―――2

 ありがてぇ、ありがてぇ。

 これでフェンリルの買い取りと、世話になっているアエラやユエールにお礼ができる。

 農場の手伝いをしているとは言え、見ず知らずの俺に住まいを与えてくれたアエラやミーニャには、何時かお礼をしたかったんだ。

 これだけのお金があれば生活も少しは楽になるだろう・・・。


 これなら怪我をした・・・いや正確にはしてないが、痛い思いをした甲斐があるってもんだ。

 思わず笑いがこみ上げてくる、それをみてユエールも微笑み返してくれた。


「それと、ギルドから、お前を《※※※》にしたいという話をもらった」


「・・・・・・なんだって?」


「タクヤ様、《サモナー》です・・・まもの使いと言ったほうが分かりやすいでしょうか」


 察してくれたタッシェルが翻訳してくれる。


「で・・・その、それになると何が変わるんだ?」


「サモナーは、言葉の通り魔物を※※する事が出来る※※のクラスで、仲間を※※するスキルに※※※いる。それから、魔物を※※として国から許される」


 タッシェルに視線を送ると、タッシェルが俺にわかるように説明してくれる。

 すげぇ!自動翻訳機タッシェルさん・・・。


「仲間を助けたりするスキルが得られるのはいいが、その、魔物を奴隷とするってのは」


「サモナークラスを持っている冒険者は稀で、私もよく知らないが、基本的にサモナーは、魔物を奴隷として扱っているそうだ」


 あからさまに嫌そうな顔をする俺を見て、タッシェルがまた察してくれる。


「タクヤ様、サモナーには魔物に命令を強制させる力もございますが、奴隷になさるか、この・・・駄馬のように扱うかは貴方様がお決めになれます」


 駄馬と聞いて憤慨するフェンリルを、ミーニャがドウドウ言いながら撫で回す。

 すぐに大人しくなり鼻息だけが荒くなる・・・やっぱり駄馬じゃねぇか。


「じゃぁ別に奴隷じゃなく、仲間として扱っても良いのか」


「仰せのとおりです」


 そうか、リリィが言っていた魔物を扱う資格ってのはコレのことか。

 日本語と現地語が飛び交う異様な光景、というか俺の頭も言葉でだいぶ混乱してきた。

 ユエールも少し不思議そうな顔をしている。


「とにかく、その、私には理解できないお前の言葉は、魔物の言葉なのだろう?」


「あぁ、俺の生まれた国の言葉でもある」


「その言葉を扱えるのがサモナーの素質で、先程も言ったがサモナーになれる人間は珍しいんだ」


「一つ聞きたいことがある、サモナーは魔法を使えるか?」


 深い理由はない。

 せっかくファンタジーな世界に来たのに、一度は魔法を使いたいという興味だけだ。


「使えるぞ、もちろん専門クラスに比べると劣るが、サモナーは補助魔法を豊富に使えるしな、他の冒険者からも歓迎されるだろう」


「うん、それならサモナーになるよ」


 俺はユエールから受け取った書類にサインすると、ギルドで受け取ったカードが光り輝き、俺の役職の部分が書き換わっていく。


「・・・いきなり何かが変わるって事は無いか」


「そんなことは御座いません、タクヤ様はすでにいくつかのサモナースキルを手に入られています」


 と言われても『タクヤは○○を覚えた!』とか、ログが出るわけでもなし、扱い方もわからない。


「タクヤ、一つだけ、私でも知っているサモナースキルを教えてやろう」


「ぜひ!」


「タクヤは我々から買い取った馬と新しい※※を結ぶ必要がある」


 タッシェルが主従をいう言葉を教えてくれる。


「普通の人間なら書類で済ますが、サモナーなら専用スキルでより強い結びつきが作れる」


「どうすればいい?」


「主従を結ぶ相手の額に手を置いて、相手の種族と名前を唱え、主従の条件を言う」


 ユエールは俺の前に立ち、俺の額に手をおいた。


「我が名はユエール、人の子タクヤは、その生命を懸けて我を守るか?と、こんな感じだ」


「なるほど」


「条件はなんでも良い、ただしこの契約には相手を強制的に従わせるような力はないぞ、あくまで主従を交わすだけで、相手が拒絶すれば契約は成り立たない」


 その方がありがたい。

 相手を無理やり従わせるのはどうも性に合わないし、条件次第では主従と言え縛りも軽くなる。

 俺は痛む体を無理やり立たせて、フェンリルの前に立つ、そして額に手を当てようとすると


「お待ち下さいタクヤ様、その主従の契約、まずはこの私に」


 タッシェルが俺の横に立って、伸ばした手を掴んでくる。


「でしゃばるでない雌犬、初めに約束をしたのはこの我だぞ」


「フェンリルは分かるが、タッシェルは獣人だったな?」


「はい、ウーという犬の獣人でございます」


 初めて会った時から疑問だったが、タッシェルには犬耳も尻尾もない。

 ギルドの猫娘達は猫耳も尻尾もあったし、あれが普通じゃないのか?


「その・・・女の子と契約するとか、背徳感半端ないんですが」


「・・・私の外見を気にされておられるのですね?やはりタクヤ様はお優しい・・・、ご心配は無用です、耳と尻尾は失いましたが私は正真正銘のウーです」


「あ、ああ、外見も気にはしていたが、そもそも獣人と契約できるのか?俺はまもの使いなんだろう?魔物としか契約できないんじゃないのか?」


「私達獣人はれっきとした魔物です、お気になさらずに、さぁ契約を」


 真顔のまま、グイグイと顔を近づけてくるタッシェル。

 深い茶色の大きな瞳と、ツンとした鼻、少し長い黒髪からは太陽の臭がした。


「近い、近いから!とりあえず落ち着け」


 タッシェルの肩を掴んで、無理やり引き剥がす。


「先に約束したのはフェンリルで、タッシェルは二番目だ、いいか?」


 それはもう、不満をそのまま顔に出すタッシェル。

 黙って立っていれば、クールで少し影のある知的な女性なのだが、どうやら子供っぽい性格らしい。


「わ”か”り”ま”し”た”」


 なんだその、歯を食いしばった答えは・・・本当に嫌々だな・・・。


「じゃぁフェンリル・・・・・・おまえ、種族はなんだ?ロリコンか?」


「我が種族はループ、名前はタクヤ殿が与えてくれたフェンリルである」


 フェンリルが静かに顔を下げて目をつぶる。

 俺は改めてフェンリルの額に手を当てると


「俺の名はタクヤ、ループの子フェンリルは俺に愛想を尽かすまで兄弟同様の仲間となるか?」


 そう、口にした。

 するとフェンリルは、大きな目を見開き、大きな口で大きな声を出す。


「兄弟?兄弟と申したか!?」


「お、おぉ、問題があるか」


「命令に従えや、命を賭けろではなく、家族になれと!?」


「何度も繰り返されると恥ずかしいなおい、俺には弟も兄も、家族も婆さん一人だったし・・・なんとなくだよ」


 くっそ、口にすると本当に恥ずかしい。

 恥ずかしいが、条件や契約内容に付いて考えたがコレぐらいしか思いつかなかった。


「タクヤ殿・・・条件の変更を求める」


「あぁ、お前が希望する条件があるならそれでいいぞ」


 フェンリルは目を再び閉じると、少し間を開けて答える。


「我が知る限り、家族とは血の繋がりである。我を兄弟として求めてくれるのであれば、我は身命を賭してその契約をお受けしよう」


「命を賭けると言うのか?」


「我は親や兄弟の顔も知らぬ、同族からは面汚しだ変態だと罵られて生きてきたが、種族も外見も、内面すら超えて受け入れてくれる相手に我は、命ぐらいでしか応えられぬ」


 上手く言葉に出来ないぎこちなさを感じるが、こいつの気持ちは分かる。

 俺も親の顔を知らない、子供の頃は他人から求められたい、誰かから好かれるたいと飢えていたんだろう。

 フェンリルは、衛兵から馬として足を求められて、そしてそれが嬉しくて人を好きになった。

 俺のために命を賭けると、純粋にそう言えるフェンリルの思いが、俺には少し羨ましかった。


「我が名はタクヤ、ループの子フェンリルよ、互いの命が果てるまで我が兄弟となるか?」


「謹んでお受けしよう」


 フェンリルがそう応えると、俺の掌がひかり、その光はフェンリルの額に吸い込まれるように消えていった。


「ふ、ふふふ、ふふふふふ、人間と兄弟・・・我が人間と」


「タクヤ様!早く!私とも契約を!早く!!」


 だから近い!女経験の少ない俺には、その行為自体が凶器なのを理解してください。


「タッシェルも兄弟でいいのか?」


「いえ、私がタクヤ様の横に並ぶなど恐れ多い・・・使用人としてこの身を捧げます」


「使用人ってメイドってことか?その体を賭けるんだぞ、割に合わないだろう」


「いえ!ソレが良いのです!!」


「だからー!近いから!興奮すると近づくのなんとかしてくれ」


 タッシェルは少しだけ顔を赤くして、俺から離れるとスカートの裾を正し小さく咳払いをする。


「主従の関係が私の望む契約です、どうか私のワガママをお許し下さい」


「タッシェルがそう望むなら」


 タッシェルが俺の前まで来て、跪き顔を上げて額を差し出す。


「タッシェルの種族はウーだったな?」


「はいご主人様」


 ご主人様という言葉の破壊力に背中がゾクゾクするな・・・。

 フェンリルと同じように、タッシェルの額に手を当てる。


「我が名はタクヤ、ウーの子タッシェルよ、その身が果てるまで我と主従の関係を交わすか?」


「喜んでお受けいたします」


 同じように掌の光がタッシェルの額に吸い込まれていく。


「ありがとうございますご主人様」


「とりあえず、そのご主人様を止めてくれ・・・恥ずかしくて我慢できん」


「はい、では今後もタクヤ様と」


 俺を見上げるタッシェルは、笑顔だった。

 その屈託のない笑顔に俺も自然と笑顔になった。

 近くに居たユエールも安堵したような、そんな笑顔をしていた。


「お兄ちゃん!私も仲間に入れてよ!契約!」


「ミーニャはもう俺の妹だろー!?」


「そっか・・・そうだよね!」


 フェンリルの側で毛に包まっていたミーニャが俺に飛びついてくる。

 それを受け止めて、ミーニャとグルグル周り、そしてコケた



【GAME OVER】

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