、感じたものを、忘れたくないと望む限りしっかりと守り続けるわ」
そう呟いた彼女は、微笑みを携えたままドアの向こうと消えていく。
ひらり。ひらり。
白い紙が舞う部屋に、またひとつ光がふわふわと漂う。此処は、あなたの感覚を記憶する場所。
一枚、一枚に、大切な想いを込めて綴られる、あなたの世界。
――――――――――――――
唐突に思いついたタイトルから書いた話。
部屋の名前は、眼脳と書いてめのうのへやか、覚と書いてかくのへやとかかな。
設定は一杯思いつくのに、話が思いつかない。
みちくさ、よりみち、かくれんぼ @microkey
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