―――2

 朝の仕事を終え、朝食を食べながらとある事に頭を使っていた。

 食卓を見渡せば、随分賑やかになったと。

 アエラとミーニャ、タッシェルは主人と一緒に食事は失礼だと俺の横に立っている。

 床ではイソギンチャクがパンを食べている。キモい。

 そして俺の向かいではリリィとルゥルゥも朝食を頂いている。

 ちなみに今日の食事当番は俺、これも頭を使っている理由の一つだが・・・。


「リリィ、美味いか?」


「はい!タクヤさんは料理もできるんですのね」


 作ったのはお手軽シチュー、自分としても上出来だ。

 だが、ここに来るまでに幾多の苦難があったか・・・。


 俺の攻撃力はバグによって測定不能なほど高い。

 だが、別段俺の筋力が上がったわけでもなく、日常生活する分には何ら支障はない。

 しかし料理は別だったようだ。

 包丁を握り、野菜を切ろうとした時、世界のシステムはそれを攻撃と認識する。

 軽くジャガイモを切ったつもりでも、包丁を動かすとまな板まで真っ二つ、さらにジャガイモは粉々に砕ける。

 要するに、ダメージを与える意思を持つ行為自体が攻撃であり、その攻撃は俺にとってほんの少しの力でもかなりの攻撃となる。

 それから試行錯誤して、なんとか力加減が分かってきた。

 まさか料理がこんな繊細な行為になるとは・・・。


「料理結構すきなんだけどな・・・」


「本当ですよ!本当に美味しいですの!!」


 リリィはお世辞に取られたと思い、必死に褒めてくれる。

 料理が満足にできなくなったこの体がクソなだけで・・・。


「ありがとうリリィ」


「いえ、こうして食事に招いていただけるだけでも嬉しいですの」


「アエラも、家を使わせてくれてありがとう」


「いいのよ、気にしないで」


 いつものように優しく微笑んでくれるアエラ。

 これがもう一つの悩みだ・・・。

 オレ一人なら牧場や畑の手伝いで済むだろうが、こうも世帯人数が増えると厳しいに違いない。

 元々二人の生活は裕福なものではない。父親が出稼ぎに出ているのも、ここの経営だけでは立ち行かないからだ。

 以前、違法商人の報奨金で恩返しをしようとしたが、アエラはお金を受け取ってはくれなかった。

 俺に気を使ってくれているんだろうが、かえって心苦しい。

 アエラの優しさに甘えるにしても、自分たちの食い扶持ぐらいは自分たちでなんとかせねば。



 食事の後、畑仕事が終わってから魔物な面々を集めた。

 現在の、アエラたちに甘えている俺達の状況を説明した上で今後の相談をしようと思ったからだが・・・。


「アエラさんがお金を受け取らなかった気持ちはわかりますの」


「と言うと?」


「私なら誰かの手助けをしてお礼をお金で貰うのは、気持ちは嬉しいですけど、すこし困ってしまいますの」


 言われてみればそうか。

 誰かに優しく接する時、別に恩を売っているつもりはない。アエラもそういう気持ちで俺たちに接してくれているんだろう。

 それを物で恩返ししようってのがソモソモの間違えか。


「そうだな・・・、で、牧場への恩返しをしようとおもう」


「恩返し?」


 タッシェルが首をかしげる。


「そうだ、特にフェンリル、お前の食費がかかりすぎなんだよ」


「そ、そんなに我は食べているのか?」


「一日三食、一食にキャベツ10玉、畑で取れるキャベツじゃとても賄い切れないぞ。お前草食なんだからウサギと一緒にその辺の草食えよ」


「えー、キャベツ以外は・・・」


 なにその露骨に嫌そうな顔。


「大体、野生の仲間は何食ってんだよ」


「食べられる草花や木の実である」


「食えるじゃん!キャベツじゃなくても問題ないじゃん!」


「キャベツが美味なのがいけないのである!」


 ワガママかっ!ただのワガママだったわ!


「タクヤ様、この駄馬には雑草を与えるとして、具体的にはどうするんですか?」


「そうだなぁ、例えば牧場のうさぎ、じゃない、牛の数を増やすとか、畑の規模を今より大きくするとか」


「私達の手もありますから収入源を増やすのは良いお考えかと」


「じゃそういう方向で・・・ギルドに相談に行こう」


 この世界のギルドは冒険者と利用者を繋ぐのが主な機能だが、それ以外にも冒険者の生活サポート、街の人たちの相談役、美味しい食事とお酒を提供する憩いの場などなど。

 国が提供するサービスと、民間が運営する何でも屋のような幅広い活動を行っている。

 前回、トカゲ共に牧場が襲われた時にもギルドのお世話になった。

 家の修繕やウサギの融通、今回もきっと力になってくれるだろう。


 俺は立ち上がると、股間に感じる気味の悪い感触の元を剥ぎ取り、地面に落として力いっぱい踏みつけた。


「イイッ!じゃない、嫌!私も連れてって!!」


「お前は自分が何をやったか忘れたのか?村の娘さんにあんな・・・、あんな苦行をさせやがって。村に連れて行ったら俺達まで仲間だと思われるだろうが」


「分かってる!ダーリンに迷惑をかけないから!」


「お前がついてくる事自体が迷惑なんだ!!」


 さらにグリグリと力を入れると、喘ぐ声が・・・ほんとその可愛い声やめてくれ、覚醒めそうだわ。


「だ、大丈夫だから・・・バレないように変体するから」


「ハハハハ、ナニヲイマサラ、すでに変態だろうが」


「違うわよ!体が変わるの変体よ!」


 イソギンチャクがそう言うと、体が徐々に光り始め、目が開けられない程眩しくなってくる。

 数秒して、ゆっくり目を開けてみると、足元に居たイソギンチャクの姿はなく、スラッとした生足が・・・。


「どうダーリン!私の人間を模した格好は!」


 視線を上げていくと柔そうな太もも、理想的なラインのくびれ、少し控えめな胸、そして短くまとまった夏空のような青い髪と大きな目が特徴的な丸い顔。

 ただ、致命的な欠点が・・・。


「可愛いでしょう!?私が見てきた人間の中で一番可愛いと思った人間を真似たの!」


 にじり寄ってくるイソギンチャク、その顔はドヤ顔を決めているはずなんだが。

 はずなのに、なぜか顔は無表情なままだ。


「・・・怖い!声だけテンション高くて怖い!!」


「そんなはずないわよ!かわいいでしょう!?」


 なんだこの心が不安定になる感じ。

 人間は自分の理解できない現象への対処力ってのはこの程度なのだ。

 キモいから怖いに進化したイソギンチャク、マジ怖い。

 だが悲しいかな、目の前の怖い女の子は素っ裸なわけで、俺の股間も色々開放気味なわけで・・・。

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こんな俺に期待する世界が間違っている 川本純志 @kawaatu

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