第3話 好きな色とその理由について
「好きな色は」という質問が就活で偶にあるという。それの回答としてはなぜその色が好きかを備えて答えるのが定法らしい。知るかと思う。好きな色は青色ではあるが、好きな色なんて記憶が定かになるかならないかの幼少期に決定されたものをどうして好きになったかなどと考えなければならないのか。ここではどう考えても「青色が好き」という結果から「なぜ青色が好きか」という原因を無理やり導き出さなければならないのである。
色々なものに無理やり理由をつけるのは非常に嫌いである。「なぜ青が好きですか」「なんとなくさわやかな感じがするからです」「さわやかなのは何も青色じゃなくてもいいですよね?」知るか。好き嫌いに理由を求め始めると大体がよくわからない議論に展開され面倒くさいことになるし、「ショーシャンクの空に」が好きだという人をにわかだと食って掛かるのは大体この理由を求めないとやっていけない人だ。好きな映画くらい好きに選べばいいじゃん。なんとなく好きなんだから。
「なぜその色が好きですか」「なぜその作品が好きなのですか」くらいならいいのだが、「なぜ人を殺してはいけないか」という命題くらいになってくると難しい。考えてみるとまあまあ厄介な問題で、正当防衛(や死刑)が是とされている文化圏も少なくないので、そもそもの命題が偽なんじゃないかと思う。かといって条件付なら人を殺してもいいみたいな言い方で否定するのも躊躇って、結局あれこれ考えた挙句、「自分が殺されたら嫌だから」くらいの主観的な理由に帰着してきたのでそこで考えるのをやめた。
「なんとなく嫌だから」というのはすごく大事だと思う。ごちゃごちゃ考えるくらいなら一周回ってそれくらい単純に考えた方がいい。世界3大タブーとされている殺人、食人、近親相姦、個人的にはどれも、「なんとなく嫌だから」くらいの理由しかないんじゃないかと思う。今wikipediaを調べてみたところ江戸時代では人の肝臓を薬として売っていたらしいので、数百年前には日本でも食人は今ほどの嫌悪感は抱かれなかったっぽいし、近親相姦にしては天皇家が最たるものであるし、旧約聖書のノアの箱舟はその後の近親相姦は免れないし、新約聖書のアダムとイブに至っては自分のあばら骨と子供を作る自身相姦になると思うと、3大タブーと呼ばれているものは昔の文化ではそこまで否定されていなかった、近年「なんとなく嫌」になった文化なんだと思う。じゃあなんでそれらが「なんとなく嫌」になったかと考えると、なんとなくじゃないですか?実際のところ。人文学者に聞いてください。
そんなことを中学校のころに読書感想文をいやいや書いていた自分を想起しながら考えていた。読書という行為に無理やり理由をつける読書感想文は全然かけなかったし、今でも「なんとなく嫌」である。
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