―――3

【GAME OVER】


「あ”あ”あ”あ”」


 良い所だよ!すっげぇ良い所だったろ!?

 普通そのままエンディングが流れて、次回予告に繋がる、そういう流れじゃないかな!?


『あなたはとても美味しいところで死んでしまいました、再度復活しますか?』


「そのテンプレも久々だな、真面目に仕事する気になったか?」


『そこまで余裕があるタクヤも初めてですね、仲間が増えて有頂天ですか?」


「真面目に仕事する気になったか?」


『・・・私はいつだって真面目です、24時間営業ですよ』


「じゃぁ早く元の世界に・・・」


『せっかく新しいお友達ができましたし、もう少しゆっくり過ごしてもいいんじゃないでしょうか?元の世界でも友達が少なかったんですから、それにあなたは有効的な性格をしているのに引っ込み思案で相手のことを考えすぎるきらいがありますから』


「すっごい早口だな、なにか問題でもあったか?」


『も、問題はありませんよ、私の仕事は至って順調です・・・が、タクヤは困りますね』


「そうだな、お前がこの世界のバグをさっさと取り除いてくれれば」


『あなたが出会ったエルフのリリィと、フェアリーのルゥルゥ、この二人もイレギュラーです』


「は?・・・いや、それは無理だわ、二人に手を掛けるとか絶対ムリだわ」


『そう言うと思っていました、ので、私の方で二人を消す準備をしておきました』


 え?いや、消すってなんだよ。


「おい、それって」


『察しはつくでしょう、消すんですよ、この世界のバグを取り除くと言うのはそういうことです』


「殺すってことか?」


『殺すとは違います、存在が消えるのです、この世界になかった事にするのです」


「同じじゃないか」


『タクヤ、もう少し頭を働かせてください、存在が世界から消えるというのは、全ての記録・・・記憶も消去されるのです。その人物がこの世界で起こした事象や、関わった人物とその記憶、全てが消えるのです』


 こいつが言う存在が消えるって言うのは、そこまで消えるのか・・・。

 誰も二人の存在を覚えていない、生まれてすら居ない状態まで。

 確かに殺すとは訳が違う。誰にも覚えておいてもらえない、それどころか存在すらしなかった事になるのか。


 自分が消えてなくなる事、ソレを想像して、ゾッとした。

 体の芯から凍りつくような、痛みじゃなくただ震えるという寒さを感じる。

 そこには悲しみもなく、ただただ恐怖しかない。


「な、なんとかならんのか?」


『最初に言いましたが、この世界のバグは今も少しづつ広がり続けて、このまま広がれば他の世界にも影響を与えかねない状態なのです』


「いや、だから、二人を消さずに問題となっている箇所を修正するとか、そういうことはできないのか?」


『それは可能です』


「だったら!」


『可能ですが、とても時間のかかる作業で、その間にバグの侵食スピードが修正を上回ってしまいます』


「そこをなんとか・・・」


 そうか、そうだよな。こいつは最初からそのつもりだったんだ。

 俺に手伝いをお願いしたのも、それが絶対というわけじゃなく、ただ自然に修正できるからだと言っていた。

 元々俺の手伝いが無くても、修正はするつもりだったんだ。


「じゃぁ俺の決断が一生つかなくても良いってのは・・・そういうことか」


『はい、そういうことです、あなたが手を下してくれるのなら、それが最良のデバッグ方法なのですが、この世界にはあなたを待ち続けるほど、時間はありません』


 結局は、俺が手を下そうが下すまいが、この神が手を下す。

 何ともならないなら・・・


「現実はわかった、それは今じゃなきゃだめなのか?」


『良いところに気づきましたね、確かに今消す必要はありません、ですが多くの時間が残されていないのも事実です』


「正確に教えてくれ」


『そうですね、難しい話は省いて言うと、タクヤが今生きている世界の一年半です』


 一年半、たったの18ヶ月。


『タクヤ、あなたが考えている事は私にもわかります、それは・・・あなたが辛くなるだけの選択です』


 消さなきゃいけない対象が、こいつの手で全てを消されるぐらいなら、俺の手で殺したほうが良いんじゃないか、そう考えていた。

 ただ、俺がソレを決断する時、それはきっとギリギリだ。

 そして、その間リリィやルゥルゥと関係を絶っても、一日も忘れる事無く二人のことを考えるだろう。

 いつか殺さなきゃならない相手と同じ時間を過ごし、思い出が積み重なるなんて、ただ辛くなるだけだ。


「わかってる、わかってるけど俺は嫌なんだよ」


 なんだこれは、なんなんだ、理不尽にも程があるだろう。

 リリィとルゥルゥがなんで選ばれた。

 なんで俺は二人と出会ってしまった。


「なんだこのクソゲーは!!」


『私はあなたが一生決心が付かなくても構わないと、そう考えているのは今でも同じです、今だから言いますが、この世界を救うこと、それは副産物です』


 この世界の神が、世界を救うのを副産物だと?


『私の主目的は、あなたを無事に元の世界へ戻すことです、少なくともその時まで、この世界は存在しなければならない』


「世界より俺?」


『その理由を今答えることは出来ません、ですがタクヤを元の世界に返す前に、この世界と戻るべき世界が壊れるぐらいなら、私はその原因を容赦なく排除します。それを分かってもらった上で、一年間の猶予が欲しいと望むのなら、私はタクヤの決断を尊重します』


 なら答えは一つだ。たとえそれが無駄な行為で、むしろただ苦しむだけかもしれないという選択だとしても、今はそれしか選べない。


「どうしたって後悔しか無さそうなら、引き伸ばすぞ」


『そうでしょうね、私もタクヤのことを少しずつ理解してきました』


「俺はお前のことがさっぱりわからん」


 子供っぽく悪態を付くと、見えないあいつがクスクスと笑ったように感じた。


『あなたにとって辛い話ばかりしましたが、私もできれば誰も悲しまないような、そんな世界にしたいと努力しています・・・それだけは覚えておいてください』


「わかったよ、元々はお前も巻き込まれた側だしな」


『ありがとうタクヤ、分からないことが山積みでしょうが、あなたの思うがままに生きなさい、そしていつか決断しなさい、あなたのために』


 そして視界がまた明るくなっていく。

 この手で誰かを殺すなんて御免だ。きっと何か、いい手があるはずだ。

 これからそれを考えよう、今まで使わなかった頭をフル回転させて・・・。


「ウッウッ・・・ダーリンがわいぞう」


「・・・・あれ、ここの神様こんなに可愛い声だっけ」


「こんな残酷な選択を迫られるなんて・・・でも大丈夫!私が全力で慰めてあげるから!」


「あれあれーおかしいなー、復活前なのにイソギンチャクの声がきこえるぞー」


 耳の近くで聞こえるネチャネチャした音、少し生暖かいアレが耳に絡みつくゾワゾワした感覚。


「ああああああああ!やめろ!なんでお前がここに居るんだ!」


 肩に居るであろうそいつを鷲掴み、地面があるであろう足元に投げつける。


『すっかり忘れていましたがその子もイレギュラーでした。消しましょうか?』


「是非お願いします神様、ってかなんでこいつがここにいるんだよ!!」


『だから、イレギュラーですよ、あなたと同じでこの子も復活できるんです』


「やだーダーリンとオソロイなんて相思相a、らめ!もっと踏んで!!」


 力任せに、殺意を持って、踏みつける!

 復活できるなら!殺すことも!できないだろうが!!


「本当にクソゲーだなこの世界!!」

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